会社を辞めてフリーランスになったときに発生する、様々なリスクについて解説します(写真:kou/PIXTA)

「会社を辞めたい」と思っている方のなかには、「フリーランスになろう」「独立したい」と思い、特定の組織に属さない働き方を視野に入れている方もいらっしゃるかと思います。

しかしながら、「準備もせず、勢いのまま今すぐ辞めようとすると、数々のリスクが襲ってくる」と、フリーランスの支援を長年続けている税理士の廣岡実氏は言います。

今回はその例として、独立して1年目のAさんに起こった悲劇を、廣岡氏の著書『お金の管理が苦手なフリーランスのための お金と税金のことが90分でわかる本』より一部引用・再編集し、様々なフリーランスのリスクについて解説します。

IT企業から独立したAさんに起こった悲劇

IT企業から独立したAさん。

Aさんはもともと社内ではエース的なエンジニアとして実力と人脈があったので、独立後すぐに仕事の依頼が舞い込み、外注も雇って仕事を回す順調なスタートを切りました。

そんなAさん、初年度の6月に住民税の請求が50万円近く来ました。

住民税は前年度の年収に対して翌年にかかってきます。年収800万円近くあったAさんにとって、この住民税の額は仕方がないものの、心の準備がなかったAさんは驚きました。しかし、退職金などの蓄えもあったため、無事払い終わりました。

その後、月々の売上金額は会社員時代の月収を大きく上回ることができ、Aさんは「やっぱり独立してよかった」と自信を深めました。

最初の年は経費、外注先への支払いがありますが、それ以外の税金などの支払いは特にありませんから、会社員時代のように手元に残ったお金がすべて使えてしまう感覚にとらわれます。

そこに何となく税金対策として聞いていた「経費を使ったほうが所得税は少なくなる」という考えにかられ、派手に飲食代などに使っていました。

問題は翌年3月の確定申告の後です。この確定申告で、初めて昨年はいくらの儲けがあっていくらの税金を納めなければならないのかがわかります。

日常の生活費は「経費」にはなりませんから、計算上の儲けとそれに連なる納めなければならなくなる所得税と、思いのほか減っていた手元の預金残高を見て愕然となります。

さらに愕然とすることは続きます。自動車を購入していたAさんは5月には自動車税があり、6月には住民税と国民健康保険料の納入通知書が届きました。

前年に稼げば稼ぐほどこれらの出費が多くなります。

こうして、Aさんは支払いに奔走する日々に追われることになってしまいました。

フリーランスは毎月のように税金の支払いがある

会社に守られている会社員に比べ、フリーランス、自営業の人は「保障」がほとんどないので、自分で自分の身を守らなければなりません。

会社員は税金類が天引きされたものが給料として振り込まれるので、極端な話、次の給料日まで全部使ってしまっても実質的には問題ありません。

それに対し、フリーランスは翌年に税金の支払いがありますから、調子に乗って手元にあるお金を使い過ぎてしまうと、先のAさんのように、税金の支払いの段階になってから「資金が足りない!」ということになりかねません。

下の図は、税金の支払いスケジュールです。この図を見ると、毎月のように何らかの税金の支払いがあることがわかります。

フリーランスは3月の確定申告で前年1年間の所得を計算し、その年の3月以降に各種税金を納める、という時間差が生まれます。


(画像:『お金の管理が苦手なフリーランスのための お金と税金のことが90分でわかる本』より)

独立起業の最初の試練

つまり、銀行口座にいくら残高があったとしても、税金の支払いが済むまでは実はまだ本当の意味で自分のものになっていない、という感覚を持たないと、支払う分のものまで使ってしまうということになりかねないのです。

人によっては税金専用の口座を作り、入金があったら一定の金額を税金専用の口座に入れている人もいます。使わないようにするための自己防衛策ですね。

1人フリーランスだったらそこまでする必要がないと思いますが、売上が増えて入金や出金が増えてきたらそのぐらいの対策は必要でしょう。

Aさんの例にもあったように、会社を辞めてフリーランスになる場合は、初年度に、前年度の収入に対しての住民税や国民健康保険国民年金の支払いがやってくることに注意が必要です。

フリーランス1年目の場合、Aさんのようにすぐに新しい仕事が入る人は稀でしょうし、事業が思ったほど軌道に乗らないこともあるでしょう。

それでも、税金はやってきます。

独立起業の最初の試練といってもいいでしょう。

会社員時代のように、毎月の給料から引いてもらえるわけでもないので、突然やってくる支払い通知にびっくりしてしまう方も多いようです。

このときに手持ちのお金を用意しておかないと、支払いができず、最悪の場合そのまま廃業ということにもなりかねないのです。

フリーランスには様々なリスクがつきまとう

これ以外にも、フリーランスになると、様々なリスクが付きまといます。
こういうことを想定しておき、できるのであれば会社員のときからしっかりと準備を進めておくことが重要になってくるかと思います。

■不慮の事故や病気で仕事ができなくなったとき

定年を迎える前であっても、不慮の事故や病気で仕事を続けることができなくなることはあります。サラリーマンであれば傷病手当金の支給もあるでしょうし、勤務中のけがや疾病で一定の基準を満たせば「公傷病休暇」が認められ、休業中の収入なども補償されますが、フリーランスの場合、基本的にこうした補償制度はありません。

仕事を休んでしまえばとたんに収入がなくなりますし、しばらく休んでから仕事を再開したとしても、今までやっていた仕事にそのまま復帰できるとも限らないのです。

これはフリーランスにとって大きなリスクになります。

■取引先倒産のリスク

取引先数が1社という場合も少なくありません。しかし、その頼みの綱が倒産した場合、共倒れとなるリスクがあります。

■従業員退職のリスク

店をやっていたり、会社経営で人を雇っている場合、意外と深刻な影響を及ぼすのが、有能な従業員の突然の退職です。または病気や怪我での突然の長期欠勤。一時的に経営者や他の人がバックアップできるように、経営者や幹部は最低限の現場の仕事を忘れないようにする必要があります。

■災害のリスク

これはある意味で避けようがありませんが、警備保障会社を活用するとか、常に備蓄をするとか、できることはしておく必要があります。

■健康のリスク

長く安定的に仕事を続けていくために何よりも大切なのは健康です。フリーランスは、自分で仕事を獲得する必要があるので、体調を崩すとダイレクトに収入の低下につながってしまいます。会社員のような有給休暇もないので、自分自身でしっかりと健康管理をすることが大事です。また、これも「もし健康を害してしまった場合にどうするか?」という対策を考えておくことも必要です。

生命保険や傷害保険を整えておくとか、業務を分散しておくとか、重要な事項は記録簿を作っておくなどをしておくことも大事です。私自身は仮に自分が3カ月入院しても業務が停滞しないように同業者との連携や従業員への一部権限移譲や、緊急時の連絡先を整えておくなど、仕組みを考えています。

お金を増やすために日々行動することが重要

いずれにしてもこれらのリスクが生じてもなんとか事業が続けられるカギは「潤沢に現金預金をもつ」ことです。いうまでもなく、事業というのは資金さえあれば赤字だろうが開店休業だろうが続けられます。


近年の大災害やコロナ禍の明暗を分けたのも、「使える資金がどれだけ確保できていたか?」でした。何をおいてもお金が重要になってきます。

サラリーマンを辞める前に、まずは、そのような余裕資金を蓄えられているか、考えておくことが重要だと思います。

前述した通り、フリーランスや個人事業主の方の現状は厳しいことがあるのは確かですが、それでもそこで身につく「自己実現」「仕事を通じて身につく知識や経験」「自分ひとりで生きていく術」は会社員をやっているだけでは得られないことです。

しっかりとどのように生きたいか? 働きたいか?を考えて、そのうえでフリーランスという働き方を選べるのであれば、より充実した未来が待っているのではないでしょうか。

(廣岡 実 : 税理士法人TOTAL神田事務所所長・税理士)