チャンピオンズリーグ(CL)はグループリーグ前半の3試合を終了。バイエルン(グループA)、レアル・マドリード(グループC)、マンチェスター・シティ(グループG)、バルセロナ(グループH)の4チームが全勝で折り返した。

 なかでも最も順調そうに見えるのは2連覇を狙うマンチェスター・シティ。異彩を放っているのは今季レンヌからやってきた新戦力ジェレミー・ドク(ベルギー代表)だ。先の(21日のプレミアリーグ)ブライトン戦では左ウイングとして先発を飾るや大活躍。中3日で迎えたCLのヤングボーイズ戦は、左ウイングにジャック・グリーリッシュが先発したため、右ウイングに回ってプレーした。その適性に注目が集まるなか、上々のプレーを披露。左右のウイングが務まることを知らしめた。

 マンチェスター・シティのウインガーにはグリーリッシュをはじめ、フィル・フォーデン、ベルナルド・シウバなど技巧派が多い。攻撃がどこか上品に見える理由だが、ドクのプレーは荒々しい。エネルギッシュでパワフル。その場をぶち壊す破壊力がある。その異彩によりチームはスケールアップした。対応力が広がったように見える。マンチェスター・シティは準々決勝ぐらいまですんなりと勝ち進みそうである。

 バイエルンは3戦目でガラタサライに苦戦した。最後は力でねじ伏せ3−1で勝利したが、途中まで相手のいいサッカーに翻弄され、斬るか斬られるかの戦いに持ち込まれた。バイエルンといえば、グループリーグは問題なく突破するものの、決勝トーナメントで脆さを見せる傾向がある。ここ一番に弱い原因は対応の幅の狭さにあると見ているが、ガラタサライ戦はそうした脆さが解消されていないことが透けて見えた。強いけれど、予期せぬ衝撃にポッキリ折れそうなチーム。少なくとも、今季はいけそうだとの確信は抱けずにいる。

 それ以上に心配になるのが、3戦目でブラガに2−1で辛勝したレアル・マドリードだ。カリム・ベンゼマが抜け、イングランド代表ジュード・ベリンガムを獲得。その結果、サッカーの中身が大きく変化した。前向きにか、後ろ向きにかといえば、後者だ。ずいぶん守備的になった。3トップから2トップへ。両ウイングがいないサッカーである。表記するならば4−3−1−2。中盤ダイヤモンド型の4バックだ。

【レアルの変化は吉と出るか凶と出るか】

 指揮官カルロ・アンチェロッティが、ミランの監督としてCLを制した2006−07シーズンと同じ布陣である。レアル・マドリードの監督として今季で通算5シーズン目を迎えるが、この布陣の採用は初めてで、かつての栄光にすがろうとしているかのように見える。

 サイドアタッカーは左右のサイドバック(SB)各1枚。高い位置からのプレスはかかりにくい。ブラガ戦でも、1点を追いかける相手が終盤、攻勢に転じると、自ら引いて構える態勢を取った。

 レアル・マドリードがバルセロナからルイス・フィーゴを獲得したとき、当時の監督ビセンテ・デル・ボスケに話を聞けば、獲得した理由についてこう説明した。「2トップのサッカーから3トップのサッカーに変え、攻撃のルートを2本から3本に増やしたかった。そのために右ウイングを獲得したのだ」と。レアル・マドリードは以来、20年強、基本的にずっと3トップだった。両ウイングが存在するサッカーを実践してきた。

 ベリンガムという欧州を代表する若手選手を獲得したが、他方でサッカーは後ろに重たくなった。この大きな方向転換。吉と出るか凶と出るか。少なくとも昨季の覇者、マンチェスター・シティとは真反対のサッカーである。時代の流れとは異なるサッカーで欧州一の座にカムバックできるだろうか。難しい、と筆者は見る。

 バルセロナは強いのか、弱いのか、判然としない。右肩上がりに転じていることは確かだろう。どん底からは脱したとみるが、上昇の程度がわからない。将来有望な若手は目白押しだが、それが成績にどこまで反映されるか。


ベンフィカ戦でMVPを受賞する活躍を見せた久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Ricardo Larreina/AFLO

 日本人選手が所属するクラブではフェイエノールトのサッカーが光った。2戦目のアトレティコ・マドリード戦は2−3で惜しくも敗れたが、3戦目のラツィオには、質の違いを見せ快勝。E組でこの日セルティックに引き分けたアトレティコを抜き、トップに立った。

 1トップで先発したメキシコ代表サンティアゴ・ヒメネスが2ゴールを挙げる活躍だったため、上田綺世に出番が回ってきたのは後半34分だった。追加タイムは6分。上田のプレー時間はすなわち正味17分間あった。ところが上田はその間、有効なボールタッチが1度もなかった。待つタイプのCFとはいえ、これではアピールにならない。好調ヒメネスとの差が目立つ恰好になった。

【冨安はまもなく常時出場へ】

 それ以上に心配なのは鎌田大地だ。ラツィオのサッカーがまるでよくないにもかかわらず出番なし。マウリツィオ・サッリ監督から高い評価を得ていない様子だ。移籍は失敗だったかに見える。

 対照的にセルティックの古橋亨梧と前田大然は、アトレティコ戦で水を得た魚のような生き生きとしたプレーを見せた。古橋は前戦(ラツィオ戦)に続きゴールをマークしたが、何と言ってもその質の高さが光った。守りが自慢のディエゴ・シメオネのチームに対し開始4分、ゴール右サイドからワンツーを見せる。デンマークU−21代表のMFマット・オライリーから正確なリターンを受けると、ゴール左に鮮やかに蹴り込んだ。

 また前田は前半28分、相手の背後を取り、左サイドを疾走。そのマイナスの折り返しをホンジュラス代表ルイス・パルマのゴールに結びつけた。

 後半になるとセルティックはアトレティコの猛追に遭い、守りっぱなしになったため、両者のプレー機会は限られた。それでも採点で7点は十分に出せる活躍だった。

 旗手怜央は不運にも開始7分、ケガで退場。ベンチ入りしていた岩田智輝には出番が回ってこなかった。

 セビージャとアウェーで対戦した冨安健洋所属のアーセナルは1−2で接戦を制し、勝ち点を6に伸ばしてB組の首位に立った。昨季のプレミアリーグ2位チーム。ブックメーカー各社の優勝予想でもマンチェスター・シティ、バイエルン、レアル・マドリードに次いで4番手につける。だが、いまのところ優勝を狙う勢いは感じられない。高い能力を誇るブラジル代表のガブリエル・ジェズスとガブリエル・マルティネリ、イングランド代表ブカヨ・サカの3FWに頼るサッカーになっている。マンチェスター・シティとの差は大きいと見る。

 セビージャ戦で冨安は左SBとしてフル出場を果たした。前節(ランス戦)は右SBで先発。交代出場だったプレミアリーグ、マンチェスター・シティ戦、チェルシー戦は左SBと、最近は左が増えている。ライバルはイングランド代表ベン・ホワイトからウクライナ代表オレクサンドル・ジンチェンコに変わりつつある。

 このセビージャ戦では、右SBとして先発したベン・ホワイトよりも安定していた。ソツのないプレーができていた。常時出場は時間の問題のように見える。SBが板についてきた感じさえする。「サッカーはSBで決まる」「SBが活躍したほうが勝つ」との、サッカー界の格言に従えば、日本代表でもSB冨安を見たくなるのだ。

 久保建英所属のレアル・ソシエダもD組で、昨季の準優勝チーム、インテルを得失差で抑え首位に立っている。3戦目では当初、この組のライバルと目されたベンフィカを倒し、2位以内が見えた状態にある。

 久保の貢献度は高い。推進力がここ1年で大きく増し、アタッカーらしくなった。縦に抜けるフェイントを身につけたことがなにより大きい。日本代表の先のチュニジア戦では1トップ下でプレーしたが、右ウイングのほうがその魅力は生きるように思う。

 あとは得点だ。CLで何点とれるか。選手としての"箔"はそれに比例する。そうした意味でも2点を奪った古橋が光って見える。アトレティコ戦の先制弾はまさに拍手喝采もののビューティフルゴールだった。ひと皮剥けた印象を抱くのは筆者だけか。