「箱根駅伝で勝てればそれでいいのか」10年間で6度の総合優勝・青学大は五輪・世界選手権代表0人の衝撃

■直近10年間、箱根駅伝で最も活躍した大学は?
箱根駅伝が誕生したのは1920年(大正9年)。2024年には第100回大会の節目を迎える。創設の原動力となったのは、「マラソンの父」として知られる金栗四三らの「世界に通用するランナーを育成したい」という熱い思いだった。
「箱根から世界へ」は現在も指導者、選手たちにとっての“理想形”になっている。一方で1987年に日本テレビ系が完全生中継を開始すると、箱根駅伝の人気が沸騰。箱根駅伝自体が大きな目標になっている選手も増えている。
学生スポーツだからこそ、さまざまな目標を持つ選手がいてもいい。だが、箱根駅伝の栄光だけでなく、もっと評価すべきことがあるだろう。
たとえば大迫傑(Nike)はかつて早稲田大の駅伝主将を務めた4年時、箱根駅伝に向けてフォーカスしていたわけではなかった。彼は来季のトラックシーズンを見据えて、米国でトレーニングを積んでいたのだ。その結果、1、2年時に区間賞を獲得した1区でトップ中継を逃すも、その後、トラック種目でリオ五輪に出場した。
誰もが大迫のような選択ができるわけではないが、筆者は箱根駅伝で活躍することよりも、世界で戦う選手の方が“上”だと確信している。
箱根駅伝の優勝回数は中央大が14回でトップ。2位は早大で13回、3位は日本大で12回。以下、順天堂大11回、日本体育大10回、駒澤大8回、明治大7回、青山学院大6回、大東文化大と東洋大の4回と続く。
では、直近10年間(14~23年)で最も活躍した大学はどこなのか。優勝3点、2位2点、3位1点で過去10年間の成績を合算すると以下の順位になった。
1位は青学大の21点。ダントツの結果だった。この10年間で4連覇を含む6度の総合優勝。トップ3を外れたのは2度しかない。激動の箱根駅伝で驚異的な結果といっていだろう。
2位は駒大と東洋大だ。駒大は1位と2位と3位が2回ずつ。東洋大は優勝こそ1回だが、トップスリーが7回もある。東海大は2019年の優勝校だ。
続いて「大学日本一」を決める全日本大学駅伝をチェックしてみよう。
?駒大・青学大 17点
?東海大 9点
?東洋大 4点
?神奈川大・明大・國學院大 3点
?早大 2点
?山梨学大・順大 1点
トップは駒大と青学大。駒大は4連覇を含む5度の優勝。青学大は優勝こそ2回だが、トップスリーが9回という抜群の安定感を誇る。東海大は優勝1回を含む4年連続の2位以内。東洋大は2015年に、神奈川大は2017年に優勝を飾っている。
箱根駅伝と全日本大学駅伝の合算では1位が青学大38点、2位が駒大29点、3位が東洋大16点、4位が東海大14点。ここからは点差が開き、5位は早大・國學院大の4点、7位は順大の3点となる。
以上の国内大会の順位は学生駅伝のファンなら想像通りだろう。ところが、国際大会の活躍度では順位が大きく変動することになる。
■世界へ羽ばたいた選手を多く輩出した大学は?
直近10年間、第90回大会以降の箱根駅伝に出場した選手で国際大会(五輪3点、世界選手権2点、アジア大会1点)に出場した選手を集計すると、以下の結果になった。
?駒大 17点
?順大 15点
?東洋大 14点
?城西大 12点
?法大 11点
?早大 9点
?東京国際大 5点
?山梨学大 3点
?上武大・中央学大・神奈川大・帝京大 2点
?東海大・日体大・明大 1点
トップは駒大だ。東京五輪の男子マラソン代表に中村匠吾(富士通)を送り込むと、世界選手権の男子マラソンは3大会連続でOBが出場中。田澤廉(現・トヨタ自動車)は大学4年時にブダペスト世界選手権10000mに、佐藤圭汰(2年)は今夏のアジア大会5000mに出場した。
現在は大八木弘明総監督がSチームの佐藤、鈴木芽吹(4年)、篠原倖太朗(3年)を指導。OBの田澤も母校を拠点にトレーニングを積んでいる。11月25日の八王子ロングディスタンス10000mでは佐藤が日本人学生歴代2位の27分28秒50(U20日本記録)、鈴木が同3位の27分30秒69、篠原が同5位の27分38秒66をマーク。箱根駅伝だけでなく、世界を見つめて“高い意識”で取り組んでいる。
先の学生駅伝の結果と国際大会の結果を見ても、駒大が“学生駅伝界の絶対王者”として異論はないだろう。

直近10年間の箱根駅伝では駒大と並ぶ活躍を見せてきた東洋大も世界に羽ばたいた選手が多い。その代表格は服部勇馬(トヨタ自動車)だ。学生時代から東京五輪を意識して、マラソンに取り組み、見事、東京五輪の男子マラソン代表に輝いた。それから箱根駅伝2区で日本人最高記録を叩き出した相澤晃(旭化成)も東京五輪の10000mに出場。今後はトラックだけでなく、マラソンでの活躍も期待されている。
そして注目は順大、城西大、法大だ。箱根駅伝ではさほど上位に食い込んでいないが、国際大会の代表を数多く送り込んでいる。
順大は塩尻和也(富士通)と三浦龍司(4年)の存在が大きい。ふたりとも学生時代に3000m障害で五輪に出場。塩尻は大学4年時に箱根2区を日本人最高記録(当時)で走破すると、近年は10000mで大活躍している。12月10日の日本選手権では27分09秒80の日本記録を打ち立てた。
現在4年生の三浦は箱根駅伝(1区、2区、2区)で3年連続の二桁順位に終わっているが、3000m障害では日本の歴史を塗り替えている。東京五輪で7位入賞。今季は自身が持つ日本記録を2年ぶりに更新すると、ブダペスト世界選手権で6位に食い込んだ。3位との差は1秒72。世界大会のメダルが夢ではない状況だ
■青学大から五輪、世界選手権など代表選手は0人
城西大は直近10年間で箱根駅伝は7度の出場ながら、村山紘太(現・GMOインターネット)が2015年に10000mで27分29秒69の日本記録(当時)を樹立した。近年は櫛部静二監督が本格的な低酸素トレーニングを導入。実業団時代に母校で低酸素トレーニングを積んだ山口浩勢(現・加藤学園高陸上部副顧問)が3000m障害で東京五輪とブダペスト世界選手権に出場した。

直近10年間で4度のシード権を獲得している法大は坂東悠汰(現・富士通)が東京五輪5000mに出場。箱根5区で活躍した青木涼真(現・Honda)が3000m障害で東京五輪、オレゴン世界選手権、ブダペスト世界選手権、杭州アジア大会と連続して国際大会に参戦している。
一方で直近10年間の箱根駅伝でインパクトのある活躍をしている青学大はいまだに五輪、世界選手権、アジア大会の代表選手を輩出していない。また日本人学生で過去27人が到達している10000m27分台にも届いていない。
青学大の10000m記録は28分10秒50(近藤幸太郎)。この記録は日本人学生歴代50傑にも入っていないのだ。世間からは名将と呼ばれる原晋監督だが、「世界で戦う」という意味ではまだ不足しているものがあるようだ。青学大に対してはSNS上では、高い評価がある一方で「箱根駅伝で勝てばそれで満足なのか?」といった厳しい声もある。

これらの事実を知ると、箱根駅伝を観る目が変わるかもしれない。
個人的には「箱根から世界へ」を実現している大学はもっと評価されるべきだと感じている。第100回大会を走る選手から、多くの選手が世界に羽ばたくことを期待したい。
※次ページは直近10年間の箱根駅伝と全日本大学駅伝の成績と、国際大会の代表選手の一覧(箱根駅伝の第90回大会以降に出場した選手のみ)。
■【箱根駅伝】
2014年 ?東洋大 ?駒大 ?日体大
2015年 ?青学大 ?駒大 ?東洋大
2016年 ?青学大 ?東洋大 ?駒大
2017年 ?青学大 ?東洋大 ?早大
2018年 ?青学大 ?東洋大 ?早大
2019年 ?東海大 ?青学大 ?東洋大
2020年 ?青学大 ?東海大 ?國學院大
2021年 ?駒大 ?創価大 ?東洋大
2022年 ?青学大 ?順大 ?駒大
2023年 ?駒大 ?中大 ?青学大
■【全日本大学駅伝】
2014年 ?駒大 ?明大 ?青学大
2015年 ?東洋大 ?青学大 ?駒大
2016年 ?青学大 ?早大 ?山梨学大
2017年 ?神奈川大 ?東海大 ?青学大
2018年 ?青学大 ?東海大 ?東洋大
2019年 ?東海大 ?青学大 ?駒大
2020年 ?駒大 ?東海大 ?明大
2021年 ?駒大 ?青学大 ?順大
2022年 ?駒大 ?國學院大 ?青学大
2023年 ?駒大 ?青学大 ?國學院大
■【世界大会】
2014年アジア大会
村山紘太(城西大4)、大迫傑(早大卒)
2015年北京世界選手権
大迫傑(早大卒)、村山紘太(城西大卒)、村山謙太(城西大卒)、設楽悠太(東洋大卒)
2016年リオ五輪
大迫傑(早大卒)、村山紘太(城西大卒)、設楽悠太(東洋大卒)、塩尻和也(順大2)
2017年ロンドン世界選手権
潰滝大記(中央学大卒)、井上大仁(山梨学大卒)
2018年ジャカルタアジア大会
館澤亨次(東海大)、山口浩勢(城西大卒)、井上大仁(山梨学大卒)
2019年ドーハ世界選手権
山岸宏貴(上武大卒)、二岡康平(駒大卒)
2021年東京五輪
松枝博輝(順大卒)、坂東悠汰(法大卒)、相澤晃(東洋大卒)、伊藤達彦(東京国際大卒)、三浦龍司(順大)、山口浩勢(城西大卒)、青木涼真(法大卒)、中村匠吾(駒大卒)、服部勇馬(東洋大卒)、大迫傑(早大卒)
2022年オレゴン世界選手権
田澤廉(駒大4)、伊藤達彦(東京国際大卒)、三浦龍司(順大)、青木涼真(法大卒)、山口浩勢(城西大卒)、鈴木健吾(神奈川大卒)、星岳(帝京大卒)、西山雄介(駒大卒)
2023年ブダペスト世界選手権
塩尻和也(順大卒)、田澤廉(駒大卒)、三浦龍司(順大)、青木涼真(法大卒)、山下一貴(駒大卒)、其田健也(駒大卒)、西山和弥(東洋大卒)
2023年杭州アジア大会
河村一輝(明大卒)、塩尻和也(順大卒)、佐藤圭汰(駒大2)、田澤廉(駒大卒)、青木涼真(法大卒)、池田耀平(日体大卒)、定方俊樹(東洋大卒)
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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
