ナイキ とアディダスの売上減と人員削減が意味する、スニーカー市場の変化。注目は「スニーカーラボ」の存在
ナイキ(Nike)とアディダス(Adidas)の2023年度第3四半期の売上高は、前年同期比でそれぞれ5%と6.4%減少しており、スニーカー市場では十分なサービスが提供されていないホワイトスペースが拡大している。2月中旬にはナイキが全社で1600人の従業員を解雇することが報じられ、昨年にはベトナムにあるアディダスのメーカーが6000人以上の人員削減を行った。
細分化が進むスニーカー市場にあるホワイトスペース
この市場を2010年から2020年にかけて推進させたのは再販市場であり、2019年には再販市場だけで60億ドル(約9025億円)の価値があった。しかし、ストックX(StockX)で発売された100点以上の人気スニーカーを分析したところ、再販市場の収益性の変化が浮き彫りになった。アクシオス(Axios)の報告によると、これらのスニーカーの2022年の平均価格収益率はマイナス7%で、2021年に見られた平均価格の上昇率23%とは対照的だった。
フィラデルフィアで開催された年次スニーカーカンファレンスであるスニーカーコン(Sneaker Con)で、2月18日、大統領候補のドナルド・トランプ氏が399ドル(約6万円)のゴールドスニーカーを発表した際、スニーカー市場の1分野である「スニーカーラボ」が注目を浴びた。
これを制作したのは、スニーカーラボの45フットウェア(45Footwear LLC)で、同ラボはCICベンチャーズ社(CIC Ventures LLC)からトランプ氏の名前と画像のライセンスを取得した。45フットウェアをはじめとする、スニーカーのアイデア・生産・流通を再定義する「スニーカーラボ」と「インキュベーター」の分野は成長中だ。これは、大手ブランドが需要を創出するために有名セレブらと提携し、スニーカー市場が細分化しつつあるなかでの現象である。
Yeezyでの経験を生かすベイリー氏のファクトリーラボ
こうしたインキュベーターのなかには、従来のスニーカー市場での経歴を持つ創業者が立ち上げたものもある。たとえば、ロサンゼルスを拠点とするスニーカー制作ラボ、ファクトリーラボ(FCTRY Lab)だ。創業者であるオマール・ベイリー氏は、ニューバランス(New Balance)やKスイス(K Swiss)、アディダスで働いた経験がある。創業2年の同社はベンチャー資金でこれまでに600万ドル(約9億円)を調達している。同社は収益の開示は控えた。
ファクトリーラボはベイリー氏が、(音楽プロデューサー兼ラッパーとしても活躍しているカニエ・ウェストが手掛けたブランドである)Yeezyを去ったあとに設立され、同氏はYeezyのためにスニーカーのアイデア着想に特化した米国初の施設を立ち上げたのだと語った。
「カニエ・ウェストは、(カリフォルニア州)カラバサスの自宅からそれほど遠くない国内施設を希望していた。プロトタイプを開発でき、アイデアを出して、すぐにシューズを作れるような場所を」とベイリー氏は話す。「フィードバックをすぐに出せて、クリエイティブプロセスに関与して、市場に出す前に最終決定を下せるような場所が望まれていた」。
ベイリー氏はYeezyのイノベーションラボ責任者を3年務め、収益を8億ドル(約1204億円)から30億ドル(約4514億円)までに成長させた。カニエとYeezyの避けられなかった破綻について、「正直なところ、終わりに向かっているのはわかっていた。内部状況はあまりよくないようだった」と同氏は語った。
そこでベイリー氏は、Yeezyのためにはじめたスニーカー生産体制を引き継いで、さらに広い市場に開放した。インフルエンサーカルチャーが成長し、ナイキがすでに複数のセレブとスニーカー提携を開始していた頃だ。だが同氏によると、スニーカーのローンチを検討している新進気鋭のアスリートやセレブ、インフルエンサーに対応している企業はなかったという。
「我々は今、興味深い交差点にいる。シューズ分野では変化が起きている。30年前にシューズビジネスに参入しようと思ったら、フットロッカー(Foot Locker)などの大手小売店と提携して、2万から4万足の靴を製造しなければならなかった」とベイリー氏は言う。もはやその必要はない。
ファクトリーラボの活動と今後
ファクトリーラボは収益分割モデルを活用して、提携パートナーの特徴や個性を表現したスニーカーブランドを生み出している。「(セレブの)誰もが、テキーラブランド、自身のワインやTシャツコレクション、または帽子のラインナップなどを持っている」とベイリー氏は話す。「多くの人が自分だけのシューズを欲しがっているが、スニーカーの機会には大きなギャップがある。大手ブランドではKPIを考慮しているため、その機会がない。大手の場合はビッグスターだけが大きな契約を獲得できる」。
ファクトリーラボは、昨年12月にマイアミ・ドルフィンズ所属のコーナーバック、ジェイレン・ラムジー選手と、今年2月にはサンフランシスコ・49ers所属のオフェンシブタックル、トレント・ウィリアムズ選手と提携してカスタムシューズの制作に取り組んだ。選手たちから同社にアプローチしたという。ファクトリーラボがシューズのコンセプトから少量限定生産での販売にいたるまですべてを担当し、シューズはファクトリーラボのeコマースサイトで販売された。ラムジー選手はインスタグラムで160万人、ウィリアムズ選手は45万人のフォロワーを抱えている。
「これは私がただスケッチして、(選手らに)承認してもらっただけというようなシューズではない。彼らは実際に我々のラボに足を運んでいる。プロトタイプを見せながらじっくりとクリエイティブな話を交わして、その後3Dプリントを行った。もし彼らが希望するなら、自分でミシンを操作することだってできる」。生産はロサンゼルスのスタジオと中国で行われている。
ベイリー氏によると、ファクトリーラボのセレブリティパートナーのファンコミュニティには、商品を入手するだけではなく、商品がどのように作られているかという舞台裏を見たがる人が多いのだという。たとえば、シューズのフォームがどのように作られているかについてのインスタグラムのリール投稿は1.5万回再生されている。
ファクトリーラボの場合、商品のプロトタイピングは2カ月、生産・出荷・納品は合わせて1カ月半から3カ月かかる。コストは、シューズが3Dプリントされたものか、従来のスニーカーのように複合部品で作られたものかによって異なる。
ファクトリーラボは4月、デザインパートナーであるフレッド・シーガル氏と共に、コーチェラで女性用スニーカーを発表する予定だ。今後のスニーカーパートナーシップについては、2028年のオリンピックと2026年の米国でのFIFAワールドカップに向けて、世界のアスリートたちと交渉を進めているという。
セレブリティとのパートナーシップは、新しいスニーカーラボにとってもっとも自然なパートナーシップモデルであるが、そのほかのモデルも続々と誕生している。そのなかには、デジタルファッションデザイナーとのコラボレーションに注力している企業の例もある。
新進フットウェアデザイナーを支援するシロッコ
シャルフーブグループ(Chalhoub Group)は昨年12月、初のフィジタルフットウェアブランド、シロッコ(Sirocco)を設立した。同グループは、中東でLVMHブランドを含む200以上のブランドを取り扱うラグジュアリー小売・販売代理店を70年近く経営している。このフィジタルシューズブランドの立ち上げは、創業1年のWeb3ネイティブスニーカー会社であるソウルメイツ(Sol3mates)とフランス人デザイナーのカシミ・ラタメン氏とのコラボレーションが中心だった。ラタメン氏は、2020年からコンセプトスニーカーのアイデアをレンダリングしてインスタグラムに投稿しており、そのニッチなコミュニティを10万人のフォロワーを抱えるまでに成長させている。
このプロジェクトのために、ラタメン氏は同氏の象徴である異質な感性とライフスタイルシューズの特性を組み合わせた3D成形のフィジカルシューズを制作した。このシューズは、ソウルメイツが2023年4月にローンチしたNFT形式でのデジタルシューズ販売を通じて予約注文することができた。ソウルメイツは販売期間中に2200点以上のNFTを0.03イーサリアム(58ドル、約8700円)で鋳造し、12万8000ドル(約1929万円)以上を売り上げた。
このNFTを購入した顧客は、ソウルメイツの商品に対して永続的に先行アクセスが得られるほか、割引や送料無料サービスも付与され、また毎月の注目スニーカーへのプレゼントにも応募できるようになる。将来的には、スニーカー内蔵の近距離無線通信タグによって獲得できるトークンに基づき、顧客のロイヤリティや購入に対して報酬を還元する予定である。
500足のフィジカルスニーカーは、12月にNFT保有者に340ドル(約5.1万円)で販売された。400足が売れて、ソウルメイツの収益は13万6000ドル(約2050万円)に達した。また、NFTがなくても購入できるフィジカルスニーカーも、同社eコマースサイトで少数販売された。
シャルフーブグループのコーポレートイノベーションディレクターであるニック・ヴィンキア氏は、シロッコの狙いはソウルメイツの枠組み内で活動する新進フットウェアデザイナーに注目し、支援することだと語った。同氏はソウルメイツの収益については明言を控えた。
「(デザイナーやイノベーターと)何度か話し合ったあと、Web3のパワーとデザイナーズスニーカーの可能性を組み合わせることで、フットウェアに新たなムーブメントを巻き起こせることがはっきりした。我々は音楽アーティストにとっての音楽レーベルと同じように、スニーカーレーベルとしてソウルメイツを立ち上げたのだ」。
スニーカーラボの可能性
ソウルメイツは厳選されたデジタルデザイナーによるブランド設立を支援しており、ブランドはシャルフーブグループが共同所有している。「我々は生産・法務・マーケティング・管理・コミュニティ構築・卸売などの面で支援を提供するため、デザイナーは自身のデザインに集中し、コミュニティの成長を確かめるだけでいい」とヴィンキア氏は話す。
これらの事業では、シャルフーブグループとソウルメイツが株式の過半数を所有し、デザイナーは最大14%の少数株式を所有している。多くのWeb3プロジェクトと同様に、スニーカーはさまざまなレベルのレア度で提供される。希少性の高いスニーカーには、ソウルメイツが次に取り組むべきプロジェクトに対する投票権や体験が顧客に与えられる。
「コミュニティ、特にDiscord(ディスコード)とTwitterの人々は非常に率直だ。ひどいものだったら、すぐにそうだと我々に教えてくれる」とヴィンキア氏は言う。ソウルメイツにはX(旧Twitter)で6900人のフォロワーがいる。
「ドロップによる過剰生産を避けるために、毎シーズン大規模なコレクションを発表することはない。我々はシーズンを選ばずに、できるだけ多くのオーダーメイド(商品)を手がけていきたい」。
チャルフーブグループは、アトモスジャパン(Atmos Japan)、アラブ首長国連邦のレベルシューズ(Level Shoes)、アブダビのトリアーノ(Tryano)、ドーハのギャラリーラファイエット(Galleries Lafayette)といった百貨店を通じてスニーカーラインを販売することに将来的なチャンスを見出している。同グループは、2024年に向けてパイプラインで採用したデザイナーによるコラボレーションをさらに2つ準備しており、9月と11月にローンチされる予定だ。
ヴィンキア氏とベイリー氏によると、デジタルデザイナーやアスリート、インフルエンサーの成長により、スニーカーラボが開拓できる大きな市場が存在するという。
「大手ブランドにとって、そのような市場すべてを満たす方法を模索するのははるかに困難になるだろう。20年前であれば、複数グループに対して広く対応して同じ商品を売ることは非常に簡単だったが、今では何を売りたいのかについて、より注意深く考えなければならない」とベイリー氏は語る。
[原文:Fashion Briefing: How sneaker labs and incubators are changing the industry]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:都築成果)
