【インテリジェンスで相手を凌ぐ】

 10月17日、神戸。先発メンバーに入った久保建英(22歳)は、ウォームアップで4対4プラス2人のフリーマンの1人として入っていた。小気味よくボールをつなげる。技術の高さは一目瞭然だ。


久保建英は69分に左サイドを突破。伊東純也のゴールをアシストした

 次にボールを使うウォームアップでは、同じくフリーマンだった古橋亨梧と組んでいる。少しでも前線での呼吸を合わせようということか。淡々とメニューをこなしていった。

 個々の仕上げ、久保はシュート練習に入る。前田遼一コーチからのボールを受け、左足で狙った。会場では選手紹介で久保の名前がアナウンスされ、この日、最も大きな歓声が起こっている。

「ほかにどんな選手がいたとしても、どんな監督だとしても、今のタケ(久保)を生かさないなんてあり得ないよ。とても賢く、チームを引っ張れる」

 所属するレアル・ソシエダの関係者が、太鼓判を押すほどの実力だ。

 チュニジア戦、その一端が出た。

「前半20分くらいまでは、(右に)落ちすぎて(うまくいかず)」

 久保自身がそう振り返っているように、トップ下から右サイドの伊東純也とポジション交換し、古橋亨梧と近い距離を取ったりしたが、呼吸は合わなかった。久保がパスを入れても、なかなかリターンがない。伊東がカウンターで弾丸のように抜け出し、久保はわざとスピードを緩めて、シュートスポットを開けて待っていたが、クロスは入って来なかった。

 そこで30分過ぎ、久保は左へ回る機会が多くなる。守田英正、旗手怜央とパス交換できるようになると、一気にリズムを出す。

「(旗手とは)2人とも似たタイプで。連携、連動するのが得意なだけに、2人でも(マークを)はがせるところもあって」

 久保は言うが、左ではコンビネーションを作り出せた。旗手にスルーパスを通し、左サイドのドリブルからエリア内の遠藤航にクロスを折り返し、あるいは左を攻め上がった中山雄太へのパスも絶妙だった。

 そして43分、センターサークル付近から守田が入れた短い縦パスを久保が受ける。相手のチャージを受けながらもボールを運び、旗手へ短いパス。旗手のパスが相手に当たって、古橋がゴール前で受けると、このボールをネットに叩き込んでいる。

「パスが来るのはわかっていたんで、来る前に相手選手(が寄せてくるの)にうまく体を預けて」

 久保は言うが、相手のインテンシティをインテリジェンスで凌(しの)いでいた。それは彼の真骨頂と言える。

【後半の『久保タイム』】

 後半に入ると、『久保タイム』に突入した。

 久保は守田のパスを受け、裏を取った上田綺世にスルーパス。再開のFKでは、敵の虚をつくように伊東へのスルーパスを送った。また、味方のパスを敵ディフェンダーの鼻先でヘディングでコースを変え、敵陣突破を試みる。

 右サイドからカットインし、左足で狙う得意のプレーも見せ、観衆を沸かせた。エリア内でパスを受け、相手に前を塞がれてもコースを見つけ出し、巧妙にシュートを打った。

 サッカーの醍醐味が横溢したプレーの連続だった。自由で創造的で、何をやってくれるのか、という予感が漂う。見えている景色が違い、その点で唯一無二だった。もはやポジションなど小さく古めかしい捉え方にすぎず、彼は別次元にいた。

 そして69分、久保は左サイドへ流れて味方のパスを受けると、相手に引っ張られながらも振りきる。そのドリブルは力強かった。そこで相手DFラインを押し下げると、その手前に生まれたスペースに走り込んだ伊東にクロスを折り返し、ゴールが決まった。

 久保は、アフリカの伏兵を2−0で打ち負かす立役者になっている。

――伊東との共存は?

 そう訊かれた久保は、こう答えている。

「(伊東は)基本、スピードがある選手なので。自分もウィングで、何をしたいか、はわかっているつもりなので。僕のパスが長くなった場面もありましたが、アシストもできたし。使いやすいと言うか、わかりやすい特徴のある選手だと思っています」

 久保自身は誰であっても、どのポジションであっても、その力を引き出す自信はあるのだろう。

「久保はインテリジェンスがすばらしい」

 チュニジアの監督も試合後に絶賛していたが、随所でプレーを読む、もしくは感じるディテールが目立った。例えばFK、相手の壁が跳ぶのを予測し、下を通すシュートなどが典型。ゴールにはならなかったが、優れた洞察力だ。

【序列を上げたが消耗は不安要素】

 久保はコンビネーションを駆使するのは得意だが、一辺倒ではない。今シーズンはラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)でダビド・シルバが引退したあと、違うタイプの選手の力を引き出している。

 そのたくましさが評判を高めている理由だが、この日も右で連携がノッキングすると、左で作ってリズムを出しながら右で仕留める、という戦いに変更し、周りの選手の最大値を出していた。

「今日のプレーだったら、トップ下のほうがいいと思います。相手にとっても脅威のはずで。右で勝負したい、というのはなくはないんですが。今日も結果に出てますし」

 過密日程での代表活動参加で、確実に序列を上げた。しかし代償は小さくない。消耗は不安要素だ。

「(戻ってすぐ試合という日程は)キツいですね。午後2時キックオフかな? 日本のみなさんはテレビ観戦できる時間だからいいかもしれないですが、僕はキツい(苦笑)。チャンピオンズリーグ(CL)も思った以上にタフだし、負けられない試合が続くので、コンディションに折り合いをつけながら」

 久保は19日にサン・セバスティアンに到着予定で、21日には古巣マジョルカとの一戦を控える。ベストコンディションのはずはない。24日には、ベンフィカとCL。11月はさらに激しくなる欧州戦線に集中するのも一案で......。

「(スペインに戻る)飛行機では睡眠薬を飲んで、スカッと寝られたらいいんですけど」

 久保は自らを奮い立たせるように明るく言っていた。