J1リーグ2024シーズン
中谷進之介インタビュー(ガンバ大阪/DF)


今季ガンバ大阪に加入した中谷進之介。photo by Takamura Misa

 その適応力に驚かされたのは、1月12日の始動日だ。

 期限付き移籍からの復帰を含む13名もの新たな選手が加わったガンバ大阪は、昨年までとは大きく雰囲気を変えていた。そんなチームの中心で声を出し、仲間を盛り上げていたのが、今季名古屋グランパスから完全移籍で加入した中谷進之介だった。本人に「溶け込むのが早いですね」と声をかけると、「いやいや、まだまだ新参者です」と表情を崩した。

「ガンバの選手はみんないい人ばかりで。先輩も(僕より上は)そんなに数は多くないけど、みんな優しくしてくれますし、後輩もみんなガツガツくるというか、喋りかけてくれる選手も多い。なんか、僕もすごく過ごしやすかったです」

 その日の夜には、新加入選手7人で食事にも出かけたそうだ。

「新加入選手は夜に新体制発表のイベントに参加していたので、その流れで『行こうか』って話になって。最初、(鈴木)徳真(セレッソ大阪→)と『終わったら、飯行く?』みたいな話をしてしたら『俺も、俺も!』みたいになって、結局7人で焼肉に行きました。親睦を深められてよかったです(笑)」

 以降も練習を取材するたびに、グラウンドでは中谷の声がよく響いた。沖縄キャンプでもベテラン、若手を問わず、いろんな選手とコミュニケーションを取っている姿が見受けられ、1月末には副キャプテンに指名される。ダニエル・ポヤトス監督からも、そのリーダーシップに信頼を寄せられている。

「シン(中谷)はリーダーシップがあって、ピッチ上でチームに安心感を与えられる選手。僕自身、昨年からガンバの近年の流れを変えることを目標のひとつにしているので、新加入選手を副キャプテンに据えて、新しい風を吹かせたかったという狙いもありました」(ポヤトス監督)

 本人も名古屋時代に副キャプテンを預かった経験も活かし、キャプテンを支え、チームを引っ張ると決意を口にした。

「オファーをいただいた時からリーダーシップにも期待してもらっていたなかで、そこは当たり前にやる必要があると思っていましたが、副キャプテンを任されてより一層、(宇佐美)貴史くんを支えながらチームを引っ張っていけるひとりになれたらいいなと思っています。特に、このチームに必要だと感じている"喋ること"は意識してやっていきたいし、みんながそこに乗っかってきてくれて、自然と声が飛び交うような雰囲気が作れれば理想です」

 昨年まで6シーズンにわたって在籍し、主軸として活躍した名古屋を離れる決断をしたのは、自身の現状に危機感を覚えたからだという。

「グランパスは、僕にとってすごく居心地のいいクラブでした。家族も、僕も、すごく満足のいく環境でサッカーをさせてもらっていたし、『このままここに居つくだろうな』と思っていた時期もありました。

 ただ、年齢的に海外移籍は難しくなっている現実も踏まえ、このままずっと居心地のいい場所にいて成長を求められるのかを考えた時に、環境を変えてチャレンジしなきゃいけないという思いが強くなりました」

 移籍先にガンバを選んだのは、クラブの規模に魅力を感じたことと「さらなる成長を求めるため」だ。ただ、サッカースタイルはあまり気にならなかったという。理由は明白だ。

「柏レイソルアカデミーや、同トップチームでプレーしていた時は、監督によってはダニ(ポヤトス監督)と似たようなサッカーをしていた時期もあったし、グランパスではそれともまたぜんぜん違うサッカーをしていましたが、正直、僕のなかで戦い方やサッカースタイルは、移籍先を選ぶにあたってあまり気にならなかったです。

 というのも、プロキャリアを積み上げるなかでは、どんなサッカーをするのか以上に、それを勝ちにつなげられるかが大事だと考えるようになったから。そういう意味では、ガンバでもダニのサッカーを勝利につなげるための仕事をしたいと思っています」

 センターバックとして意識するのは、「確実に失点数を減らすこと」。昨年のガンバはJ1リーグ戦でワーストタイの失点数(61)を数えたことはもちろん、不用意な失点が攻撃の足枷になっていたという印象があるからだ。

「グランパスでも、2020年、2022年の2シーズンはJ1リーグで一番失点数が少なかったというように、これまでの僕はどちらかというと失点数が少ないチームでプレーしてきました。その僕がガンバにきて、どれだけ失点を減らすことに貢献できるか。ある意味、センターバックとしての真価を試されるシーズンになると思っています。

 ダニのサッカーでは、ボールを持ちながら前進することで守備のリスクを減らすという狙いが第一にあるので、まずはそのサッカーをピッチに立つ全員が自信を持ってやれるかが肝になってくるし、そのためのコンパクトな陣形は不可欠だと考えています」

 また、相手も策を講じてくるなかでは、常に自分たちが主導権を握って進められる時間帯ばかりではないからこそ、チームとして意思統一を図ることの大切さを強調した。

「昨年のガンバとの対戦を思い返すと、試合のなかですごく間伸びしていく感じがあったし、それは他の試合を見ていてもしかりで......。そうなると、攻守にどっちつかずの展開になって、結局やりたいことの半分もできなかった、ということになりかねない。

 だからこそ、チーム全体での意思統一はすごく大事になると思っています。前線の選手は攻撃に行きたい、でも、後ろの選手は失点するのが怖いからラインを上げられない、ではなく、(攻撃に)行くなら、後ろも思いきってラインを上げて全員でトライするべきだし、行けないなら全員で割りきって下がってリトリートすることも必要になる。

 そういった意思統一をしながら試合を進めるためにも、お互いが声を掛け合って、みんなが状況を感じてプレーできるチームになっていきたいし、それができれば失点を減らしながら攻撃の時間も増やしていけると思っています」

 もちろん、移籍の決断にもつながった自身の成長も意識しながら。

「これまで『若い、若い』と言われながら試合に出てきましたけど、気づいたらもう28歳なので。ここからもうひと伸びするためにも、日々の練習からいろんな刺激を自分の力にして、ひたむきに努力を続けなければいけない。

 この世界では常に100%の準備をして練習に臨み、全力でサッカーに向き合い続けられる選手がやっぱり強いし、結果も残している。当たり前のことですけど、そこは今後も真摯にやり続けたいし、何より僕はサッカーが好きなので。よりサッカーを楽しむために、新たなコーチングスタッフ、選手との出会いを通してサッカー観を広げながら、人間的にも成長していきたいと思っています」

 目標はチームが掲げる『J1リーグでの7位以上』をマストで実現することと、ユニフォームの左胸に並ぶ星の数を増やすこと(=タイトルを獲得すること)。ホーム、パナソニックスタジアム吹田でのプレーにも思いを馳せた。

「2021年にパナスタで日本代表のカタールW杯アジア二次予選、タジキスタン戦が行なわれた際、練習を含めてガンバの施設を使わせてもらったんです。その時に、スタジアムの中にクラブハウスがあって、すぐ隣には練習場が二面あるという環境を体感して、『めちゃめちゃいいクラブだな』って思ったし、スタジアムにもすごくいい印象があった。

 そのことが頭に残っていたことも、実は今回の移籍に気持ちが動いた理由のひとつでした。というのも、僕は以前からプロサッカー選手にとって、スタジアムは本当に大事な要素だと思っているから。

 スタジアムが満杯に膨れ上がった時の地鳴りのような応援、スタンドから溢れ出てくる感情は、間違いなく僕たちを後押ししてくれる力になる。しかも、大阪の人たちはかなり熱いと聞いているので。早くその熱に触れたいし、僕自身も皆さんに認めてもらえるようなプレーをしなければいけないと思っています」

 今年の元日には祖父母が住む石川県珠洲市が能登半島地震の被害に遭ったことを受け、自身のSNSで被災地を慮る発信をしていた中谷。今も避難所生活が続く祖父母に心を寄せながら過ごしていると聞く。

「僕にできることは、サッカーを頑張っていいニュースを届けること。そんな大それた力が自分にあるとは思っていないので、まずはじいちゃんやばあちゃん、その友だちとか近所のみなさんに元気になってもらえたらうれしいな、喜ぶニュースを届けられたらいいなって思っています。そういう意味では、今シーズンはガンバを応援してくれる人たち、僕を応援してくれる人たちはもちろん、震災で苦しむ人たちのためにも結果を届けられるシーズンにしたいです」

 新たに芽生えたプロサッカー選手としての使命を胸に、自身の成長を勝利につなげることを胸に誓った中谷の新たなチャレンジが始まった。

中谷進之介(なかたに・しんのすけ)
1996年3月24日生まれ。千葉県出身。ガンバ大阪所属のDF。柏レイソルのアカデミーで育ち、2014年にトップチームに昇格。3年目にはレギュラーに定着。2018年6月に名古屋グランパスに完全移籍し、主力として活躍した。そして2024シーズン、ガンバ大阪に完全移籍。さらなる躍進を誓う。