久保建英がずっと上に行く可能性をソシエダのレジェンドが語る「成長は続く」
レジェンドが語る久保建英(5)
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の本拠地サンセバスチャンで、伝説的選手たちとの連続インタビューに成功した。いずれも下部組織で育ち、主力として時代を担った人物ばかり。ラ・レアルの魂を持つ者たちだ。
彼らには現在のエース、久保建英について語ってもらった。題して「レジェンドが語る久保建英」。レジェンドの視点で、久保という人物、プレーを掘り下げる。
11月11日、久保はアルメリア戦で敵地に乗り込む。代表戦ウィーク前の一戦で、戦力的に格下と言える相手をしっかりと叩き潰せるか。レジェンドたちはそうやってひとつひとつの試合を戦い抜き、ひとつの境地に達している。
第5回は、ラ・レアル史上最多599試合出場を誇る伝説的センターバック、アルベルト・ゴリス。引退するシーズン、最終節でアップを命じられながら出場が許されず、600試合に届かなかったが、皮肉にもその逸話と数字が、今も人々の間で語られる。アトーチャという以前のホームスタジアムのラストシーズンでスパイクを脱いだ、まさに伝説の人物だ。
チャンピオンズリーグ、ベンフィカ戦に快勝したレアル・ソシエダの久保建英photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
「タケがスペインに来た時から、ずっと注目してきたよ。当時からラ・リーガで活躍するのに十分な才能は備わっていた。ただ、ラ・レアルに来て以来、持っているものを全て出しきれるようになっているね。すごいスピードで成熟しているし、その成長はこれからも続くだろう」
アルベルト・ゴリスは柔らかな声音で、ラ・レアルで輝きを放つ久保建英について印象を語っている。
ゴリスはラ・レアル史上最多599試合出場の伝説的センターバックである。下部組織スビエタで育ち、1979年にトップデビューを飾っている。屈強なマーキングと強烈なヘディングで、1980−81、1981−82シーズンにはラ・リーガでの連覇に貢献。1982?83シーズンにはスペインスーパーカップのタイトルを勝ち取り、チャンピオンズリーグの前身チャンピオンズカップでベスト4に進出している。
「ラ・リーガではレアル・マドリード、バルサ、もしくはアトレティコ・マドリードが優勝するのが常なんだよ。自分たちラ・レアルは、ほとんど下部組織出身の選手で1シーズンを勝ち抜き、大都市のクラブではないにもかかわらず、優勝することができた。その経験は我ながら誇らしく思っているよ。それも連覇で、チャンピオンズカップも惜しいところまで行ったのだから、地方のクラブには大きな価値があったんだ」
【タレントがチームのプレースタイルとマッチ】
今も語り継がれるセンターバックは、日本人の久保をどう表現したのか?
「ディフェンダーだった立場からタケの長所を語るなら、まずは自分のプレーに確信がある点だろう。これは守る側にとっては脅威だよ。迷いがないからね。
そしてタケはどのような状況でもプレーをキャンセルし、ベストのプレーを選択できる。たとえば彼は左利きだが、右からでも左からでもボールを持ち出せる。プレーを読みきれない。選択肢を絞りにくいから、守る側にとっては骨が折れる(笑)。スピードと同時にテクニックが高く、いろいろなプレーの選択肢があるんだよ。ドリブル、パス、シュート、なんでもござれだ。ひとつひとつのフェイントをとってもクオリティは高い。おそらく、そのタレントがラ・レアルのプレースタイルとマッチして増幅している。だから、これからも期待できる」
もっとも、対戦相手も久保を研究するようになってきた。それも世界最高水準の守備者たちが、久保を封じるために工夫している。たとえばレアル・マドリードは、後半からフラン・ガルシアが縦を、トニ・クロースが中を切り、行く手を遮った。また、インテルはウイングバック、センターバック、左MFがトライアングルを作って久保を囲んでいた。そこを切り抜けるためには、久保も次のフェーズに入る必要があるのだろう。
「インテルは間違いなく研究し、作戦を練ってきた。タケは今シーズン開幕以来、ずっと好調が続いているし、そこを封じてくるのは当然のことだろう。ただ、それでも相手との駆け引きで、ボールを受けると数的不利でもクロスを合わせていた。インテルのディフェンダーはとても能力が高かったし、タケは今後もそういうバトルを積み重ねていくことだろうね。
タケはすでにラ・レアルにとって重要な選手だよ。個人的には、少しでも長くラ・レアルでプレーしてほしいけど、このままいけば経済的にもっと裕福なクラブからのオファーが舞い込んでくるだろうね」
【リーガ制覇という快挙の再現は?】
地元では、久保を「ロペス・ウファルテの再来」とする声もある。ウファルテは左利きでキックに長け、ドリブルはトリッキーで、得点力も高かった。主戦場が左ウイングだっただけに、2人を同じようには語れないが、1980年代、連覇した最強ラ・レアルでチームメイトだったゴリスの言葉は説得力があった。
「ロペスとタケが似ている部分はあるのだろう。ただ、自分はロペスとチームメイトとして一緒にプレーしたが、ラ・レアルでは2度ラ・リーガを制覇して、スペイン代表でも多くの実績を残している。"キャリア"という点では、まだ比較するべきではないよ。
ただ、将来的にタケがロペスのようになったとしても不思議ではない。タレントだけで言えば、タケはロペスよりも上なところがあるし、ずっと上に行く可能性だってある。その意味では、タケはまだ若く、これからの選手ということだ」
ゴリスはレジェンドと言われるが、偉ぶったところは一切なく、キャリアに相応しい鷹揚さを持っていた。スペイン代表としてもイタリアW杯に出場し、得点も記録している。その分析は端的だった。
そこで最後の質問を向けた。
――ラ・リーガ王者として、もしタケに何かアドバイスするとしたら?
「タケのことは個人的に知らない。でも選手として謙虚だし、"成長したい"という向上心や野心を感じさせるよね。そのパーソナリティは、成功するための条件だ。
タケがラ・リーガ優勝の快挙を再現できるか? できたらいいよね! ラ・レアルは下部組織から選手を輩出させながら、いいチームを作っている。そこにタケのように重要な選手が入り、違いを出せれば、どんどん強くなる。勝つことで自信をつけて戦いに挑むことができたら、かつてのような快挙を繰り返せるはずだ。
チームメイトたちの声も自分の耳には入ってくる。『すごくいいやつで、普通に馴染んでいる』ってね。チームに受け入れられているのだろう。みんなが思わず笑ってしまうような楽しいこともするというから、すごくいいヤツなんだと思う。日本とバスク、スペインの橋渡しというか、サッカー、スポーツを超え、社会の中の人間としてすばらしい存在になっているよ」
Profile
アルベルト・ゴリス
1958年、イルン(バスク)生まれのDF。レアル・ソシエダの下部組織出身で、1979年、トップチームデビュー。以来、レアル・ソシエダひと筋で、1992−93シーズン終了後に引退。公式戦通算ではクラブ最多の599試合に出場。スペイン代表として12試合に出場している。