日本と会議の数はそれほど変わらない、デンマークのビジネスパーソンが日頃行っている「会議術」について解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

オンラインミーティングを含め、1日に複数回の会議が当たり前になった現代人。とりわけ日本では会議の回数が多い印象がある。だが、2023年IMD世界競争力ランキングで2年連続1位に輝いたデンマーク(日本は35位)でも、会議の数はそれほど変わらない。では、なぜ日本とデンマークでは生産性にこれだけ差が生まれてしまうのか。本稿では、デンマーク在住の針貝有佳氏の新著『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』 より、デンマークのビジネスパーソンが日頃行っている「会議術」について解説する。

会議はアジェンダと終了時刻を設定する

プライベートライフを充実させようと思ったら、仕事を早く切り上げられるように、勤務時間中の仕事効率を最大限に上げるしかない。そのうえで、ネックになるのは「会議」だ。

ほかの仕事をどんなに効率化させても、だらだらと長い会議が複数入っていたら、1日はあっという間に過ぎてしまう。

デンマーク人が会議を開くときは、会議の開始時刻だけでなく、終了時刻も設定する。終了時刻をきちんと決めておくことで、だらだらせずに議論ができるからだ。

また、会議のアジェンダと目的を決めておく。そして、時間内になんとか結論を導き出すようにする。

万一、結論が出ない場合も、会議時間を延長することはない。その場で会議時間を延長しても、多くの社員が退席してしまうからだ。結論が出なくても、その日の議論はとりあえず打ち切りにして、また別の日時に会議を設定する。それがデンマーク式の会議の開き方である。

ちなみに、コロナ禍以降はオンライン会議の効率の良さに気がつき、同じオフィスにいながらオンライン会議で済ませるケースも増えた。

だが、それでも、問題はあるようだ。

デンマークでも、社員が多く大規模な企業になるほど、組織構造が複雑になる。中間管理職は多様なステイクホルダーとの調整役を担うため、必然的に会議が多くなる。そのため、デンマークでも、中間管理職の1日のスケジュールは、ミーティングで埋め尽くされている。

中間管理職を歴任してきたルイーセ・ウェリングは、日々の仕事に追われているようだった。彼女のスケジュールは会議で埋め尽くされている。

さらに、彼女は不動産業界でも働いていた。不動産業界にとって、顧客対応で忙しくなる時間は、顧客のフリータイム、つまり、平日の夕方や週末である。デンマークでも職種によっては、ワークライフバランスを取るのが難しい様子がうかがえた。

また、同じデンマークの職場といっても、外資系企業のデンマーク支部や、ビジネスをグローバルに展開しているデンマーク企業のワーキングカルチャーは、純粋なデンマーク企業や組織のワーキングカルチャーとは少々異なる。さまざまな国の社員や取引先が関わるようになると、必然的に職場のデンマーク色は薄くなる。

私が取材した印象では、デンマーク色が濃い職場で働いている人の方が、ワークライフバランスが確保されているようだった。

1時間の会議は50分に設定する

では、1日のスケジュールがほぼ会議で埋め尽くされている中間管理職を救うためには、どうしたら良いのか。

会社「テイク・バック・タイム」を経営するペニーレは、会議の開催方法についても提案している。ペニーレ曰く、デンマークの中間管理職のスケジュールは、基本、ミーティングで埋め尽くされている。

「朝出勤して、9時から10時、10時から11時、11時から12時……ずっと会議が続く。ずっと会議が続くから、各会議のために準備をする暇もない。だから、会議の冒頭の時間を『この会議のテーマはなんだっけ?』という確認に使うことになってしまう。そんなのは時間の無駄」

と、言い放つ。さらに、ペニーレは面白い指摘をする。会議というのは、1時間に設定すれば1時間かかり、2時間に設定すれば2時間かかるものだと言うのだ。

言われてみれば、たしかに思い当たるところがないだろうか。そのうえで、会議の仕方について、ペニーレはこんな提言をする。

「会議は中途半端な時間に設定するのがいいの。30分の会議は、25分に設定する。1時間の会議は50分に設定する。そうすると、自然に、時間に意識が向くようになるから」

なるほど。これはちょっと画期的なアイデアかもしれない。30分の会議は25分に、1時間の会議は50分に設定すると、無意識に時間に意識が向きそうだ。

さらに、そうすることで、会議と会議の間に5分や10分の隙間時間が生まれる。その間にちょっと一息つくこともできるし、次の会議のアジェンダに目を通すこともできる。

そのアジェンダだが、ペニーレによれば、会議の冒頭で共有することが重要である。

司会者だけでなく、会議の出席者全員でアジェンダを共有しておくことで、議論が脱線したときに軌道修正しやすくなる。議論が脱線していったときに、司会者だけでなく、ほかの出席者も脱線していることを指摘して、議論を戻すことができるからだ。

会議を効率的に進めるためには、アジェンダの共有とタイムキーピングをみんなで意識するといい。

発言しない人は会議に呼ばない

会議やイベントへの出席者数も、工夫の余地がありそうだ。日本に出張に行ったことがあるハッセは、日本でのカンファレンスをこう振り返る。

「出席者がたくさんいて驚いたよ。トップから中間管理職ナンバーワン、中間管理職ナンバーツー、秘書ナンバーワン、秘書ナンバーツーとか(笑)」

デンマーク人から見ると、日本人のイベントや会議への出席者は異様に多く見えるようだ。本当に、全員で出席する必要があるのだろうか。


イベントや会議に招集するとき、声をかけようとしているメンバー全員が本当に出席する必要があるのか、一度考えてみても良さそうだ。

また、イベントや会議に招集されたとき、本当に自分が出席する必要があるのか、立ち止まって考えてみるのも良さそうだ。イベントや会議への出席者を最低限にすることも、お互いの「タイパ」につながる。

出席者が少ない方が話が早いし、出席しない人はその分、その時間を別のことに使えるからだ。

ちなみに、デンマークでは発言しないメンバーは会議に呼ばれなくなる。会議とは意見を交わすものであり、発言しない人はいても意味がないと思われるからだ。 「本当に全員で出席する必要があるのか?」。会議を設定する前にそう自問したい。

(針貝 有佳 : デンマーク文化研究家)