松本人志さんの裁判が盛り上がりに欠け始めた理由とは?(写真:共同通信)

3月28日14時30分、松本人志さんが「週刊文春」の報道で名誉毀損されたとして文藝春秋と編集長に5億5000万円の損害賠償などを求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で行われました。

この日は双方の代理人が出廷した一方で、松本さんは姿を現さず、わずか5分程度で閉廷。文春側が請求棄却を求めて全面的に争う姿勢を示し、松本さん側はA子さん・B子さんの特定を求めるなど、準備書面の確認で終了しました。

今回はこの程度で終わることが分かっていたにもかかわらず、19の一般傍聴席を求めて約36倍の691人が殺到。さらに多くの報道陣が押し寄せ、情報番組がリアルタイムで報じたことなども、注目度の高さを物語っていました。

早速、情報番組やネットメディアは次回以降の流れや争点のほか、「どちらが有利で、どちらが勝ちそうなのか」などを報じていますし、双方の弁護士が積極的に発信するなど、対決ムードを感じさせられます。

しかし、1月から2月にかけてのように「世間の人々がこの件について活発に議論を交わしているか」と言えば、そのようには見えません。両陣営の動きや報道を見て、むしろ「どっちもどっち」「違和感がある」などの冷めたコメントをあげる人が少なくないことに気づかされます。なぜあれだけ世間をにぎわせてきたこの騒動に冷めた目線が生まれているのでしょうか。

両陣営とも発言でイメージダウン

なぜ1〜2月のムードから一転して冷めた目線が増えているのか。

週刊文春の報道がひと段落してネットメディアの記事やSNSのコメントが減るなど、冷却期間が生まれたこと。さらにその間、大谷翔平選手の活躍や元通訳の違法賭博が大々的に報じられていたことなどは、トーンダウンした一因と言っていいでしょう。

ただトーンダウンこそしたものの、松本さんと週刊文春に関する記事やコメントは消えることなく続いていました。「3月28日の第1回口頭弁論まで小休止」というムードがあり、「そのときになれば再び活発な議論が交わされるだろう」という見方をされていたのです。

そんなムードや見方を変えたのが、週刊文春と松本さんの双方が発信したコメントによるイメージダウン。どちらのコメントも、世間の人々に疑問を抱かせ、「どっちもどっち」という冷めた目線につながってしまった感がありました。

まず週刊文春は竹田聖編集長による約45万部完売御礼のコメントに賛否の声が殺到。ネットメディアや情報番組が、過去に週刊文春が敗訴したいくつかのケースや損害賠償額の少なさなどを報じたこともあって、風向きが怪しくなりはじめました。

さらに文藝春秋・新谷学総局長による「彼女の証言だけで裏付ける証拠はない」「刑事事件として立件するのは不可能」「強者に一太刀あびせること自体は大事」などのコメントが報じられると反発の声が続出。報道の正当性をアピールするどころか、そのイメージは一気に悪化していきました。

また、松本さんの大阪での飲み会に参加したという霜月るなさんが週刊文春の報道を否定するコメントを繰り返したほか、サッカー日本代表の伊東純也選手に関する「週刊新潮」の報道に対する批判なども加わって、週刊誌全体に対する不信感が高まっています。

名誉回復に次ぐもう1つの訴訟目的

一方の松本さんも25日、約2カ月半ぶりにXを更新。第1回口頭弁論を目前に控え、「人を笑わせることを志してきました。たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです。ダウンタウン松本人志」というコメントを投稿しました。

当初は松本さんを励ますような声が多かったものの、ネットメディアがこのコメントを記事化すると、徐々にネガティブな反応が増えるなど微妙な雲行きに。「会見どころか何ひとつ話していないのに『主張はかき消され』はおかしい」「テレビでなくネットなら、今すぐお笑いができるはず」などの矛盾点を指摘されてしまいました。

前述したように世間の人々は週刊文春や週刊誌報道そのものに不信感を持ちはじめ、松本さんを擁護するムードが高まっていただけに、再び注目を集める第1回口頭弁論の目前に、このコメントは不用意と言わざるをえないでしょう。もし勝訴するための戦略上、必要なコメントだったとしても賢明とは思えず、「松本さんはひとつ大切な目的を見失っているのでは?」と感じさせるところがあるのです。

松本さんの訴訟目的が名誉の回復であることは、「誌面はいずれかの項全面」、「電子版は判決確定から6カ月」の謝罪広告掲載を求めていることからも間違いないでしょう。そのためには損害賠償額の大小はさておき、何としても勝訴したいところですが、もはや今回の件は「どちらが勝訴したか」だけの問題ではありません。

松本さんが休業という思い切った決断を下したのは、「週刊文春をはじめとする週刊誌全体のあり方に一石を投じ、後輩や業界のために報道を変えていきたい」という、もうひとつの訴訟目的もあったのではないでしょうか。

訴訟の勝敗以上に重要な世間の支持

その意味で松本さんは、もし週刊文春の真実相当性(真実と信じるべき根拠があること)が認められて敗訴したとしても、世間の支持を得ておくことが重要。週刊誌報道を変え、自身の復帰につなげるためには、味方を増やしておくことが求められているのです。

だからこそXの最新投稿は、週刊文春のプラスにこそならないものの、このところ高まっていた擁護や復活を望むムードに水を差してしまった感は否めません。そもそも訴訟の勝敗と松本さんの復帰は必ずしも因果関係があるとは言えないところがあります。

たとえば、仮に松本さんが勝訴して名誉毀損が認められたとしても、「『性加害はなかった』という証明になるか」と言えば話は別。それは逆に敗訴した場合も同様であり、いずれにしても性加害の疑惑を完全に払拭することは難しいからこそ、スポンサーを含む世間の印象をよいものにし、復帰を受け入れるムードを保っておく必要性を感じさせられます。

松本さんが今一度認識しておかなければいけないのは、「復帰に対する是非は、訴訟の結果とは別で、スポンサーを含む世間の人々が判断する」ということ。しかも世間の人々はそのことに気づきはじめていて、松本さんの言動を冷静に見ようとしている感があります。一方で松本さん自身はそのことに気づいていないから、Xにあのような投稿をしてしまうのではないでしょうか。

ちなみにこれは週刊文春にとっても同様。「現在以上の批判を集めず、これまで同様の報道をしていく」ためには、訴訟の勝敗とは別で、世間の理解を得ていくための言動が求められているように見えます。

求められるイメージ回復と失言予防

その意味で松本さんのX投稿は悪手と感じさせられるものでしたが、これは今回だけのことではありません。松本さんは週刊文春の第一報以降、Xに次のコメントを投稿してきましたが、それぞれに気になる点がありました。

12月28日の「いつ辞めても良いと思ってたんやけど…やる気が出てきたなぁ〜。」は、上から目線であるほか、意味深で混乱を誘う言葉だった。

1月5日の「とうとう出たね。。。(LINEのスクリーンショット)」は、十分な証拠とまでは言えないにもかかわらず、人々の印象を誘導するような方法を使った。

同8日の「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす。」は、ふざけている上に、降板した番組を私物化するような書き方だった。

同9日の「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ。」は、後付けの言い訳にしか聞こえないフレーズを使った。

ここ3カ月間、松本さんのXにおける投稿は、そのすべてが悪手でした。特に25日の最新投稿は代理人弁護士を通したコメントであり、だからこそこれまでより殊勝かつ切実な言葉が使われていたのでしょう。しかし、肝心な内容に疑問点が多く、かえって印象を悪化させてしまったように見えます。

それでもまだ週刊文春と週刊誌報道に対する風当たりのほうが強いだけに、松本さんには訴訟で勝つための弁護士とは別に、イメージ回復や失言予防のアドバイザーが必要ではないでしょうか。この点の対策なくして、松本さんが望む形での復帰や、週刊誌報道を変えるという目的は達成しないように見えるのです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)