全日本大学駅伝で大活躍したルーキーたち 前田和摩ら箱根駅伝でスーパーエースと呼ばれるようになるのは誰だ?
全日本大学駅伝は、駒澤大学が1区からトップに立つと、そのまま8区まで一度も首位を譲ることなくゴールし、大会4連覇を達成した。「駒澤大学一強」を印象づける駅伝だったが、一方で初駅伝を走るルーキーたちが目についたレースでもあった。
2区で区間新を記録した東農大の前田和摩 photo by SportsPressJP/AFLO
東京農業大の前田和摩(1年)は、10位で襷を受けると、2区を区間新の走りでチームを4位に押し上げる快走を見せた。区間トップの佐藤圭汰(駒澤大・2年)には10秒及ばなかったが、1年生で三浦龍司(順天堂大・4年)や山本歩夢(國學院大・3年)らエースの選手にタイムで打ち勝った強さは、同学年の学生からは「えぐすぎる」と言われるほどで、すでに違う次元に到達している感じだ。
前田ほどではないが、今回のレースで足跡を残した1年生のひとりが南坂柚汰(東海大・1年)だ。倉敷高校出身で昨年の都大路では1区5位と好走し、総合優勝を経験した。東海大は夏合宿を順調に終え、箱根駅伝の予選会では石原翔太郎(4年)、越陽汰主将(3年)を欠く中、チーム内2番(63分18秒・総合55位)で予選通過の立役者のひとりになった。
両角速監督は、その時から今回の起用を決めていた。
「予選会での走りがよかったので今回は4区か、5区で起用を最初から考えていました。長い距離が得意なので、本当なら5区だったのですが、鈴木(天智)が捻挫で回避したので、チーム内事情で4区に配置しました」
南坂は、12位で襷を受けると、順大と帝京大を追い越して10位にチームを押し上げた。
「2つ順位を上げられましたけど、自分が設定していたタイムよりも遅くなってしまい、力不足が出てしまいました。箱根予選会からスパンが短いですが、他大学の選手は今大会に合わせてきています。短いスパンでも長い距離を走れるようになるため、今回はいい経験になりました」
普段は、4年生の石原と一緒にポイント練習をすることが多い。石原についていけないこともあるが、今回は石原のような走りを意識していた。
「石原さんは、昨年の全日本で3区区間賞を獲り、順位も15位から12位まで上げるゲームチェンジャーの走りをしました。今回、自分もと思ったのですが、区間9位でシード権内の8位を走っていた早稲田大から1分28秒とさらに離されてしまいました。難しい状況でも自分の走りができるようにもっと練習から頑張っていかないといけないです」
課題はあるが、それでも区間9位と初駅伝ではまずまずの走りを見せたことで、箱根駅伝のメンバー入りも見えてきた。
「箱根までは2カ月ありますし、合宿などで調子を上げていければ箱根も見えてくると思います。希望区間は特にありません。山以外で監督が望むところで走って結果を出したいと思います」
今回は、1年生の出走が多かったが、他のルーキーは意識しているのだろうか。
「エントリー表を見ると1年生がいるなって思うんですが、常に上を目指していますし、学年が上でも同期でも前の選手に勝つことを意識して走っているので、特に同学年の選手を意識することはないです」
東海大は2年生に花岡寿哉や鈴木天智ら力のある選手が揃っているが、南坂は「一つの上の先輩たちが目指しているところに自分も貢献したい」という。エース候補でもある南坂は、目指すところを達成するために欠かせない存在になるだろう。
【國學院大ルーキー後村はトップと7秒差で襷】 1区では、ルーキーたちが素晴らしい走りを見せた。
國學院大の後村光星は落ちついたレース運びを見せ、区間6位で2区山本歩夢(3年)に襷を繋いだ。
「レースの1週間前から緊張して、吐き気を催すなど今まで感じたことがないくらいのプレッシャーを感じました。でも、そういうのを感じて先輩たちは走っているんだなって思って自分もそれを乗り越えていこうと覚悟を決め、スタートラインに立ちました」
スタートには名のある選手が並び、そのなかには仙台育英高校の先輩である吉居駿恭(中央大2年)の姿もあった。
「駿恭先輩は、高校時代の憧れの先輩です。吉居兄弟を越える選手になるのが僕の目標なので、同じ1区を走れたのはうれしかったですね」
スタート後も冷静だった。高3で都大路を経験し、1区9位と流れを作り、総合5位に貢献したが、今回も1区で良い流れを作った。
「自分は、3大駅伝初だったんですけど、先輩たちからは『失敗してもいいぐらいの感覚でいいよ。うしろに取り戻せるぐらいの力がある先輩がいるから安心して走ってこい』と言われたのでリラックスして走ることができました。トップの駒澤大に7秒差で襷を渡せたので、納得はしていないですけど、最低限の仕事はできたかなと思います」
チームは3位で終え、「3位以内」という目標は達成された。後村は山本と同部屋の「部屋っこ」で、いつか襷渡しが出来ればと思っていたが、デビュー戦でその夢が実現して「嬉しかった」と言う。次は箱根駅伝になるが、今回の結果を踏まえて箱根での出走も期待が膨らむ。
「箱根は走りたいですが、20キロになると今の力では通用しないと思います。夏に故障してしまい、スタミナが課題だなと思っているので、まずはその強化をしっかりやっていきたいです」
全日本の1区は9.5キロで、箱根の1区は21.3キロと今回の倍以上になる。どこを走るにしてもスタミナは必須だ。だが、それを強化できれば持ち味のスピードを活かして、國學院大の「3位以内」という目標達成に大きく貢献してくれるだろう。
「箱根の希望区間は、1区か6区です。下りが好きなので、6区で挑戦したいです」
5区に伊地知賢造(4年)、6区に後村がハマれば、箱根でてっぺんが見えてきそうだ。
【駒澤大・赤津にくらいついた創価大ルーキー織橋】 織橋巧(創価大1年)も1区で素晴らしい走りを見せた。
「スタート前は、思ったよりも緊張しなくて、自分よりもレベルが高い選手と一緒に並んでスタートできることにワクワクしてすごく楽しみでした」
スタート後は集団の中で息をひそめ、ラストで間瀬田純平(早大・2年)、赤津勇進(駒澤大・4年)のスパートバトルが勃発したが、織橋も必死になって粘った。
「自分が希望している区間だったので、それが叶ったんですけど、その分、責任があると思いました。1区でチームに流れを持ってきたいと思ったので、耐えて、耐えてのレースだったんですけど、ラストはよく粘れたと思います」
ラストでの競り合いは堂々と勝負し、トップの駒澤大に6秒差の区間4位。創価大にとっては上々のスタートになった。
「区間4位は、自分が想定していたよりも前との差を短くできましたし、順位的にも納得できるものでした。この経験を箱根駅伝に繋げられたらと思っています」
織橋の視線はすでに箱根に向けられている。長い距離は苦手ではないが、「未知数」ということもあり慎重だ。
「箱根の1区は、全日本の倍以上の距離になるので、今回以上の粘りが必要になりますし、ラストスパートで離されてしまったんですけど、そういうところに喰らいついていくスタミナも重要になってきます。そこは、今後、距離を踏んで対応していきたいと思います」
今回は1区だったが、実は中京高2年の時に出走した都大路でも1区(29位)を走った。箱根駅伝では、どの区間が希望なのだろうか。
「単独よりも集団走が好きですし、その中で持ち味である粘り、スパートをしっかり出していけたらと考えているので、1区が希望です」
きっぱりとそう語る表情には、自信と負けず嫌いな気持ちの強さが垣間見える。全日本の1区には後村、他区でも工藤慎作(早大)、本間颯(中大)らルーキーが出走していたが、同学年の選手からは刺激を受けているようだ。
「同学年の選手は、すごく意識します。箱根予選会での前田(和摩)選手はすごく良かったですし、世代のトップの吉岡(大翔/順大)選手、さらに今日は後村選手が一緒の区間でしたので意識しましたし、負けたくないという気持ちで走りました。世代トップのような選手に少しでも近づけたらいいかなと思っています」
今回の全日本大学駅伝では、彼ら以外にもルーキーが出走している。
出雲駅伝でデビューを果たした順大の吉岡(3区14位)を始め、創価大では織橋と同期の小池莉希(4区16位)、早大は工藤(4区13位)、東洋大の薄根大河(5区10位)らが苦戦する中、中大の本間颯(5区5位)のように快走する選手もいた。
今回、補員登録されているメンバーの中には、1年生の名前が多くあり、箱根駅伝ではそこに記されていた選手がどのくらい出てくるのか。また、どんな走りを見せてくれるのか。
箱根駅伝でチームを救うのは、意外とルーキーだったりするかもしれない。