久保建英はなぜ止められないのか? レアル・ソシエダの伝説的サイドバックが指摘「メッシに似ているよ」
レジェンドが語る久保建英(2)
サンセバスチャンでレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の伝説的選手たちとのインタビューに成功した。いずれも下部組織で育ち、主力として時代を担った人物ばかり。ラ・レアルの魂を持つ者たちだ。
その彼らに現在のエース、久保建英について語ってもらった。題して「レジェンドが語る久保建英」。レジェンドの視点で、久保という人物、プレーを掘り下げる。
10月29日、久保はラージョ・バジェカーノ戦を迎える。小さなクラブだが、一体となって戦うだけに、簡単な相手ではない。ビッグゲームとの合間にあるこうした試合も、エースは活躍を求められる。レジェンドはどんなメッセージを送るのか。
シャビ・プリエトに続く第2回は、2003−04シーズンにラ・レアルでチャンピオンズリーグ(CL)を戦ったサイドバック、ロペス・レカルテだ。
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チャンピオンズリーグのベンフィカ戦でMVPを獲得した久保建英(レアル・ソシエダ)photo by ZUMA Press/AFLO
「あえて言えば、タケはメッシに一番似ているよ」
ロペス・レカルテはレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英について、世界最高の選手であるリオネル・メッシとの比較論で解説している。
「ボールを運び、ゴールに向かい、アシスト、もしくはシュートのところで、とにかくバリエーションが多い。ほとんど生来的に周りと協調し、プレーの可能性を広げられるんだ」
レカルテは90年代から2000年代にかけ、10シーズン以上、ラ・レアルのサイドバックとして320試合に出場している。主戦場は右サイドバックだったが、際立ったユーティリティ性で左サイドバックとしてもシーズンを通してプレーしたことがある。2003―04シーズンのクラブ史上初のCLにも、ダルコ・コバチェビッチ、バレリー・カルピン、シャビ・アロンソらと出場し、ベスト16進出に貢献している。
スペイン代表にも選ばれた経験のあるサイドバックが、久保をメッシと比較した点は重要だ。
「プレースタイルや左利きで体のサイズ......やっぱり、メッシに似ているよね。もちろん、メッシに匹敵する選手はなかなか現れないと思っているけどね。特に数字のところで、シーズン50得点なんて尋常じゃない(笑)」
【SBとして久保対策を考えてみた】
そこで、こう質問をぶつけた。
――ラ・レアルの伝説的サイドバックとして、もし久保建英と対峙したら、どう止めていたか?
レカルテは肩をすくめて答えている。
「あれだけのタレントを止めるのは、正直、相当に苦労するだろうね。ボールを持たれてしまったら、アドバンテージを取られてしまうから。とにかく距離をとって、ディフェンスとしては彼のアクションに反応するしかない。近い距離からフェイントで動かされると、背後を取られる。
メッシもそうだったけど、タケは左足がすごいんだけど、右足でも繊細なキックやコントロールができる。昔はレフティは左足一本みたいな選手が多かったし、今もその傾向はあって、守るほうはそれでどうにかできるところがあるんだけど、タケが危険なのは、両足で蹴れるところにもあるだろうね」
そして、レカルテは"久保対策"についてサイドバックとして語っている。
「ディフェンスにとってひとつ大事なのは、個人的にはアタッカーと"一発目のプレーでどう向き合うか"だと思う。そこで好きにさせてしまったら、守りきれない。とくにタケのような選手は勢いづいてしまうからね。序盤に後手に回ってしまうのは避けたいから、一発目はかなり強度を上げ、ハードにコンタクトをするべきだ。
難しいのは、そこに駆け引きがあるところだね。当然、タケも十分にそこは予測し、罠を張っている。そこでディフェンス側がファウルでイエローカードをもらうと、途端に不利になる。そこからはプレーが制限されてしまうからだ。
それでも、ディフェンスはガツンとぶつかって警戒させないと、どうにもならない(苦笑)。ダメージを与えるわけじゃないけど、そこはファイトするところだ。だからこそ、一発目が本当に大事。実際、今では対戦相手のサイドバックが、ほとんどそこを意識してプレーしているよね。まあ、敵じゃなくてよかったよ(笑)」
レカルテは、そう言って実戦的な説明をした。彼が現役だった時代のウイングは、右利きは右サイド、左利きは左サイドで、縦への突破が主だったが、今は利き足とサイドが逆で、中に仕掛けるプレーが中心になっている。だからこそサイドバックとしては苦戦を強いられるという。
【「スタートはサイド」が適性】
「自分は右サイドバックが多かったから、左利きのタケが左サイドでプレーする場合は、できることは限られているから、どうにか対処できただろうという自信はある。同じように優れたレフティとは何回もやったから。ただ、もし左サイドバックで、今の彼と対戦することがあったら、悩ましい。オプションがたくさんあるから、それに対処するのは大変だ」
久保は今やチームの中心となりつつあるが、ベストポジションはどこなのか。レカルテは、サイドバックらしい分析をした。
「今のところ、タケはサイドでダメージを与えている。ただ、固定しているわけではなくて、時にポジションを変えながら、中でもプレーしている。サイドがスタートポジションなだけで、トップ、トップ下とも言える。フレキシブルな攻撃が一番、脅威になるだろう。
イマノル(・アルグアシル監督)も、スタートはサイドでプレーしてほしいようだね。なぜなら、カウンターに入った時も、久保はスピードもあるから、サイドから単独で活路を開ける。これはチーム戦術としては大きい。いろんな選択肢を持っているからこそ、危険な選手として恐れられているんだ。
タケは今まで所属したチームと違い、ラ・レアルでは自信を持ってプレーしている。それが爆発につながっているのだろう。サンセバスチャンという町、ラ・レアルというクラブ、そしてタケ自身が、スペインに来て成熟するタイミングがマッチしたんだ。
タケは、ラ・レアルでのプレーに集中できているのがいい。他のオファーに目も向けなかった。チームメイトに話を聞いても関係性はいいようで、それは重要なことだよ」
最後に、久保が次のステージに進むために必要なことを聞いた。
「さらに世界的な選手になるには、才能や実力だけでなく、いろんな要素が大事になる。ケガがあるかもしれないし、監督と合わないこともあるかもしれない。一流の選手は、そこでの運を持っているものだよ。また、大舞台での戦いで、驚くような飛躍を遂げる選手もいる。その点でもCLは力を試される舞台になるだろう」
Profile
ロペス・レカルテ
本名アイトール・ロペス・レカルテ。1975年、バスク州生まれのDF。レアル・ソシエダの下部組織出身で1997−98シーズン、トップチームデビュー。2007年、アルメニアに移籍。2009年、エイバルで現役を引退。2004年にはスペイン代表に選ばれている。