ひろゆき氏は、都会のいいホテルやホールよりも、情報の少ない隔絶した場所のほうがイベントの成功率が高くなると話します(Mac/PIXTA)

第42代アメリカ合衆国大統領のビル・クリントン、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、グーグル元CEO(最高経営責任者)のエリック・シュミット、ChatGPTを開発したOpenAIのサム・アルトマンCEO――このそうそうたるメンバーが参加するアメリカ発の起業家コミュニティーがある。その名も「サミット」。

『MAKE NO SMALL PLANS 人生を変える新しいチャンスの見つけ方』は、4人の無名な “ビジネスのど素人”だった若者が、失敗と無茶を繰り返しながらサミットを立ち上げる過程を描いた、波瀾万丈のノンフィクションだ。

日本最大の電子掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」の設立者である「ひろゆき」こと西村博之氏が、本書を一気読みして感想を語った。

突き抜ける大胆さがブランド化する

起業家コミュニティ「サミット」のことは、ホワイトハウスや豪華客船でやっているやつねというイメージでしか知りませんでした。お金持ちの人たちがやっているのかなと思っていたんですよね。


何の後ろ盾もツテもない20代の4人組が、毎回クレジットカードを限界の枠まで使うというギリギリでやり始めたこと、そして、ホワイトハウスでの開催は、本当にたまたまだったということなどがわかって、面白いなと思いました。

成功したポイントは、「大胆な計画しかやらない」という、その覚悟だと思います。

参加する側から見ても、面白さがありますからね。堅実なプランなら、同じような企画をやっている会社はいくらでもあります。

要はブランド作りです。他と同じことをやっていたら、絶対にブランドは作れません。

堅実にやった方がいいよねという考えを捨てて、誰もやったことのないことをやるべきだよねという思考で突き抜けて進んだ結果が、大成功に結び付いているんですよね。

普通に食べていく程度の稼ぎなら、他と同じようなことやっていてもいいでしょう。イベント会社はいくらでもあります。でも、変わったことをやるからこそ集まる人たちもいます。そこをターゲットにした方が利益率は高いという話です。

日本中で、異業種交流会が行われていると思いますけど、「サミット」のようなレベルのものはありませんよね。いかにブランド化して、他とは明確に違うものができるかどうかが、ビジネス面でのポイントなのかなと思います。

隔絶された場所に集まる効能

本書を読むと、都会のいいホテルやホールを借りて開催するよりも、インターネットの使えない豪華客船や、周りに何もないスキー場など、情報の少ない隔絶した地方に集めたほうが、成功率が高くなるということがよくわかります。

日本では、「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」というフォーラムが、毎年、和歌山県の南紀白浜で開催されています。

東京から南紀白浜までは、1日1〜2便しか出ておらず、講演してすぐ帰るということができないので、みんな1泊するんです。それで、集まった人たちは飲み会をして仲良くなります。

学会もそういう構造が多いですよね。よく温泉地で開催されますが、学会の内容だけでなく、学者たちがそこで仲良くなることが目的だったりもします。

東京都内でパーティーをやっても、2時間ぐらい集まって、お酒を飲んで解散するだけですが、温泉地で1日過ごすとなると、どうでもいい時間があって、しょうもない話もします。それで仲良くなれたりもします。

起業家や、それなりにおカネを持っている人たちに対して、そういう場を作るというのは、確かに需要としてあるなと思いました。

高級ホテルやいいホールを借りてイベントを開催すれば、みんな喜ぶんじゃないかという感覚は、実は間違いだということがちゃんとわかるのは本書の面白いところですね。

「サミット」は綱渡りです。最初、たまたま知り合った偉い人たちに、ファーストクラスのチケットを送りまくるところから始まり、来てもらっても、ビールが1箱、企画もなくて、みんな困ってしまう。

たまたま、コメディサイト「カレッジユーモア」の人たちがいたから、面白いことをやって何とかなりましたが、それがなければ、ただの気まずい会で終わっていたと思います。

ただ、その状況でも「こいつはいいやつだから許してあげるよ」ということで、連絡先を交換して人間関係を続けていけるんですよね。足りないことを武器にしていますが、結局、人間性が伝わっているから、それがどうでもよくなるということなんだと思います。

彼らがずっと一緒に住んでいることが、ホスピタリティのレベルを高めているようにも思いました。

他人を不快にさせない立ち振る舞い、言葉の使い方。生活の中で、人をどうやったら楽しませられるかという点を、お互いに24時間監視しながら、切磋琢磨している状態ではないかと思うんです。

だからこそ、この雰囲気をパーティーでも再現しようということになる。その差が、単にパーティーをやるという会社と、彼らとの、ホスピタリティや考え方の違いになっているのではないでしょうか。

人を選ぶコミュニティの良さ

以前、Googleが人事採用の際、スタッフ全員に「この人と一緒に働きたいかどうか」を聞くという話が話題になりました。

お互いに気持ちよく働ける人と働きたいというのは、モチベーションにつながります。パーティーも同じで、本書にも、誰を弾くかが大事だという話が出てきます。

客がいっぱい来れば儲かる。安く働くスタッフも欲しい。でも「サミット」は、ホスピタリティを意識できる人しかスタッフにしないし、客に対しても、そうでない人は排除するというラインを厳しくしています。

ここは大事だなと思いました。

異業種交流会をやると、必ず面倒な売り込みをする人が混じり込んでくるものです。みんなうざいと思っている。だからと言って、あなたの会社はダメですとは言えません。

そういう部分で、「サミット」では、こういう人はダメだというラインをきちんと作ってやっているんだろうなと思います。

最近、高学歴の若い人がNPOに興味を持っていたりしますが、それと通ずるものがあるなとも思います。


会社の規模が大きくなると、誰が株主になるか、創業者の割合がどうとか、換金するとか、必ずカネでもめて、誰かが抜けたりします。でも、本書を読んだ限り、彼らはそうはなっていません。

そして、アフリカや環境問題など、NPO的な立ち回りの人たちをスピーカーとして呼んでいます。

俺たちは何のためにこの仕事をしているのか、そんなことをやっていたら映画にならないぞ、というような良いセリフがありました。

おカネよりも大切なものがあるよね、自分たちの人生、目的はこういうもので、そこに向かっていくべきだよねという思想があって、4人でその価値観を共有できているからこそ、もめごとが起こらないのではないでしょうか。

実現しないゴールの良さ

実現しないゴールをみんなが目指しているから、うまくいくところもあるんだと思います。

自分の力を使って、社会をより良くしていこうという目標には、ゴールがありませんよね。でも、そのために頑張っているのは、周りも見ていますから、手伝ってあげようと思ってもらえて、協力者が現れる。

コミュニティですから、困っているなら助けるよという関係性もできているんだと思います。

本書を読んで、「いいやつ」になれるかどうかはわかりませんが、いいやつだと得をするぞということはよくわかりますね。

(ひろゆき : 「4chan」管理人)