MFA(made-for-advertising)サイトという存在がにわかに注目されるようになったのは、2023年6月に発表された全米広告主協会(以下、ANA)による「プログラマティックメディアのサプライチェーンの透明性に関する調査(Programmatic Media Supply Chain Transparency Study)」が発端だった。

レポートによると、調査対象となった350億インプレッションのうち、MFAでのインプレッションが21%を占めていた。予算換算では15%程度でそれほど大きな数字ではないようにも思えるが、この数字はオープンマーケットプレイスのプレミアム在庫におけるもののみで、プログラマティック広告全体では遥かに大きな数字になる可能性が示唆されていた。

これによりにわかにアメリカの広告市場では「MFA狩り」が始まったのだが、混乱に拍車をかけたのはMFAの明確な定義の不在だ。「広告目的でつくられた(made-for-advertising)」というのなら、大半が広告売上を介してマネタイズしているデジタルメディアは、ことごとくMFAだと見做されることになる。

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現時点でのMFAの定義



9月26日、ようやくANAがMFAの定義に関するオフィシャルリリースを発表した。全米広告代理店協会(American Association of Advertising Agencies:4A’s)と世界広告主連盟(World Federation of Advertisers:WFA)、全英広告主協会(Incorporated Society of British Advertisers:ISBA)との共同作業で作成されており、「MFAサイトは一般に、次のような特徴を何らかの組み合わせで示している」という。

ちなみにANAのグループエグゼクティブバイスプレジデントを務めるビル・ダガン氏によると、以下のうち「少なくとも3つ」が当てはまれば、MFAなパブリッシャーであると断言できると(言葉を濁しつつではあるが)している。

1. デスクトップにおけるコンテンツに占める広告の比率が30%以上。

2. 広告表示が高速で自動更新される。たとえば多数のバナー広告や、自動再生動画、複数のページをクリックしないとコンテンツにアクセスできないスライドショーがあり、それぞれに複数の広告が貼られているなど。

3. トラフィック全体に占める、オーガニック以外(コンテンツレコメンデーションやキュレーション経由、有料トラフィックなど)の割合が高い。

4. 多数のサイトに同時配信されていて、内容が古く、テンプレート化されたジェネリックなコンテンツ。あるいは、あまり編集されていないコンテンツ。

5. サイトデザインの質が低く、テンプレートが使われている。

正直なところ、この定義のうち1〜3については当てはまる、もしくはグレーゾーンに位置する日本のメディアも少なくないだろう(実際、匿名の会話で当てはまると認めたメディアも存在する)。アメリカでも多くの地方メディアや中小パブリッシャーが運営するバーティカルメディアなどがこの定義でMFAと判定される可能性があり、動揺が走っている。

今回の定義はあくまでも議論のきっかけとするものとされているが、どのような結果になるにせよ日本でも無視できない展開になるだろう。

MFAはフラウドや不正とは異なり、ブランドセーフですらある



大前提として、MFAはクリックベイトではないし、フラウドや広告不正とも異なる。MFAサイトのビューアビリティは高く、不正トラフィック(IVT)などはない(もしくは微妙なラインだ)。扱っているコンテンツも(低品質であることも多いが)ポルノやヘイトなどを含まず、メディアの調査と評価をおこなうMRC(Media Rating Council)も「一般論として、MFAサイトはブランドセーフ(安全)である」と認めている。

つまり、広告主からすると「価格が安く、パフォーマンスが高いメディア」という見え方にはなっている。MFAの定義付けに参加したプログラマティックコンサルティング企業も、「もしエージェンシーにMFAをブロックしろと言えば、キャンペーンの指標は悪化するうえ、メディアコストは上昇する。広告のビューアビリティは下がり、動画の視聴完了率も下がる」と認めている。

しかし、前述の定義からもわかる通り、MFAサイトが得ているビューアビリティやクリック率などは、効率よく獲得したトラフィックによって作られた「虚栄の指標」だ。実際の業績に与える影響は微々たるもので、実際には安くてパフォーマンスが高いメディアなど存在しない。MFAの問題は悪意のある何者かによる悪意に満ちた不正などではなく、メディアと広告主の「共犯」関係によって成立していると言っても過言ではないだろう。

ANAのダガン氏は9月はじめの米DIGIDAYの取材に対し、こうコメントしている。「『MFAサイトでもまったく問題ない。リーチが安く手に入る』という態度の広告主もいる。(中略)業界団体として、広告主はMFAサイトを使うべきではないとの勧告は出せない」。

主な数字



50%:MFAの定義付けにコンサルタントとして参加したジャウンス・メディアが独自に掲げるMFAの定義のひとつ。「MFAサイトはマーケターの求める売上を促進する見込み、もしくは売上促進に寄与する見込みが、平均的なWebサイトよりも少なくとも50%低い」。

106件:プログラマティックのコンサル企業が90日間運営した136件のPMP在庫に含まれていたMFAの数。そのうち23件には予算が投下されていた。

3.5ドル(約508円):アメリカのとあるMFAサイトにおける動画広告のCPM。ビューアビリティが85%、視聴完了率が90%とされており、「安くてパフォーマンスが高い」内容だが、ジャウンス・メディアは「普通に運営されているメディア上で実際にはあり得ないKPI」と断言する。

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