ブラックフライデーでは顧客は容赦なく厳しい姿勢をみせ、ブランドと小売業者のあいだで買い控えが激化した。今年は多くの顧客がサイバーマンデーまで我慢してもっとも得な買い物をしている。

顧客は比較サイトを利用してお得な情報を探すことが増え、割引のためにアプリをダウンロードし、買い物の際にAIのサポートを活用するようになった。その一方で、顧客は割引疲れにも直面しており、過剰な割引や長期の割引に麻痺しつつある。そのためブランドは、買い物客を惹きつけるための戦略を更新せざるを得なくなっている。

多くの選択肢によって競争が激化し、価格が下落



オンラインの価格を追跡しているAdobeアナリティクス(Adobe Analytics)によると、感謝祭からサイバーマンデーまでのサイバーウィークの売上は前年比7.8%増の380億ドル(約5.6兆円)だった。感謝祭のオンライン消費は5.5%増の56億ドル(約8246.2億円)と記録的であり、ブラックフライデーで7.5%増の98億ドル(約1.4兆円)、そして週末にかけての消費は7.7%増の103億ドル(約1.5兆円)となった。

Adobeデジタルインサイツ(Adobe Digital Insights)のリードアナリスト、ヴィヴェック・パンディヤ氏は次のように述べている。「BFCM(ブラックフライデーとサイバーマンデー)の結果は、顧客は現在、国内外のアパレルに関して多くの選択肢を持っているという事実を示している。顧客がかなりの主導権を握っている。複数のブラウザを開き、非常に簡単にショップを比較することができる。これだけ多くの選択肢があれば、競争が激化して価格の下落圧力がかかる」。

Shopify(ショッピファイ)も、販売について同様の見解を示している。ブラックフライデーの開始からサイバーマンデーの終了まで、Shopifyの加盟店の売上は93億ドル(約1.4兆円)で、昨年より24%増加したと報告している。

期間限定割引やギフトカードが効果的



「選択的な期間限定割引は効果的だった。急がなくてはという気分にさせて顧客の購買意欲を刺激したことが主な理由だ」と、データ分析会社グローバルデータ(GlobalData)の小売アナリスト、ニール・サンダース氏は述べている。「オールドネイビー(Old Navy)では、パジャマのような人気アイテムに、期間限定の注目のディスカウントがあった。一部の小売業者は、一定額以上の購入で割引や無料のプレゼントを提供したが、おそらくは販売数量と取引金額を増やすための戦略だったと考えられる」。

これに関連し、アナリストによると、リピート購入を促進する目的で小売業者がギフトカードを提供するケースが増えているという。ラグジュアリー小売店のサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)は、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)、ザ・ロウ(The Row)、コーチ(Coach)などのブランドの衣料品を最大50%オフで販売した。さらに、200ドル(約2万9000円)の買い物をするごとに、顧客はコードを使って50ドル(約7400円)の割引を受けることができた。サックスはまた、ブラックフライデーの週末スペシャルとして、150ドル(約2万2000円)以上の購入で75ドル(約1万1000円)のギフトカードを提供している。サックスのBFCMの業績に関するコメントは得られなかった。

ジュエリーブランドのケンドラ・スコット(Kendra Scott)のチーフマーケティングオフィサー、ミシェル・ピーターソン氏は、「今年は、店頭とオンラインでの戦略的な取り組みを通じて、魅力的なディスカウントや最大40%の割引率を誇るベストシーズン商品、限定の特価商品を提供した」と述べた。同氏によると、ベストセラーのイヤリング、ミッキーフープ(Mikki Hoop)は記録的な売れ行きを見せ、特価商品が発売されたサイバーマンデーの午前9時には複数の商品が完売している。たとえば、人気のエリサペンダントネックレス(Elisa Pendant Necklace)は25ドル(約3680円)だった。「トラフィックは2桁の伸びを示し、昨年を上回るという予想以上の結果だった」。

またピーターソン氏は「顧客は(ホリデーショッピングの週末の)かなり前から、サイバーマンデー前の10日間を通してホリデーショッピングを開始したことがわかった」とも付け加えている。ケンドラ・スコットの売上高は、2023年1月までの直近の会計年度で4億ドル(約588.8億円)を超えている。

割引前の金額に気づき、賢明な購買決定をする買い物客



例年BFCMの勝者に名を連ねるAmazonのデータによると、今年のBFCMの週末に、世界中の顧客がマーケットプレイスで10億点以上の商品を購入し、Amazonが毎年開催する11日間のお買い得セール期間中に買い物客は昨年より70%近くも節約をした。しかし一部の顧客は、各プラットフォームの加盟店がより大幅な割引を促進するために、このショッピングイベントの前に価格をつり上げていることに気づいており、それが信用を低下させている。その結果、特にお買い得品を求める若い買い物客は、より賢明な購買決定を下すようになっている。

TikTokでは「#blackfridaydealsnotworthit(ブラックフライデーの割引には価値がない)」というハッシュタグが7110万回再生され、毎年恒例のこのショッピングイベントが以前とは違うことに幻滅している買い物客の様子を映した動画が多く見られた。顧客が5ドル(約740円)のタグをはがすと、以前も同じ価格かそれ以下だったことが判明するという動画がプラットフォーム上を駆け巡り、平均250万ビューを記録している。

「小売業者はさまざまなプロモーションを実施しているが、そのすべてが顧客にとって本当のお買い得品と認識されていない」と、DHRグローバルのグローバルコンシューマー&リテール担当マネージングパートナー、クリスティ・ルブラン氏は言う。グローバルリーダーシップ&エグゼクティブ・サーチアドバイザリー会社である同社のクライアントは、非上場の中堅企業から数十億ドル規模の上場企業まで幅広い。「小売企業は消費者の取引を促進すべくさらに努力している」。

生成AIの活用で消費者はさらに賢くなる



新たな戦略的な取引のいくつかは、定期的に割引を組み合わせたり、購入を促進するためのポイントを提供したりしているテム(Temu)やシーイン(Shein)のようなファストファッションアプリから学んだ行動である。また、BlackFriday.comなどのサイトやソーシャルメディアを通じて入手可能なお買い得品に関する透明性が高まったため、顧客はそうしたBFCMシステムを利用するようになっている。

「消費者は価格追跡に関して非常に洗練されてきている」とパンディヤ氏は述べた。「消費者はTikTokやインスタグラムに多くの時間を費やしているので、インフルエンサーからアドバイスを得たり、『ベストプライス』をうたう広告を数多く目にしたりしている」。顧客はまた、もっともお得な商品を見つけるためにウェブサイトやアプリで割引を比較している。

こうした状況は、顧客が既存のツールを超えていくにつれてさらに洗練されていくだろう。「より多くの消費者が購入過程で生成AIを活用し、さらにプレミアムなラグジュアリーブランドの代替品を求めるようになる。顧客はより安価なデュープや代替品を求めるようになるかもしれない」とパンディヤ氏は言う。「また、さらに高度な検索の実行にも使用できる。(たとえば)生成AIに予算を与えて商品を提案してもらうことも可能だ」。大手検索会社は、これを可能にするために投資している。11月上旬、Googleはサーチジェネレーティブエクスペリエンス(Search Generative Experience)を拡張した。これによってAIを使ってオンラインでの買い物の相互参照が容易になる。

つねに勝者となるのはシンプルな戦略



Tシャツブランド、トゥルークラシック(True Classic)のグロース担当バイスプレジデントのペイジ・デッカー氏は、顧客に過剰なオファーを提供するのではなく、結果を出して信頼を築くためにシンプルで大々的なセールに注力したと語った。「11月2日から最大60%オフのセールを行い、ブラックフライデーの前の週には最大70%オフという大幅な値引きにシフトした」とデッカー氏は言う。このブランドでは、一般的にブラックフライデー期間中、買い物客に人気のカテゴリーであるシンプルなベーシックアイテムに重きを置いている。「多くのベストTシャツパックを40〜50%オフで提供し、これが成功を牽引した」。同社は2023年に2億5000万ドル(約368億円)の売上を上げるペースだ。

デッカー氏はさらにこうも述べている。「ソーシャル上で多くのブランドが、『これはX%オフだが、こっちはY%オフ』といった複雑なメッセージを発しているのを目にした。『最大X%オフ』とストレートに伝えるような、シンプルな戦略がつねに勝つ」。買い物客は、ソーシャルメディア上の広告をクリックした後、トゥルークラシックのサイトに誘導される。これがホリデーシーズンのブランドの最大の売り上げを牽引している。Adobeアナリティクスによると、オンライン取引の59%がモバイルで行われており、これは今年のモバイルショッピング利用の増加を反映している。

トゥルークラシックにとって、BFCMは新規顧客獲得でも価値があった。アナリストによると、このショッピングシーズン中にブランドを試すために、多くの顧客がエントリーレベルの低価格や割引に注目する。「シームレスで摩擦のないオンラインショッピング体験を作り出すためのサイトの強化など、その曲線の先を行くことが重要だ」とデッカー氏は言う。「これはeコマースに慣れていない消費者にとって特に重要だ。サイトエクスペリエンスやオファーが複雑で購入方法がわからなければ、消費者は離脱してしまうだろう」。

[原文:Fashion Briefing: The year of the savvy BFCM shopper]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)