神戸J1初優勝のキーマンは大迫でも武藤でもない アカデミー育ちの佐々木大樹が救世主となる!
鹿島アントラーズとの勢いの差は歴然だった。
立ち上がりから前への圧力を強めたヴィッセル神戸は、長いボールを蹴り込んではセカンドボールを回収し、相手陣内で多くの時間を過ごした。失っても出足鋭く再びボールを奪い返し、シンプルにゴールへと向かっていった。
国立で2ゴールを決めた佐々木大樹 photo by Getty Images
16分には左サイドを攻略して佐々木大樹がヘディングシュートを叩き込むと、前半終了間際にも再び左サイドを切り崩し、今度は井出遥也が頭で押し込んで前半のうちに2点のリードを奪った。
後半に入ってもプレー強度は衰えず、素早いショートカウンターで追加点の機会をうかがった。83分にはセットプレーから再び佐々木が決めてリードを広げると、終了間際に1点を返されたものの大勢に影響はなく、首位・神戸が5万人以上の観衆が詰めかけた鹿島との「国立決戦」を3-1で制した。
「前半からチャンスをたくさん作れたと思うし、勝利にふさわしい内容でもあったと思います」
吉田孝行監督が振り返ったように、内容の伴った完勝である。この結果、優勝の可能性をわずかに残していた鹿島の希望は完全に潰えている。
一方、3連勝を達成した神戸は勝ち点を61に伸ばし、2位の横浜F・マリノスとの差は4ポイントをキープ。残り4試合、いよいよ初優勝が現実のものとなってきた。
戴冠へ向けて突き進む今季の神戸において、なにより最前線に位置する大迫勇也の存在が大きい。すでに20得点を記録する決定力の高さはもちろん、長いボールを収められるポストワークが、神戸の戦術を機能させている。
ウイングを担う武藤嘉紀も同様の役割を担いながら、裏に飛び出し、ゴールにアシストと得点機を量産。ほかにも酒井高徳や山口蛍といった経験豊富なタレントたちの個の力が、神戸の戦いの肝となっているのは間違いないだろう。
華麗さはないものの、質実剛健──。その戦いこそが、今季の神戸の強さの源だ。したがってクオリティをもたらす一方で、その強度が不足するアンドレス・イニエスタには、今の神戸には居場所がなかったのである。
【大迫や武藤のプレーを練習から盗んで形にした】大迫、武藤の存在が際立つ一方、対戦相手の警戒が強まっているのも事実だろう。9月以降、大迫の得点ペースは落ちてきており、武藤にしても貢献度の高さは変わらないものの、目に見える結果を残せなくなってきた。ふたりの大黒柱が封じられれば、チームの停滞を招きかねない。
そんななかで救世主となりそうなのが、鹿島相手に2ゴールを奪った佐々木である。
アカデミー出身の佐々木は現在24歳。サイドとインサイドハーフをこなすユーティリティは、ブラジルのパルメイラスに修業に出た経験もある。プロ4年目の2021年に30試合に出場するも、昨季はケガもあり19試合の出場にとどまっていた。今季も序盤は途中出場が続いたが、5月以降にインサイドハーフのポジションを掴み、ブレイクの予感を漂わせていた。
飛躍的に向上したのは得点力だ。昨季までリーグ通算得点数は2に留まっていたが、この日の2得点で今季の得点数を大迫、武藤に次ぐチーム3位の7に伸ばしている。
変貌の理由について佐々木は「いいお手本が前の選手にはたくさんいるので、練習から盗んで、少しずつ形になってきたんじゃないかなと思っています」と言う。
盗むだけではなく、的確な助言も佐々木の成長を促しているようだ。
「練習から、最後のところはサコ(大迫)くんにもずっと言われています。練習で合わなかったりすると、『そこだよ、お前はそこだよ』っていうのは常に言ってくれているので、本当に最後のところは意識できるようになってきました。『その体勢じゃ、シュート入んないよ』とか、けっこう細かいところまで言ってくれるので、ありがたいですね」
この日も先制点を決めて喜ぶ佐々木は、大迫からさらに高い要求を突きつけられたという。
「続けろ、続けろ、それじゃ終わるなって」
その言葉に応えるように、佐々木は見事に2点目も奪っている。
【山口蛍は「日本を代表する選手になれ」と激励】大迫だけではなく、ほかのチームメイトも佐々木に対する期待感は大きい。
「ゴールに向かっていくプレーであったり、ゴール前で仕事することが多くなったので、 そこが得点の増えてきた要因かなと思います」
そう分析するのは山口だ。
「今までは『いいプレーだけ』で終わっていたけど、今年は得点という結果もついてきているから、たぶん、より自信を持ってプレーしていると思います。ただ、 7点でも少ないかなって思うし、やっぱりあれだけのクオリティ持っているのであれば、もっと点を取らなきゃいけないと思います」
大迫と同様に、より高いレベルを佐々木に求める山口だが、それも期待の裏返しなのだろう。
「やっぱり今のチームにとって、不可欠な選手であることには間違いないと思います。周りにサコだったり、ヨッチ(武藤)だったり、お手本になる選手がいるわけで、そこを見てもっともっと成長して、日本を代表するような選手になって、チームを引っ張っていってもらいたいなと思います」
世界を知る経験豊富な先輩たちからの叱咤激励を浴びながら、劇的な成長を続ける24歳には、確かな自信が芽生えているようだ。
「やっていることは見てのとおり、チームが走って、攻守で走ってというのは変わらない。そこにプラスアルファで、最後の質のところを個人的に上げていければ、もっともっとチームもよりいい方向に行くと思うんで、そこをしっかりと上げていきたいです」
大迫でもなく、武藤でもなく、山口でもなく、さらなる高みを目指すこの生え抜きが、初優勝のカギを握る存在なのかもしれない。