映像作家100人にも選出、気鋭のクリエイター・Nate。生成AIにも“好意的”「最終的には人間なんです」

写真拡大 (全10枚)

ミュージックビデオやライブステージのビジュアル、さらにはゲーム大会を盛り上げるオープニングムービーなど、コンテンツの物語性を高める映像の威力は凄まじい。

Nateさんは、タイポグラフィーやシネマティックな3DCGを織り交ぜた独創的な映像を作り出す映像作家だ。

クリエイティブスタジオ〈nim〉を率い、「第69回NHK紅白歌合戦」に出場したEXILEや、LiSAのライブパフォーマンスでの映像演出、「TGS2023×CR CUP」での『ストリートファイター6』のオープニング映像など、様々な制作を手掛けている。

このたび、第8回となる「東京国際プロジェクションマッピングアワード」の審査員に選出されるなど躍進を続けるNateさんのこれまでの足跡と、映像制作のミライについて話を聞いた。

――Nateさんが映像に触れるようになったきっかけを教えてください。

中学時代に『うごくメモ帳』というニンテンドーDSの無料ソフトでよく遊んでいたんです。

自分で描いた絵をパラパラマンガ調のアニメーションにできるソフトで、インターネット上の専用掲示板に作品をアップロードするとコメントがもらえたんですね。インプレッションや感想をもらうという作品を通じたコミュニケーションが面白くて。作ること自体も楽しかったんですけど、やり取りが楽しかった記憶があります。

そのあとパソコンをいろいろ触るようになって、MIDIキーボードを買ってもらったりして。

――なるほど。『うごメモ』で動画が作れるようになったから、じゃあ次は音声をつけてみよう……という感じなんでしょうか。

いや、その順序については関連してないですね。『うごメモ』は『うごメモ』で、その頃から単純にクリエイティブの領域全般に興味を持ちはじめた感じです。アニメだけじゃなくて映像とか音楽に手を出したというか。

――その頃はニコニコ動画が全盛だった頃ですか?

そうですね。僕みたいな学生が作品を作って発表する場となると、YouTubeよりもニコニコ動画が活発だった印象があります。

恥ずかしいんですけど歌にチャレンジしたこともあって、マイクを買ってミックスを勉強して、投稿したりもしてました。親友と一緒にゲーム実況をして、編集してテロップを入れたこともあります。でもどれも向いてなかったんですよね。

――すでにCGを作ってみたい気持ちもあったのでしょうか。

というより、右往左往した結果映像やCGにたどり着いたっていう感じです。何か表現する手段として、得意で楽しかったのがそれだったという感覚ですね。高校生でお金も無かったので、無料で編集ができる「AviUtl」というソフトを使ってました。

◆文脈を考えて制作する「その先に作品を待つファンがいる」

――CGの魅力はどんなところだと思いますか?

映像というジャンルは、大きく分けると実写かCGのふたつに分類されます。僕がCGに惹かれるのは、頭のなかにある映像をビジュアライズ化して人に伝えられること。僕の根幹にあるやりたいことを叶えるなら、CGのほうが適しているなと思ったし、面白そうだなと感じたことが大きいですね。

――ご自身の作品で印象に残っている作品をあげると?

僕は短期間でポンポン作るタイプではなくて、ある程度の時間をとって練り上げるものが多いんです。なのでどれも印象に残っているんですが、ここ1年だと、去年開催された「VALORANT Champions Tour」という『VALORANT』(エージェントを操作し、一人称視点で戦うバトルゲーム)のオフライン大会で作ったオープニングの映像ですね。

メインはフルCGで、ゲーム内のキャラクターではなく自分たちでショートフィルムのようなストーリーを作りました。ゲームと絡めたひとつの作品にして出したいと提案をして、受け入れていただけて。

――どういうテーマで制作されたのでしょうか。

大会に「夜明け」というテーマがあったんです。僕はFPSゲーム(ファーストパーソン・シューティングゲームの略。一人称視点でプレイするゲームのこと)の競技史を細かく追ってきたわけではないんですが、昨年、長らく世界ランクでくすぶっていた日本が大会で世界3位になるという快挙が起こったんです。

その状況があったのと、コロナ禍でずっとオフラインでしか大会が行えなかったけれど、ようやく対面のオンラインイベントが実施できるようになった。そのふたつの意味での「夜明け」というテーマがあったので、僕たちも映像内でさらに「夜を剥がせ」というキャッチコピーを作りました。

このキャッチコピーの「夜」を、ゲーム内に登場する日本出身という設定のキャラクター、“ヨル”にも絡めたり、ゲーム内のUIからインスピレーションを受けたグラフィックデザインを取り入れたりもしました。そういった種や仕掛けをいろいろ含ませたんです。

――かなり文脈を考えて作られるんですね。

めちゃくちゃ考えてます。クライアントワークは自主制作と違って、その先に作品を待つファンがいるんですよ。

『VALORANT』の大会に集まってオープニングの映像を見る観客は、ゲームが好きでその文化をずっと追ってきている人たち。そういう方々に失礼のないように、ちゃんとぶっ刺さるコンテンツであるべきだなと思っていて。

クライアントのコンテンツ自体からまずインスピレーションを受けて、再構築をして、自分の映像作品に落とし込んでいくことを意識しています。

僕も『VALORANT』が好きだし、しっかり仕掛けを入れ込みました。実際に会場で皆さんが盛り上がっているのを見て、ああ良かったなと思いましたね。

◆生成AIに“好意的”になっていったワケ「最終的には人間なんです」

――近年ではテクノロジーの進化も進んでいます。映像制作の分野において、生成AIの影響はどのように感じていますか?

急にこんな化け物が出てきてしまったので、パパッとやったらイラストが描けちゃうなんて、僕も最初は恐怖でした。でも少し時間が経って自分でも触ってみると、少しずつ僕の姿勢も変化して、今はわりと好意的です。

――どういう心境の変化があったんでしょう。

なんていうんでしょう。表現をするためには、それまでに自分が培った技術や、そこに辿り着くまでの努力や勉強が必要ですよね。でもAIがあるとその時間をショートカットできてしまうから、ものづくりをするうえでちょっと寂しさを感じていたんです。

でも僕が生まれるより前から活動するクリエイターたちは、もっと過酷な環境で作品を作ってきたわけで、彼らに比べれば僕だって完全に近道をしている。技術の進歩は今までにもあったことで、スピードが異様に速くなっただけ。そこにフォーカスして悲観的になる必要はないなと思いました。

あと、僕は普段プログラミングもやるんですが、PythonとかJavaScriptの勉強速度が加速しましたね。ウェブで調べるよりも完成速度があがったので、マジですごいなと。画像生成AIに関しては、リファレンス集めの拡張かなと思っています。ネット検索にプラスする形でAIがあるというか、アイデア出しのひとつという感じですね。

――実際に使うことで、いろいろ見えてきたと。

そうです。触ってみた人はわかると思うんですが、めっちゃ魔法というわけでもないんですよね。曖昧なオーダーをすると100%完璧なものは返ってこない。これが対人間の場合、相手が脳内で補完してくれるじゃないですか。でも現段階のAIはそこまでできない。しっかり言語化して伝えることが重要なんです。

だから雑にオーダーしたら完成するわけじゃなく、一緒に作っていくという感覚が正しくて。やり取りのなかで求めてるものが出来上がっていくから、指示を出すために脳の使ったことない部分を使っている感覚があります。なので、自分の言語化能力のたりなさを改めて実感しますね。ちゃんと言語化できていないなと。

いくら大量にAIからアイデアが出ても、それを責任を持って選ぶのは人間なんですよ。だから見極める力も必要になってきます。最終的には人間なんです。

その点を意識しながらうまく付き合っていけたら、っていうのが、現状の僕の考えです。技術の進歩が速すぎるので、数年経ったらまた考えも変わると思うんですけど。

◆「映像制作の入り口のハードルを下げたい」

――Nateさんが立ち上げた〈nim〉が「映像作家100人」に選出されました。今後のキャリアはどう考えていますか?

実は結構行き当たりばったりの人生なんですよ(笑)。

ただ、今後はクライアントワーク以外の自主制作もやっていきたいなと思ってます。クライアントワークも好きですが、何の制限もなく作品を生み出すことは続けていきたいなと。将来的にボリュームが半々くらいになるといいなと思いますね。

――制作以外の部分でやりたいことは?

作品づくりをもっとフランクに、一般の方にわかるように広めていきたいんです。

CGとか映像のことって、携わっていない人にしてみたら、身近じゃないし「パソコンでカチャカチャしてできるものでしょ?」くらいぼんやりしたイメージを持たれていると思うんですよ。なのでわかりやすく伝えていきたい。

すでに実践していることだと、作品を作ったあとに配信でおしゃべりしたり、オフィシャルサイトでも作品について記事化したりしています。なるべく専門用語は使わず、映像やCGが専門じゃない人たちに向けて届けたいですから。

――専門じゃない人に間口を広げることによって認識も深まるし、作り手も増えそうですね。

そうなんです。作り手が増えるのはめっちゃ嬉しいですね。

ゲーム関連の仕事をすると、ファンの年齢層って10代や20代が多いんです。すると10代の子から「Nateさんの映像見て、僕も制作を始めました」って声が届くんですよ。そうやってきっかけになれるのって、嬉しくないですか? そのためにも映像制作の入り口のハードルを下げたい。

いまだにCGや映像って難しい印象があるので、どう噛み砕いて発信していくかが大事かなと。

――これから映像制作を始める人にアドバイスを送るなら?

ある程度仕事にしていきたい人のために、という前提で話すと、「まず公開しよう!」ですね。これが意外と難しいんですよ。自主制作だと明確な納期が指定されていないから、納得できることなんてないし、もっとやりたくて作り続けてしまう。

もちろんクライアントワークも100%納得がいくなんてことはないけれど、納期があることで可能な限りパフォーマンスを出せる部分もあるわけですよ。だから一回自分でデッドラインを決めて、公開する。公開して、その反省点を次に活かす。そのサイクルを回せるかはけっこう大きいと思います。

いちばんよくないのが公開せずに眠らせちゃうパターン。出さないと次に進んでいかないし、誰からの評価もらえないから、仕事に繋がらない。僕も今こうして仕事ができているのはSNSに作品を上げたことがきっかけですから。

◆審査員を経験して

――今回、2023年11月11日に開催された「東京国際プロジェクションマッピングアワード Vol.8」の審査員という立場で参加されましたが、どんな気持ちで臨みましたか。

映像を始めて、ずっと追ってたクリエイターの方々と同じ壇上にあがれることがすごく光栄でした。審査員のなかでも業界経験的にも若造だと思ったので、しっかりこなせたらなという気持ちで参加しました。

――ご自身もエントリーされた経験をお持ちですが、今回の挑戦者の皆さんを見てどう感じましたか。

作品はいずれも素晴らしかったですし、出場される方々も皆さん素晴らしかったです。なんといっても、「まず作品を世に出す」というハードルをクリアした人たちですからね。

あと、複数名のグループで参加するチームも多かったと思いますが、映像制作は人数が増えるほど難しいんですよ。リーダーが頑張ってチームを回していかないと、制作が全然進まない。

それぞれの立場が不明瞭になりがちなので、そこをはっきりさせて、スケジュールを切っていかないといけない。ものすごく貴重な経験を積んで来られたんだろうなと思います。こういったイベントを機に、多くのクリエイターが生まれるのが本当に嬉しいです。

<文:飯田ネオ、撮影:大森大祐>

※Nate|ねいと
クリエイティブチーム〈nim〉代表。
2D、3DCGによるモーショングラフィックスを軸に、ジャンルやスタイルを問わない映像を手掛ける。
2018年に開催された「東京国際プロジェクションマッピングアワード Vol.3」で最優秀賞を受賞。

◆「東京国際プロジェクションマッピングアワード Vol.8」受賞作品

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

2023年11月11日(土)東京ビッグサイトにて開催。

海外を含む合計40チームが「OPEN」というテーマのもと、多彩な作品を制作。31チームが最終選考に進み、厳正なる審査の結果、以下の作品が各賞を受賞した。

【最優秀賞】NEXUS デジタルハリウッド大学

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

人間に知識を与えられ、教えを受ける“人工知能”という存在が思い描いているかもしれない未来を描いた作品。

【優秀賞】黄泉 東京コミュニケーションアート専門学校

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

人生にある”困難”という扉に自ら突っ込んでいく好奇心を表現した作品。

【優秀賞】Dream factory 日本工学院八王子専門学校

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

閉じ込めていた欲望が膨らんでいく様子を、子供心くすぐるお菓子に見立てた作品

【審査員特別賞】Appetite 韓国出身の3人組(2人はアメリカ在住、1人は日本在住)

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

人間の根源的な欲求「Appetite(食欲)」の概念をベースに、ビッグサイトの2つの壁を巨大な口に見立てた作品。

【審査員特別賞】bloom 東京コミュニケーションアート専門学校

©️東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

現状がつらかったり、挫折して立ち止まったりする中で少しずつでも前に進む力強さと、思考の柔らかさを表現した作品。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式サイト