角田裕毅が今季ベスト&ワーストを語る「あれが今年一番のミス。でも全然、後悔していない」
角田裕毅(F1アルファタウリ)インタビュー後編
◆角田裕毅・前編>>2023年を振り返る「ここまですべてを捧げたことはなかった」
2023年の最終戦アブダビGPを終えた直後の角田裕毅に、長かったシーズンを振り返ってもらうと、「決して短くはない1年だった」という答えが返ってきた。
シーズン序盤は成熟したレース運びでマシン性能以上の走りを見せ、シーズン中盤戦にはポイントが獲得できない苦しい時期が続いたものの、シーズン終盤戦に再び立て続けに入賞を果たした。
そんななかで、角田自身は2年目までにはなかったほど常に全身全霊をレースに捧げてきたという。
そんな2023年シーズン全体に対する自己採点を聞くと、角田からは即答が返ってきた。
※ ※ ※ ※ ※
角田裕毅に2023年のベスト&ワーストを聞いた photo by BOOZY
── 2023年シーズンを自己採点すると何点くらいでしょうか?
「7.5点!」
── その理由は? マイナス2.5点のポイントは?
「今なんとなく、パッと思いついたのが7.5点です(笑)。あちこちで大きなミスがあったので、そういう部分がマイナスですね。でも、最後に少しいいレースができたので、そこは加点で。そういう感覚から『7.5』という数字がパッと思いつきましたね」
── 自分としては「完璧ではないけど、まずまず合格点」という感じ?
「合格か不合格かって言われるとちょっとわかりませんけど、去年よりはいい数字ではあると思います」
── アブダビGP(第23戦)が今シーズンのベストレースでしょうか?
「う〜ん、これがベストレースというよりは、今シーズンいいレースがいろいろあって、アブダビもベストのひとつだと思います。
USGP(第19戦)はマシンに少しダメージがあったにもかかわらず、10位でフィニッシュできてよかったと思いますし、サウジアラビアGP(第2戦)はマシンにトップ10のパフォーマンスがなかったにもかかわらず、トップ10圏内を走ることができました。最後の数周で10位を失ってしまったのはつらかったですけど。スペインGP(第8戦)もいいレースだったと思います。ハッキリ覚えているのはその3戦ですね。
それとベルギーGP(第13戦)もよかったですけど、(エステバン・)オコンに対してはタイヤを守るためにあまり無理をしなかったところもありつつ、行かせようと思っていたわけではなく行かれてしまったので、もう少しうまくやれたかなという気もしますし」
── ワーストレースはやはり......?
「ワーストレースはメキシコ(第20戦)ですね。ポイントが獲れたレースで獲れなかったというのが大きいですね。後半戦はパフォーンマンス自体、悪くなかったと思います。あちこちミスもありましたけど、一番大きかったのはメキシコですね。あれが今年一番のミスだと思います」
── メキシコのミスは角田選手のなかでもかなり大きかったのではないかと思います。あそこから立ち直ることができた理由は?
「もちろんあれは大きなミスでしたけど、仕掛けたこと自体は全然後悔していないし、悪くなかったと思っています。ただ(オスカー・ピアストリに対してインを閉めすぎてしまった)ちょっとした考え方のすれ違いというか、そういう部分のミスはこれからも修正していきたいなと考えています」
※ ※ ※ ※ ※
合格点といっていいかはさておき、「昨年よりも着実に成長できている」というのが角田の自分自身に対する評価だ。
生まれ持った速さは、F1にデビューする前からわかっていたことだ。ドライビングのスキルも、もともと高い。
問題は、それを常に100パーセント、出しきれるかどうか。デビュー当初はフラストレーションを爆発させてミスを犯したり、体力が足りずに集中力を切らすこともあった。しかし、3年目の角田はその点を大きく成長させ、本来の力を安定して出せるようになったという。
※ ※ ※ ※ ※
── 今シーズン、ドライバーとして最も成長できたと思うところは?
「コンシステンシー(一貫性)ですかね。平均的にいい走りをする、いいパフォーマンスを発揮するということですね。
フィードバックの部分でも、マシン開発のことを考えてチームにとって有益な情報を話せるようになったと思います。自分の英語が上達したというのもありますし、さらに事細かく、わかりやすくフィードバックできるようになったと思います」
── 一方で、まだ足りていないと思うところは?
「無線での振る舞いの部分ですね。昨年や一昨年に比べればかなりよくなっていると思いますが、いくつかのレースでは我を失ってしまったことがありました。無線で叫んでいることもあったので、そういうところは間違いなく改善する必要があると思います。
メキシコのようにシチュエーションのコントロールをうまくやれていれば8位でフィニッシュできたと思いますし、5位でフィニッシュできた可能性もあったと思います。とても大きなミスだったと思いますし、ああいったことは今後、絶対に起きないようにしなければならないと思っています」
── メンタルコントロールを課題のひとつに挙げていましたが、無線で暴言を吐いてしまうという衝動は、なかなか自分で抑えきれないものですか?
「もちろん叫んでしまうことはよくないですし、そこは改善しようと思っています。でも、たとえ冷静なトーンで言っていても"ピー"って(自主規制)音が入れば、僕が叫んでいるように思われてしまうじゃないですか? 別に叫んでいるわけではなく、普通の会話で話している時もあるので。
ただ、コミュニケーションのなかでそういう不必要な部分は改善していかなければいけないとは思っています。最終戦はコミュニケーションを密に取るようにして、特に(1ストップ作戦を成功させるために)タイヤについてのやりとりが必要だったので、そこはかなり心がけて走っていました。いいコミュニケーションができたんじゃないかと思います」
── スペインGPで、周冠宇(ジョウ・グアンユー/アルファロメオ)とのインシデントに対するペナルティには異論を唱えていましたが、いまだに納得はできていないのでしょうか?
「そういったところでFIA(国際自動車連盟)と喧嘩をしても仕方がないし、最初は(自分だけ差別されているのではないかという)ちょっと変な考えもありましたけど、向こうの言っていることにも一理あったので、そもそもそういった(審議対象になる)ことがないようなレースをしたいなというふうに気持ちを切り替えました。だから、あの件に関してはもう忘れて、気にしないようにしています」
※ ※ ※ ※ ※
こうしたところに、外から見る角田裕毅のイメージと、本当の角田裕毅の間に大きなギャップがあるように思う。
無線で喚(わめ)いている場面だけが切り取られてテレビで放送されたり、マシンを降りた直後の興奮冷めやらぬ時の感情的なコメントがひとり歩きしたりしていることが少なくない。
しかしその後、客観的に自分を見つめ直し、反省し、実は心を入れ換えて自分だけ一歩先に進んでいたりする。外から見ている我々よりも、実は一歩も二歩も成熟しているのが角田だったりするのだ。
ランド・ノリス(マクラーレン)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)をはじめ、今シーズンのさまざまな場面で角田と戦ってきたドライバーたちは、角田のことを驚くほど高く評価している。彼らは自チームのデータ分析によってアルファタウリAT04のマシン性能を知っており、そんなマシンで角田がいかにレベルの高い走りを見せているかを理解しているからだ。
それを証明することが3年目の今年、開幕の頃から口グセのように語ってきた「全レースで全力を出しきる」という目標であり、それがある程度達成できたという手応えが「7.5点」という自己評価なのだ。
※ ※ ※ ※ ※
── 周りのドライバーたちの評価も含め、F1という世界のなかで角田選手のポジションが上がってきているように感じます。
「そうですね、特にそこは今年、自分でも集中してきたところです。自分の立ち位置を上げることをメインに考えてきました。
それを上げるためにはどういうふうにレースをすればいいか、それを目標に据えてレースをしてきました。それが、すべてのレースで力尽きるまで自分の最大限のパフォーマンスを出すということで、しっかりと結果につながって良かったと思います」
── 3年目に固めた土台の上に、4年目となる2024年はどんなシーズンを上積みしようと思っていますか?
「今年意識してきたことを、来年はその延長線上で同じように意識します。ミスを減らして、今年よりもさらにもう少しコンスタントに走れるようにして、でもプッシュもして、自分の悔いのないレースがしたいです。そうやってF1界における評価をさらに上げられるように、自分の完成形を見せられればと思っています」
角田裕毅の完成形──。それを見せるための準備は、いよいよ整った。
<了>
【profile】
角田裕毅(つのだ・ゆうき)
2000年5月11日生まれ、神奈川県相模原市出身。父の影響で4歳よりカートを乗りはじめ、16歳でフォーミュラデビュー。2018年にFIA F4選手権で年間王者に輝き、同年レッドブル・ジュニアチームに加入する。2019年からFIA F3への参戦でヨーロッパ進出を果たし、2020年にF1直下カテゴリーのFIA F2でシリーズ3位を獲得。2021年からF1アルファタウリのレギュラードライバーとなり、2023年はシリーズ14位。身長159cm、体重54kg。