三笘薫のドリブルはなぜ速いのか風間八宏が分析「ドリブル時のボールの回転に注目」
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回は、日々進化しているブライトンの三笘薫のプレーを解説。彼のドリブルはなぜ速いのかを詳細に語ってもらった。
◆ ◆ ◆
【ドリブル時のボールコントロールが正確】いまや世界最高峰のプレミアリーグのなかでも屈指のドリブラーとして知られるようになったブライトンの三笘薫は、10月20日にクラブとの契約を2027年6月まで延長。推定年俸は、5年総額で最大約40億円と言われている。
三笘薫のドリブルを風間八宏が解説 photo by Getty Images
2022年カタールW杯の約半年前、当時三笘がレンタル先のユニオン・サン=ジロワーズ(ベルギー)でプレーした2021−22シーズンを終えた頃、風間八宏氏にその特徴を解説してもらったが、あれから三笘が予想以上の進化を遂げたのは周知のとおりだ。
市場価格も右肩上がりとなっている現在の三笘は、当時と比べて何が成長したのか。あらためて、風間氏に聞いてみた。
まずは、三笘最大の武器とされるドリブルのディテールについて。相手の脅威となっている三笘のドリブルは、一体何が違うのか。
「いちばん見てほしいのは、三笘がドリブルする時のボールの回転です。
どの方向のドリブルでも、常にボールが縦回転をしています。しかも、自分の体勢がどんな状態になっても、ボールだけはいつも行きたい方向に縦回転で進んでいるから、彼が持っているスピードがボールに妨げられていません。だから、自分が進みたい方向に、最短かつ最速で進めるわけです。
もしボールの回転が斜めや横に変わってしまうと、彼のスピードにブレーキがかかってしまいますが、そうならない。まず、それ自体が誰でもできることではありません。
別の言い方をすれば、彼のドリブルはボールを運ぶ時に、ボールを持っていない状態になっている。つまり、自分から離れたところにボールがあってもボールをコントロールできていて、自分はただ走るだけの状態になっています。
リモコンでボールを遠隔操作しているような状態なので、あとは自分の体をそこに持っていくだけでいい。邪魔な相手をかわしていけば、自動的にボールを進みたい方向に運ぶことができるわけです。
そもそもこのドリブルは、それを可能にするための正確なボールタッチができなければ成立しません。ドリブルを始める前のボールの置き場所を含めて、これは彼独特の技術であり、その正確性が確実にレベルアップしたと思います」
速さとはプレーの正確性。正確でなければスピードは生まれない、という風間氏の理論どおりのドリブルを、三笘は実践していることになる。
【トレンドの「運ぶドリブル」】ドリブル突破というと、どうしてもフェイントなどテクニックを駆使しながら相手を抜き去るイメージがつきまとうが、明らかに三笘のドリブルはそのイメージとは異なっている。風間氏が続ける。
「三笘のドリブルもそうですが、近年は相手を抜き去るドリブルではなく、自分が行きたいところにボールを運ぶドリブルが主流になりつつあります。相手をよけるけれども、抜くわけじゃない。行きたい場所に直線的にボールを運び、なおかつ最短で進むことによって、相手を置き去りにしていく。これがトレンドになっています。
行きたい場所に最短で進むには、常にボールを縦回転で転がし、自分よりも前で走らせている状態でなければいけません。三笘のドリブルを見れば一目瞭然ですが、そういったボールタッチが正確にできるかどうかが、とても重要な要素といえます」
独特のドリブルテクニックによって、一躍プレーヤーとしてのステイタスを上げることに成功した三笘だが、しかしドリブルだけが武器にあらず。
とりわけカタールW杯以降は得点力がアップ。昨シーズンに挙げた7ゴールのうち、実に6ゴールをカタールW杯後のシーズン後半戦に記録し、今シーズンもすでに3ゴールをマークするなど、フィニッシャーとしての能力も高めている。
「ゴールを決められるようになってきたのは、彼がゴールを決めるためのポジションを見つけられるようになったからです」
三笘がゴールを決められるようになった最大の理由を、風間氏が説明する。
「ゴールを決める前の動きを見ていればわかると思いますが、相手の動きをしっかり見て、常に相手の背後にポジションをとっています。そういうのを覚えたことで、無駄に相手と競り合わなくてもシュートできるようになりました。
ヘディングで決めたゴール(第6節ボーンマス戦)などはその典型で、ゴール前に早く入りすぎず、相手を見ながらDFの背中をとったことで、完全にフリーの状態でヘディングシュートを決めています。あの時の三笘は、ボール、味方、敵と、すべてが見える状態のポジションをとれていました。
ゴール前で冷静にそのような動きをするのは、簡単ではありません。そういう意味で、ドリブルだけでなく、シュートについても、三笘のプレーは実に理にかなっていると思いますね」
【今後は成功回数をいかに増やしていくか】では、風間氏から見て、現在の三笘に課題があるとすればどこになるのか。最後に、今後の成長のために必要なポイントを聞いてみた。
「もちろん、すべてのドリブルやシュートが成功しているわけではないので、今後は成功の回数をいかに増やしていくかがポイントになると思います。
当然、相手のマークも厳しくなっているのでそう簡単ではないと思いますが、失敗を恐れる必要はないと思います。実際、昨シーズンからの彼の成長ぶりは数字にも表れているわけですし、いま大事なのはこれを続けていくことです。
もしこの先、違うチームでプレーすることになるのであれば、またそこで見つけた課題に取り組む。選手はそうやって進化していくものですから」
まだ進化の途上にある三笘は、今後どのような選手になっていくのか。三笘の一挙手一投足から目が離せない。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手、サッカーコーチを指導。来季は関東1部の南葛SCの監督兼テクニカルディレクターに就任する。