駒澤大学・鈴木芽吹主将 インタビュー

 大学駅伝史上、前人未到の「2年連続三冠」を掲げてシーズンを戦っている駒澤大学。出雲駅伝に続き、全日本大学駅伝でも隙のない戦いぶりを見せ、偉業に王手をかけた。チームを名実ともにけん引する主将の鈴木芽吹(4年)に、箱根駅伝を前にこれまでのチームづくりや現在の思いを聞いた。


インタビューに応じる駒澤大の鈴木芽吹主将

* * *

【「チームがひとつに」自ら手を挙げた主将】

 例年、駒澤大では箱根駅伝後に大八木弘明監督が次期の主将を指名するのが恒例だった。だが、今年は箱根駅伝直後に大八木監督は勇退を表明し、総監督に就任。藤田敦史監督が就任するにあたり、新チームの主将は立候補で決めることになった。

 鈴木はここで手を挙げた。主将の重責を担うことで人間的にも、競技的にも成長したい。そして、誰も成し遂げたことがない2年連続三冠を達成するため、先頭に立っていきたいという思いがあった。

 箱根駅伝が終わった直後の囲み取材で、「三冠はとれたが、まだチームがひとつになりきれていない」と話していた鈴木。もともとコミュニケーションは得意ではないというが、チームをひとつにするために、主将として積極的にいろんな選手に声をかけるように心がけた。

 駒澤大は、レベルごとにS・A・B・Cの4つのチームに分かれて練習をしている。Sチームは、今年3月に卒業したOBの田澤廉(現・トヨタ自動車)も参加し、鈴木、篠原倖太朗(3年)、佐藤圭汰(2年)の計4人。世界を目指す高いレベルで切磋琢磨しており、鈴木は3年時までは同じ学年内や、同じ練習をしている選手と話すことがほとんどだた。

 それが自分の練習だけでなく、別のチームで練習している選手にも目を配り、声をかけるようになったのが大きな変化だった。

「声かけをしているなかで、伸び悩んでいた選手に結果が出た時はすごくうれしい気持ちになります。そういうのは、去年までは自分にはあまりなかったなと思います」

【勝つために関係ない選手はいない】

 昨年は大エースの田澤、主将の山野力(現・九電工)、副主将の円健介の3人が引っ張るチームだった。今年、鈴木の学年は1年生から箱根を走った選手が鈴木を含め3人。ルーキーイヤーからチームの主力として切磋琢磨してきた選手が多い。

「今年の4年生はみんな力があって、『全員でやろう』というのは常に言っています」


11月半ば、駒大陸上競技部の道環寮にて

 それぞれが自分のやり方でチームを引っ張る気持ちで動いている。鈴木は「今年は4年生全員でつくってきたチームだと思います」と話す。

 副主将の金子伊吹(4年)の存在も大きい。

「僕のコミュニケーションが苦手な部分を金子がすごく補ってくれて、金子のおかげでチームの雰囲気がよくなったと思っています」と鈴木は話す。

 今年から部員一人ひとりの誕生日にプレゼントをあげたり、歌を歌って祝ったりするようになった。

「僕にはできないので、本当にありがたいです」

 コミュニケーションが苦手とは言いつつも、人前で話すことについては「慣れました」とはにかむ鈴木。とくに駅伝の前は、エース格の選手に対しては「他の選手に負けない走りをするように」、それ以外の選手に対しては「エースがしっかり走ってくるから、『絶対負けない』という気持ちを持って走ってほしい」と伝えている。

 他の選手に声がけをしたり、全員の前で話すことで、考えが深まり、自分がどんなチームをつくりたいかがあらためてわかってきた。

「駒澤にいたら、駅伝を勝つためには関係ない選手はいないなと感じています。それをどれだけみんなが思えるかが大事だと思います」

 大八木総監督からは「誰かのためにという思いやり、感謝の気持ちを持っていないと一流の選手になれないし、そういう人間が引っ張らないとチームもよくならない」と言われ、その言葉を大事にしている。

 藤田監督とはチームの運営についてよく話すようになった。「区間オーダーに関しては、藤田さんと総監督でけっこう意見が違うこともあるので、そのつなぎ役もたまにやったりしています」と笑う。

【自信が深まり積極的な走りができている】

 鈴木は3年まではケガに悩まされてきた。藤田監督も「芽吹は練習を継続できていれば本当に強い」と評するが、2年時の2021年9月に右大腿骨を疲労骨折し、年が明けて箱根駅伝直後には左大腿骨の疲労骨折が判明。昨年10月の出雲駅伝で復活し涙を見せたが、全日本大学駅伝には出走せず、今年の箱根駅伝では4区を担当し区間3位だった。

 主将として迎えた最終学年は、とにかくケガをしないこと、練習を継続することを心がけた。

「この1年間、調子の波はあまりないと思います。春先はあまり調子がよくなかったですが、7月ぐらいから状態もよくなって、そこからは練習もすごくいい感じでできていると思います」


主将として苦労や喜びを語った

 鈴木の練習を見ている大八木総監督も、「芽吹は一段階強くなった」と評価する。鈴木自身も「強くなっているかどうかはわからないんですが、練習が積めていることで自信はすごくついてきたので、積極的な走りをできているかなと思います」と話す。

【「どうやったら上がってくるんだろう」主将としての不安】

 昨年は夏合宿までは走れている選手が少なく、「本当に三冠を目指せるのか」と不安になったところから、秋に調子を上げてきて三冠を達成。今年のチームはどうか。

「完全に似たような感じでした。主力が全然練習をできていませんでした。去年のことを考えるとまだ巻き返せるという気持ちはあったんですが、いざ自分がキャプテンの立場になると『どうやったら上がってくるんだろう』と不安ではありました」

 夏は、世界陸上に臨むためスイスの合宿へと向かった田澤に佐藤も帯同した。篠原も8月のワールドユニバーシティーゲームズのハーフマラソンに出場したダメージもあり、調整段階。Sチームとしては鈴木ひとりとなったため、主将としてみんなを引っ張るという意味で、鈴木はAチームで夏合宿に取り組んだ。しかし、主力にケガが相次ぎ、1次合宿ではAチームでも走れているのは鈴木、庭瀬俊輝(3年)、伊藤蒼唯(2年)の3人のみという状態だった。

「本当にひどかったので一回みんなをミーティングで集めて、『このままじゃ駅伝で3位以内にもいけないから、危機感を持ってやって』と声がけしました」

 そんな意識づけもあってか、徐々に練習の消化率も上がり、「このままいけばなんとか間に合うかな」というところまでチームを上げてこられた。9月の選抜合宿には主力が戻り、チームとしていい練習ができているなかで駅伝シーズンを迎えられた。

【自分たちの走りができれば、負けない】

 ここまで、出雲駅伝では2位と1分43秒差、全日本大学駅伝では2位と3分34秒差と、圧倒的な強さを見せている。鈴木の口からも「去年の自分たちを超える」という言葉がたびたび聞かれ、他の大学との勝負というより、自分たちとの戦いを意識しているのではと感じることもあった。

 その点について鈴木は「もちろん他大学のことは意識してないわけじゃないんです。ただ、本当にいい練習ができているなかで、冷静に焦らず自分たちの走りをすれば絶対勝てるという自信がチームとしてあるので、そういった意味では本当に他大学がどうこうというよりは、自分の走りをしっかりするという、自分たちの戦いになるのかなとは思います」と話す。

 チームとして考える理想の形とは、「前半でしっかり先頭に立ち、後半の区間はさらに自分たちの走りをして差を広げ、圧倒的な形で勝つ」こと。大八木総監督からも「区間3番以内で」と言われており、チーム内のミーティングでも戦い方を共有し、全員の共通認識として持っている。

 実際、出雲駅伝では6区間中区間賞が3人、区間2位が1人、区間3位が2人。全日本大学駅伝では8区間中区間賞が4人、区間2位が3人、区間3位が鈴木のみという圧倒的な成績をおさめている。

 鈴木は全日本ではエース区間の7区を任され、「自分がどれだけいけるか試したい」と挑戦する気持ちもあり、突っ込んで入った。結果的に後半はペースが落ちてしまい、「自分の弱さを実感しました」とあらためて課題を認識し、最後の箱根駅伝につなげようとしている。

 最後の箱根駅伝では2区を希望している。以前から走りたいという気持ちはあったが、ケガや調整不足などもあり2年時は8区、3年時は4区にまわっている。

 3年連続2区を担当した田澤は前回大会で「芽吹が調子よければ2区を走ってほしかった」と言っており、鈴木にもそう伝えていたという。

「僕が仮に調子がよかったとしても、やっぱり2区は田澤さんなんじゃないかなというのはありました。実際走るか走らないかは別として、そこを目指す過程というか、取り組みはすごくよかったなと思っています」

 人間的に大きく成長し、名実ともにチームを引っ張る存在として臨む最後の箱根駅伝。「2年連続三冠というよりは、このチームで三冠を果たしたい」と強い思いで語る鈴木の、学生ラストレースを楽しみにしたい。



【プロフィール】
鈴木芽吹 すずき・めぶき 
2001年、静岡県生まれ。長野・佐久長聖高を卒業し、現在は経営学部4年。箱根駅伝は、1年で5区、2年で8区、3年で4区を走っている。2024年箱根駅伝は主将として臨む。