薄皮シリーズで新たに総菜シリーズが誕生、さらに節約需要をとらえられるか(記者撮影)

ロングセラー商品が、発売37年目にして最盛期を迎えている。山崎製パンの総菜パン「まるごとソーセージ」だ。1987年の発売以来、定番商品として親しまれてきたが、2023年に過去最高の売り上げを記録した。

まるごとソーセージの店頭価格は150円前後、カロリーは1個当たり396キロある。ふんわりとした大きめのパンに、ソーセージをまるごと一本載せたボリューム感が売りの主力商品だ。

この2年ほど、原材料高や包材高、円安の影響で多くの食品が値上げラッシュとなった。一方で思うように賃金が上昇しない中、消費者の節約志向は強まっている。まるごとソーセージの人気からは、そんな購買行動が浮かび上がる。

総菜パンの人気が高まる

山崎製パンの業績を牽引するのは菓子パンだ。2023年の売上高1兆1756億円のうち4333億円(構成比36.9%)を占め、調理パン・米飯類(13%)、洋菓子(12.9%)を大きく上回る。

2023年は菓子パンの売上高を14%も伸ばした。子会社が増えたことや値上げ影響に加えて、4%の数量増加が貢献している。

最大勢力の菓子パンの中で売り上げトップを誇るのが、まるごとソーセージだ。圧倒的なコストパフォーマンスが支持されて、不動の人気を誇る(同社の菓子パンとして10年連続で1位)。

ちなみに2位は薄皮つぶあんぱん、3位薄皮クリームパン、4位ランチパック(たまご)、5位コッペパン(ジャム&マーガリン)、6位ランチパック(ピーナッツ)という顔ぶれになっている。

まるごとソーセージが好調な背景には、昼食などに選ばれる回数が増えていることがある。飲食店のランチやコンビニ商品の価格が上昇する中、菓子パン2個と飲み物の組み合わせならボリュームを重視しつつ500円以内に収められる。

さらにコロナ禍の影響が薄れ、外出が増加したことで持ち歩ける菓子パンの需要が伸びた面もある。

ランチパック(たまご)が人気を集めるのも同様の理由で、ランチ朝食として購入する人が増えている。コロナ禍前の2019年時点では、ランチパックのピーナッツがたまごの数量をわずかに上回っていたが、2021年以降はたまごが逆転した。安くて手軽に食べられる総菜系パンの需要は高まっているようだ。

「薄皮シリーズ」が進化した

こうした変化を踏まえて山崎製パンでは、総菜パンのさらなる強化を進めている。

人気の薄皮シリーズは、つぶあんやクリーム、ピーナッツなどの定番に加え「りんご入りカスタード」「生キャラメルクリーム」など、甘口のフィリング(詰め物)が中心だ。食事よりも軽食、おやつといった側面が強かった。

しかし1月には、新たなフィリングとして「ハンバーグ&ケチャップ」、「たまご」を投入。2月は「ポテトサラダ」「ナポリタン」など、本格的に総菜のフィリングを発売。これらのラインナップを「薄皮グルメシリーズ」として展開する。食事のための総菜パンという位置づけだ。

食品の値上げラッシュは落ち着いてきたものの、消費者の節約へのニーズは強い。ボリュームのある総菜パンを拡充し、さらに節約需要を取り込めるかが、2024年のテーマになりそうだ。

新製品開発にとどまらず、主力製品の見直しにも力を入れている。たとえばメロンパンの重量をアップするなど、満足感や食べ応えを重視する姿勢を徹底する。

発売40周年のランチパックでは、通常の食パンよりも厚切りのパン、ボリューミーな具材を入れた新商品を投入。4種類の味を楽しめる商品、国産果実のジャムを使用した商品なども打ち出した。フルーツジャムは訪日外国人にアピールする狙いもある。

背景には主原料である小麦粉の価格が下がったことがある。価格は下げずに採算を重視しつつも、消費者を逃がさないようマイナーチェンジで商品力を磨く。ボリュームだけでなく女性開発者による新商品も広げるなど、攻めの商品開発を行っている。

ここには飯島延浩社長の「顧客の支持を得て、採算もとれる商品を作ろう」という指示が影響している。以前は「しっかり原価をかけて商品を開発する」方針だったが、世間の価値観も変化しつつある。より自由な発想で開発を進めようというわけだ。

飯島社長の長男・副社長に代表権

2024年、山崎製パンは売上高が前期比4%増の1兆2230億円、営業利益は同14%増の480億円を見込んでいる。油脂や砂糖、包装資材など原材料高の影響はまだ残るが、自社の商品に加え、コンビニ向けなどで新商品を投入し、単価を底上げしていく構えだ。


開催中の「春のパンまつり」は1981年開始で40年以上の歴史を誇る。ランチパック(1984年発売)や、コッペパン(1986年発売)よりも歴史は長い(記者撮影)

子会社群も、ケーキの不二家や調理パン、米飯、総菜を手がけるサンデリカ、ベーカリーのヴィ・ド・フランスなどがそれぞれ改善し、業績を押し上げる計画になっている。

さらに3月28日付で、飯島幹雄副社長(57)に代表権が付く人事も発表した。82歳の飯島社長の長男であり、会社側は公式に説明していないが、次期経営トップ人事のメドが付いたとみてよいだろう。

消費者の変化をとらえ、大胆な商品戦略に舵を切る山崎製パン。課題だった原料高も落ち着き、次期経営体制にも布石を打った。2024年は一段の成長を試す1年となりそうだ。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)