角田裕毅ファステストラップを狙った1周かぎりのチャンス「心臓が止まるかと」
アメリカGP最終ラップのモニターは、ずっと角田裕毅のマシンを映し出していた。優勝したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がチェッカードフラッグを受けると、セクター2からセクター3へと入っていく角田の走りに注目が集まる。
最後にソフトタイヤに履き替え、セクター1で全体ベスト、セクター2でも全体ベスト。そしてセクター3でも全体ベストで揃えて、1分38秒139のファステストラップを記録。10位でチェッカーを受け、計2ポイントを獲得してみせた。
さらに、上位2台のマシンが車検で失格となり、8位に繰り上がって一挙に5ポイントを獲得する幸運にも恵まれた。第13戦ベルギーGP以来、実に3カ月ぶりの入賞だ。
角田裕毅はアメリカGPで合計5ポイントを獲得 photo by BOOZY
最後にピットインを指示された時、角田自身もファステストラップを狙いにいくことは知らず、トラブル発生かと肝を冷やしたと苦笑いした。
「心臓が止まるかと思いました(笑)。最後にピットストップを指示されて、何かトラブルかと思ったので。でも、ピットレーンに入ったところで初めて『ファステストラップを獲りにいくぞ』と言われたんです。それで『あぁ、トラブルじゃなかったのか』と少しホッとしましたけど。
今までこういうことをやったことがなかったので、スリリングで少しプレッシャーもありました。だけど、最後にフレッシュタイヤでのアタックを楽しむこともできました」
チャンスは1周かぎり。白線の外に飛び出せばタイムは無効となり、5秒加算ペナルティを科されるリスクもある。風が強く、突風が吹きつけるたびにマシンは不安定な挙動を示す難しいコンディションでもあった。
それを完璧にまとめ上げ、ファステストラップをモノにした。これはラスト1周で送り出してもポジションを失うようなミスをせず、しっかりとアタックを決めてくれるだろうというチームからの信頼の証であり、角田はそれに見事に応えた。
【チェッカーを受けた直後の角田は冷静だった】「最終ラップのアタックというのは初めての経験でしたけど、すごく楽しかったですね。長い間タイヤマネジメントをしてきて、最後に予選モード(の走り)に切り替えるというのは、ちょっとスリリングでした。
ここはフィジカル的にもきついサーキットなので、ラクではありませんでしたけど、集中し直して臨みました。最後に最大限のダウンフォースを使って、軽いタンクでアタックするのは楽しかったですし、僕としては100パーセント出しきりました」
実は、このファステストラップ狙いのピットインができる状況になったのは、たった1周前のことだった。
54周目にピットインしなければ最終ラップのアタックに間に合わないという状況下で、後方のアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)とのギャップが20秒を超えたのは53周目。まさにギリギリのタイミングだった。
ここに至るまで、角田はランス・ストロール(アストンマーティン)に抜かれて入賞圏外に落ちてからも、あきらめずプッシュし続けていた。自己ベスト連発の走りを続けたことが、このピットストップを可能にするギャップを生み出したのだ。
金曜に行なわれた予選で11番グリッドを獲得したこと。そして決勝でもスタートを決めてポジションを守り、ミディアムタイヤで好ペースを刻んだこと。
第2スティントに選んだハードタイヤではペースがやや苦しく、ピットレーンスタートのアストンマーティン勢にギャップを縮められてしまった。そしてフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)のアンダーカットを阻止するために早めのピットストップを敢行したことで、第3スティントはストロールより6周、アロンソより8周古いタイヤでの戦いを強いられ、そのペース差で易々と抜かれてしまった。
アロンソがフロアにダメージを負ってリタイアしたことで角田は再び10位を取り戻したが、久々の入賞とファステストラップ記録の興奮に沸くピットとは対照的に、チェッカーを受けた直後の角田は冷静だった。
「今日はラッキーだった。でも、僕らにはもっとペースが必要だ。十分じゃない」
【ランキングを上げられる可能性も見えてきた】完璧な仕事をこなし、自分たちの可能なかぎりのポジションにマシンを運んだからこそのコメントだ。
「正直に言ってラクなレースではありませんでしたし、アストンマーティンの1台がリタイアしたという幸運のおかげで、入賞できたこともたしかです。何もなければポイント獲得は難しかったと思います。
でも、あそこにいたから(他車のリタイアによる)ポイント獲得のチャンスを掴むことができたわけですからね。自分たちのパフォーマンスを最大限に引き出すことができたと思います」
フェルスタッペンは今季18レースで15勝 photo by BOOZY
現状、上位5チームによって入賞圏10台は占められてしまう。場合によっては6チーム12台だ。彼らに何かが起こらなければ、中団勢に入賞のチャンスはない。
それでも中団トップというポジションにいなければ、上位勢に何かが起きた時に転がり込んでくるチャンスを掴むことはできない。今回の角田とアルファタウリは、それができたからこそ、上位6チームのうち3台がリタイアして空いた10位のポジションを掴み獲ることができ、さらに上位2台が失格になるという幸運で8位まで浮上することができた。
これによってコンストラクターズランキング9位のハースとは2点差、8位のアルファロメオとは6点差に迫ることができた。マシンのアップデートも進み、チームもその性能をフルに結果につなげられるようになり、残り4戦でランキングを上げられる可能性も十分に見えてきた。
オースティンで掴み獲った光明を手に、ここからラストスパートだ。その準備はできている。