TikTokは、より多くの売り手をTikTok Shopに呼び込む試みとして、より広い範囲に狙いを定めている。

ハンドメイド作品のマーケットプレイスEtsy(エッツィー)のある売り手は最近、TikTok Shopへの招待メールを受け取ったと米モダンリテールに語った。招待メールには、TikTokがEtsyの売り手をより多く獲得しようとしているとは明確には記されていなかったものの、TikTokがEtsyのようなほかのアプリやマーケットプレイスですでに強い存在感を持つ売り手を求めていることは明らかだ。

TikTok Shopをどうするか、すなわち去るか、参加するか、無視するかは、Etsyの売り手向けフォーラムにおいて大きな話題となっている。ここ数年、一部のEtsyの売り手のあいだで、Etsyの取引手数料の高騰や、広告を出したり割引を提供することへの圧力が高まっていることに対して不満が増している。しかし、TikTokのようなトレンドに特化した動画を中心とするプラットフォームで、Etsyの売り手がどれだけうまく商売を行えるのかという懸念も高まっている。ある売り手がEtsyの売り手向けフォーラムで記したところでは、TikTok Shopは売り手がバイラルコンテンツを作成し、現在のトレンドにあった商品を提供できるかどうかによって、「すばらしいものにも、まったく役に立たないものにもなり得る」という。

プラットフォームの影響力の大きさでアピール



ファッションがメインのブランドに最近送られた招待メールによれば、TikTokプラットフォームはマーチャント(加盟店)に対して、ビジネスを成長させるためにTikTok Shopに加入することを勧めている。招待メールのなかで、TikTokはその大規模なユーザーベースと、TikTokユーザーの83%が購入決定への影響を(TikTokから)受けていると回答した社内レポートを引用し、TikTokというソーシャルプラットフォームがユーザーのショッピング動向に与える影響力を誇っている。またこのメールでは、TikTok Shopでの販売を通じて、ライブショッピングでの25万ドル(約3730万円)を含む50万ドル(約7450万円)の売上を生み出したブティックのオーナーの話も紹介されている。

TikTok Shopで販売を行う小規模な企業をより増やそうとする勧誘の動きとともに、TikTokはアップロードされたコンテンツのほとんどをショッパブルポスト(買い物できる投稿)に変換するツールを開発中だ。

「あなたのファッションアイテムやブランドがTikTok Shopをさらに発展させると確信している。未来の顧客は、TikTokでお気に入りの動画やクリエイターを通して新商品を見つける。あなたのブランドやその商品を、世界でもっとも急速に成長しているTikTokコミュニティで見つけられるようにしよう」と招待メールには書いてある。これらの企業がTikTok内でマーケティングや販売を行い、コンテンツを作成し、アプリ上で直接商品を販売できるようにするという構想だ。「商品をショッパブルポストに追加し、プロフィールに商品のショーケースを追加して、ライブショッピングで販売しよう!」と、TikTokはメッセージで訴えている。

自身のアカウントページを通じてEtsyとShopify(ショッピファイ)のストアにトラフィックを集めているあるTikTokユーザーは、TikTokが商品リンクを宣伝するアカウントを探しており、それらのマーチャントに対してTikTok Shopに参加するよう招待しているのではないかと推測している。「TikTokは単にあらゆるストアにメッセージを送って、誰かが反応するのを待っているのだと思う」と、この中小企業のオーナーは語る。たとえば前述の招待メールは、同じ週のうちに、EtsyとShopifyのそれぞれ別々のアドレスを含む、このオーナーのすべてのeコマースストアフロントに届いた。

テスト段階にあるTikTok Shopへの反応



しかし、このオーナーは、TikTokとEtsyではモデルが異なっているため、TikTok Shopがまだ初期段階である現在は参加することを躊躇していると語る。TikTokでは、動画での成功が売上にはるかに大きな影響を与える。

「TikTokのモデルでは、プロモーション用のコンテンツの作成、販売動画、ライブストリームでの販売、eコマースのオンラインチェックアウトをすべて自分で行うことになる」。

TikTokの規約によると、注文総額の一定割合をTikTokが受け取ることになっている。「TikTok Shopは現在、米国において早期テスト段階であり、手数料は今後更新される予定である」と、TikTokのウェブサイトには記されている。

TikTok Shopへの参加は、Etsyの一部のマーチャント、特に同プラットフォーム上で「Temu-esq(ティームー[Temu]のような)」活動との競合に懸念している人々のあいだで議論を巻き起こしている。あるEtsyの売り手はEtsyのコミュニティフォーラムで、「TikTokではトレンドの活用がもっとも重視されているが、Etsyの売り手の多くはTikTokの最新のトレンドに対抗しているわけではない」と、2つのプラットフォームの対照的なモデルに言及している。

またTikTok Shopには、Etsyのストアではあまり問題とならない時間制限の要素もある。

「TikTokには注文を受けてから3日以内にすべての発送とフルフィルメントを終わらせるという厳格な規則があり、これを守れないとストアが閉鎖される。これは単にラベルを印刷するというだけではなく、ガイドラインに沿って発送を完了する必要がある」と、米モダンリテールと話したEtsyの売り手は語った。

中小規模のマーチャントを増やす



TikTok Shopの大きな魅力は、小規模のビジネスやマーチャントでも、理論上、数百万人ものユーザーにリーチする機会を得られるということだ。TikTokは2023年時点で、米国だけで1億5000万人以上のユーザー数を誇っている。これに対してEtsyは、最新の決算報告の時点で「アクティブバイヤー」が9200万人だと発表している。

メディア・アズ+コマース(Media, Ads + Commerce)の独立アナリストであるアンドリュー・リプスマン氏は、TikTokは大手小売業者を自社のeコマースマーケットプレイスに誘致するために多くの労力を注いでいるものの、長期的なチャンスは中小規模のマーチャントを増やすことにあると米モダンリテールに語った。

EtsyがTikTokを含むほかのソーシャルメディアプラットフォームから自社ストアにトラフィックを呼び寄せることを、自社マーチャントに対して推奨していることも、小規模マーチャント獲得に向けた舞台裏での努力に繋がっている。一方で、「TikTokからのメッセージは、ライブショッピングの要素と大規模なオーディエンスへのリーチを活用しようということだ」とリプスマン氏は話す。

「これらすべてが、TikTok Shopがマーケットプレイスの構築について抱いている願望を明らかにし始めている」とリプスマン氏はいう。「現在のところTikTokのeコマースにおける影響力は、特定の商品やブランドの露出を増やして広めることが主な狙いだが、やがてアプリ内ショッピングが主流となるだろう」。

TikTokのオンボーディングが十分にスムーズになり、誰でもTikTok Shopを活用できるようになったとしても、マーケットプレイスが大規模ならノイズも大きくなる。「売り手の数が増えれば増えるほど、コンテンツの管理は難しくなっていくだろう」とリプスマン氏は話す。TikTok Shopはすでに、有名ブランドのコピー品の普及に加担し、偽造品や安価なドロップシップの報告に直面している。

マーケットプレイスの売り手たちは少なくとも、ソーシャルアプリ全体のeコマースへの試みとともに、TikTok Shopの成長に注目している。あるEtsyの売り手は、(Etsyのコミュニティフォーラムに)「私はTikTok Shopで販売していないが、自分と同カテゴリーの商品をTikTok Shopで販売し、売上が絶好調な売り手を何人か知っている」と記している。

[原文:In its quest to recruit more sellers, TikTok Shop is targeting some Etsy merchants]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
Image via TikTok