ATP(男子プロテニス協会)ツアー公式戦「木下グループジャパンオープン2023」の車いすテニスの部が有明テニスの森公園で行なわれ、シングルス決勝で第1シードの小田凱人(ときと/東海理化)が第2シードの眞田卓(TOPPAN)を6−3、6−3で下し、初優勝を果たした。


17歳で世界ランキング1位を背負い戦っている小田凱人

 6月の全仏オープンを史上最年少で制し、続くウインブルドンでも優勝を飾り、世界ランキング1位(10月9日づけ、以下同)の小田。そして8月の全米オープン男子ダブルスで優勝し、グランドスラム初タイトルの勢いを維持して今大会に臨む世界ランキング8位の眞田。ふたりの"凱旋試合"は注目を集め、会場のショーコートには多くの観客が観戦に詰めかけた。

 第1セットの第2ゲーム、眞田の145キロのサーブをリターンエースで返すなどして先にブレークに成功した小田。第5ゲームはデュースの接戦からゲームを落とすが、すぐにブレークバックを果たす。そこで優位に立った小田は、自身のサービスゲームをキープして第1セットを先取した。第2セットは互いにコースを深く突いてポイントを取り合う展開となったが、要所で力強いショットを決めた小田が次第に主導権を握り、6−3で決着した。

 昨年はレジェンドで憧れの国枝慎吾氏と車いすテニス史に残るフルセットの激闘の末に敗れた小田。「去年は印象に残る試合はできたと思うけれど負けてしまった。今回優勝できてすごくうれしいし、車いすテニスのカッコよさを見せられた」と、頂点に立った喜びを語る。

 前日の準決勝は、世界ランキング17位の鈴木康平(AOI Pro.)に勝利したものの、3−6、6−2、6−1と苦しんだ。第1セットはファーストサーブの成功率が64%と上がり切らず、動きは硬いまま。鈴木のパワフルなショットと丁寧な配球の前にリズムをつかめず4ゲームを連取され、「(1回戦で敗れた)全米オープンの記憶がよみがえってしまい、ネガティブになりかけた」という。

 ようやく気持ちの切り替えができたのは、第2セットの第6ゲームで先にブレークしてからだ。第3セットは5ゲームを連取し、1時間55分の試合に終止符を打った。決勝はその反省を活かし、ミスを恐れず、最初からアグレッシブな自分らしいプレーに徹した。「今日は僕が主導権を握って試合ができた。サーブの課題もクリアできたし、満足いく内容だった」と振り返る。

【世界ランキング1位の重圧】

 車いすテニスの大会は、毎年4月に福岡県飯塚市で行なわれるITFスーパーシリーズのジャパンオープンが知られているが、国内で開催される国際大会は少ない。そんななか、今大会のグレードはITF2ながらATP大会と同時開催で、テニスの聖地・有明で開かれるとあって注目度が高かった。

 パラリンピックのダブルス金メダリストでグランドスラム常連のステファン・ウデ(フランス)は大会に初めて参加し、「観客もメディアの数も日本が一番多い。車いすテニスに対する理解もあり、世界的に見てもユニークな状態だと思う」とコメント。小田もまた、「(日本での)注目度はグランドスラムよりも今大会のほうが大きいと感じた」と話す。

 小田は前述の準決勝で波に乗り切れなかった点について、「プレッシャーはあった」と語る。それは多くの観客が見守るホームで戦う難しさではなく、世界ランキング1位としてどう戦うかという重圧だったという。準決勝後の記者会見では「国枝さんもこういう気持ちだったのかな......」と、ポツリとつぶやき、優勝後のスピーチでも「昨日はここで負けたら、もうお客さんに観にきてもらえないかもしれないと思った」と、トップゆえの責任を感じていたことを明かす。

「ランキングが2ケタのころは(格上を)食っていくぞ、という感じだった。ガンガン攻めていくのが僕のやるべきことだけど、1位になったらその熱が消えていくかもしれない怖い感じがある」と、胸の内を吐露した小田。それでも、「若さを活かした熱いプレーは、今の僕には必要だと思っている。それを失わないように、いろんな熱を持ってやっていくことが一番大事だと思う」と、自身の心に正面から向き合う。

【レジェンド国枝慎吾からのエール】

 世界ランキング1位の重圧というものは、それを経験した人しかわからないだろう。国枝氏は、「僕が車いすテニスという競技があまり知られていないなかで1位になったのと、競技の認知度が上がった状況で1位になった凱人と、注目度は異なる」と前置きをしながらも、「ナンバーワンになり、みんなが自分に注視しているなかで自分の理想のテニスを見せたい、初めて車いすテニスを観る人たちにすごいなと感じてもらいたい、と思うのは自然なことだし、僕もそういう時期があったから、気持ちはよくわかる」と、17歳の心境を慮る。

 そして、「自分の理想とするプレーと現実とのギャップを感じる時があるかもしれないし、それを経験しないと強くなれないという一面もあると思う。でも、強気でパワフルなショットで相手に何もさせない、ガンガンいくプレーは凱人のよさでもある。僕は彼に今の勢いを失わないで成長していってほしいし、その先にどんなテニスが待っているのかに期待しています」と、エールを送る。

 22日には、杭州アジアパラ競技大会が開幕した。車いすテニスは男女のシングルス優勝者に来年のパリパラリンピックの出場権が与えられる。過密日程になるが、「ジャパンオープンで勝てていいスタートがきれた」と力強い。今度は日の丸を背負って戦う17歳が、アジアでどんなプレーを見せるのか、注目したい。