井端弘和「イバらの道の野球論」(23)

 10月26日に行われるプロ野球ドラフト会議で、指名候補に挙がる高校生の多くが参加した「WBSC U−18ベースボールワールドカップ」(8月 31 日〜9月10日@台湾)。そこで優勝したU−18侍ジャパンの大会前の国内合宿で、臨時コーチとして指導を行った井端弘和氏の目に留まった選手は誰なのか。

 10月3日に日本代表のトップチームおよびU-15の監督に就任した井端氏に、各選手の印象を聞いた。

(インタビューは日本代表の監督就任前に実施)


ドラフト候補の大阪桐蔭・前田悠伍 photo by Sankei Visual

【ドラフト1位候補の前田は「噂通りの実力」】

――臨時コーチとして見たU−18チームの印象はいかがでしたか?

「各ポジションや打順に適材適所で起用できる、とてもいい選手たちが揃っていました。国内での大学日本代表との壮行試合では差を見せつけられましたが(0−8)、大学日本代表レベルの海外のチームはそうないだろうと思っていましたし、ワールドカップも勝てると思っていました。実際に優勝しましたが、隙がないメンバーでしたね」

――その中でも注目した選手について伺えたらと思います。まず投手で、ドラフト1位での指名も予想されている大阪桐蔭の前田悠伍投手はいかがでしたか?

「甲子園には出られませんでしたが、噂どおりの実力でした。特にマウンドさばきや投球術がすばらしかったです。動揺がなく、どんな状況でも自分のペースで投げられますし、ときどき強気な部分が見えるのもいい。野手は安心して守れるでしょうね。

 投げるボールも、スピードガン表示より速く感じました。真っ直ぐだけでカウントを取るのではなく、スライダーやチェンジアップなどもいいので、それらを使って組み立てながら抑えられていた。すべてのボールで勝負ができる投手だと思います」

――他に気になった投手はいましたか?

「沖縄尚学の東恩納蒼(ひがしおんな・あおい)投手ですかね。真っ直ぐも変化球もコントロールが絶品でした。172cmと小柄ではありますが、プロでも活躍できる素質があると思います」

【慶應・丸田に感じた高い対応能力】

―― 続いて野手について伺います。今夏の甲子園で優勝した慶應の丸田湊斗選手のプレーをどう見ていましたか?(丸田はプロ志望届を提出せず)

「甲子園を最後まで戦った疲労の影響もあってか、チームに合流してからしばらくは苦しんでいましたね。U−18では木製のバットを使うことになるわけですが、それに対応するのも他の選手より遅れるわけですし。ただ、徐々に調子を上げて、ワールドカップの決勝トーナメントでヒットを打てていたのはさすがだと思って見ていました」

――丸田選手の魅力は?

「練習試合の時点から、毎打席でいろんなことを考えているのがわかりました。そこで感じたことを、次の打席のバッティングに生かすことができる。そういった対応能力が優れていましたね」

――先ほど木製バットへの対応の話が出ましたが、金属バットとの違いはどういったところに表れるのでしょうか。

「金属バットは反発力があるというか、すぐにボールが"ポーン"とバットから離れてくれる。それが木製バットだと、少し反発が弱くなるのを感じるはずです。ある程度はヘッドを効かせないと飛ばないと思うのですが、丸田選手は打席でそれを意識しているのが見えました。

『木製バットでどう飛ばすのか』という方法に正解はありません。右バッターであれば右手で押し込むなど、選手それぞれの感覚によって変わりますから。丸田選手も正解を見つけたかどうかはわかりませんが、そういった対応が必要であることの気づくのが早いですね。大学に進学しても、投手のボールにすぐ対応できるんじゃないでしょうか」

――他に野手で注目した選手はいましたか?

「横浜の緒方漣選手(プロ志望届を提出せず)は面白かったですよ。上背はない(167cm)ですがバッティングにパワーを感じました。守備については、ワールドカップは本来のショートではなくセカンドを守っていましたが、セカンドの動きがパッとできていた。これまでにセカンドを守っていた経験がどれだけあったのかはわからないですけど、『長年セカンドをやっているのかな』という印象でしたし、守備力の高さを感じましたね」

【U−18を率いた馬淵監督は「さすがの手腕」】

――そういった選手たちに臨時コーチで指導する際、U−18の馬淵史郎監督とどんな話をしましたか?

「"小技"を教えてほしい、という話をしましたね。例えばバントだと、金属バットでは角度をつければ勝手に弾かれてボールが転がってくれますが、木製バットはそうはいかない。そこでの右手、左手の使い方を教えました」

――実際に馬淵監督は、"スモールベースボール"でワールドカップを制しましたね。

「練習試合の段階から、バントもそうですが、エンドランなどを積極的に用いていました。そこでヒットがよく出ていましたが、先ほども話したように、ヘッドを効かせないと木製バットではヒットは生まれないことを実感させていたんだと思います。

 大会本番ではどんな場面でもエンドランというわけではなかったですし、あの短期間で木製バットの使い方とチームの方向性を浸透させるための手段だったんだと。集まった選手を見極めた上での、勝つためのチームの方向性の定め方とその浸透のさせ方は、数年で選手が入れ替わる高校野球で長く結果を残してきた馬淵監督ならではですね。すばらしい手腕だったと思います」

――ちなみに、井端さんがU−12日本代表の監督としてチームの指揮を執った際には"打ち勝つ野球"を掲げていました。上のカテゴリーと違う野球を目指した理由は?

「高校生くらいになれば体の成長もある程度は止まって、その体格でどういった選手を目指すのかを自分で見定める時期だとも思います。ただ、U−12の選手たちはまだ"子ども"。その段階で、体が小さい子にはバントを......などと要求してしまうと、選手としての方向性をこちらで決めてしまう可能性がある。

 もしかしたら1年で身長が10cm以上伸びるかもしれないし、プロでも小柄だけど長打を打てる選手はたくさんいますからね。そういった理由もあって、U−12ではあまり小技を要求せずに"打ち勝つ野球"を掲げました。子供たちには、自分の可能性を狭めることなく野球と向き合っていってほしいですね」

【プロフィール】
井端弘和(いばた・ひろかず)

1975年5月12日生まれ、神奈川県出身。堀越高から亜細亜大を経て、1997年ドラフト5位で中日に入団。2013年には日本代表としてWBC第3回大会で活躍した。2014年に巨人に移籍し、2015年限りで現役引退。現役生活18年で1896試合出場、1912安打、56本塁打、510打点、149盗塁。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞7度、2013年WBCベストナインなど多くのタイトルを受賞した。2016年から巨人内野守備コーチとなり、2018年まで在籍。侍ジャパンでも内野守備コーチを務め、強化本部編成戦略担当を兼務。2022年の第6回WBSC U-12ワールドカップでU-12日本代表監督を務め、2023年10月3日に日本代表のトップチームおよびU-15監督に就任した。