サッカー日本代表が4−1と大勝したカナダ戦。攻撃面のデータには変化が見られた。1トップにボールが収まり前線に起点を作ることに成功。その結果サイド攻撃からも効果的なクロスがあげられるようになっている。

【出場機会の少ない選手を起用】

 今年6月と9月の計4試合で4連勝中の森保ジャパンが、10月の代表ウィーク初戦でカナダと対戦。終わってみれば、開始早々2分の田中碧の先制ゴールを皮切りに、40分にオウンゴール、その2分後に中村敬斗、そして後半に入って49分に再び田中がゴールを決めた日本が、4−1で勝利を収めることに成功した。


サッカー日本代表がカナダに4−1で勝利。攻撃面ではこれまでから変化しているデータが出た

 ただし、改めて試合を振り返ると、日本が終始思いどおりの試合をできたわけでもなかった。とりわけ2分に先制したあとは、落ち着きを取り戻したカナダがボールをつなぎながら日本陣内に攻め入るシーンが増え、しばらくは日本が主導権を失う時間帯が続いた。

「相手がどういうかたちで戦術を組み立ててくるかわからないなか、選手たちが状況に合わせて戦い方や配置を変え、賢くスムーズに表現してくれた」とは、試合後の会見における森保一監督のコメントだが、確かにこの試合の勝敗の分かれ目は、前半の悪い流れのなかにおけるシステム修正が功を奏したと言っていいだろう。

 森保監督がこの試合でチョイスしたスタメンは、9月のドイツ戦のスタメンから半数以上を変更したメンバー。GK大迫敬介、遠藤航、冨安健洋、伊東純也の4人以外は、出場機会の少ない選手を起用し、布陣は6月の2試合と同じ4−1−4−1(4−3−3)を採用した。

 ポイントになったのは、中盤3枚をボランチタイプの遠藤と田中、そしてトップ下を主戦場とする南野拓実で構成したことだった。

 一方のカナダは、トロントFCの監督に就任したジョン・ハードマン前監督の辞任により、9月にアシスタントコーチのマウロ・ビエロが昇格。日本にとっては、ビエロ暫定監督の初陣ということで、どんな布陣を採用するのかが読めない状況で迎えた試合だった。

【布陣変更で守備を修正】

 そして蓋を開けて見ると、カナダの布陣はサイル・ラリン(17番)とジョナサン・デービッド(20番)を2トップに配置する3−5−2。注目のアルフォンソ・デービス(19番)は左ウイングバックに入った。

 日本が4−1−4−1を採用する場合、守備時はインサイドハーフ1枚が前に出て4−4−2に変形する。この試合では、南野が前に出て、田中と遠藤がダブルボランチを形成したが、3−5−2のカナダに対して前からプレスをかけようとすると、前線は浅野拓磨と南野の2人がカナダの最終ライン3枚を見なければならず、さらに中盤もカナダの5枚に対して日本は4枚と、どうしても数的不利な状況に陥って前からの守備がハマらない。

 その結果、立ち上がりに失点したカナダだったが、その後は前進ルートを手に入れてリズムをつかむことに成功。VAR判定によるPKは、その流れのなかで起こった出来事でもあった。

 そんななか、試合後の会見で森保監督が振り返ったように、日本が守備時の立ち位置を修正したのはVARの判定待ちのタイミングだった。指揮官曰く「選手とコーチ陣が話し合ってくれた」とのことだが、実際にプレーが再開されると、日本の守備陣形が変化。4−4−2ではなく、4−2−3−1にシフトチェンジしている。

 これにより、相手の3バックに中村、浅野、伊東の3人がプレスをかけ、南野がボランチの6番(サミュエル・ピエット)、田中と遠藤が中盤の8番(イスマエル・コネ)と21番(ジョナサン・オソリオ)、そして両ウイングバックに対しては両サイドバックの毎熊晟矢と中山雄太がマッチアップし、ガッチリ噛み合うかたちとなった。

 日本にとって大きかったのは、中盤3枚に2人のボランチタイプとトップ下タイプを起用していたことだった。布陣の性質上、もともと4−3−3は4−2−3−1に移行しやすい布陣ではあるが、仮にボランチタイプを1枚、トップ下タイプを2枚で中盤を構成していたら、ここまでスムーズに可変することはできなかっただろう。

 そういう意味では、4バックなのか3バックなのか、布陣が読めない相手に対するスタメン編成としては、申し分のないものだったと言える。しかも南野は前線でのプレスを得意とするタイプで、実際に日本の先制ゴールも、デービスにプレスバックした南野がボールを奪ったところが起点だった。

 先月のドイツ戦然り、試合中の布陣変更が稀だった第一次森保ジャパン時代と比べると、第二次森保ジャパンではそれが頻繁に行なわれるようになっている点は見逃せない。これが現在の戦い方のスタイルになりつつある。

【前線でボールを収めた浅野拓磨】

 もうひとつこの試合でおさえておきたいポイントは、1トップで起用された浅野のパフォーマンスだった。スコアに反し、決してカナダを圧倒したわけではない日本が最終的に4ゴールを奪って大勝できた要因のひとつと言っていいだろう。

 大迫勇也が代表から遠ざかって以降、1トップには上田綺世、浅野、古橋亨梧らがポジション争いを展開しているが、ポストプレーもこなす上田以外の2人はスピードを武器とするタイプだ。そのため、くさびの縦パスを収めて起点をつくるシーンが少なく、DFラインの背後を突く攻撃がメインとなっていた。

 当然、この試合で先発した浅野も持ち前のスピードを生かしてDFの背後やギャップを狙うプレーを見せ、相手ゴールを脅かしていた。72分にハーフウェイライン付近から旗手怜央のパスに抜け出し、一気に相手ペナルティーエリアまでドリブルで持ち込んだシーンはその典型だ。また、前半42分の中村のゴールにつながった、単独プレスで相手のミスを誘発したプレーも、浅野ならではのプレーと言える。

 しかしそれ以外に、この試合で効果を発揮していたのがポストプレーだった。

 たとえば、この試合で浅野が敵陣で受けたくさびの縦パスは、前半だけで4本を記録(そのうち1本は失敗)。自陣でレシーブした縦パスも含めると6本あった。後半も開始早々に中山が斜めに入れたくさびのパスを収めるシーンがあるなど、これまで浅野が1トップでプレーした試合では見られなかった数字をマークしている。

 もちろん、カナダの3バック中央を務めた15番(デレク・コーネリアス)の対応の問題も大きく影響したが、浅野が意識的に裏抜けとポストプレーを使い分けていたことで、相手DFの対応を難しくさせていたのは間違いなかった。

 試合後、森保監督は1トップの起用について「9月のヨーロッパ遠征で結果を出した浅野か上田を考えたが、現在の(所属チームでの)出場時間で、より強度を高く攻撃も守備もできて、得点に向けた仕事をしてくれるだろうということで浅野を起用した」とコメント。

 ゴールこそ奪えなかったが、相手のオウンゴールを誘うクロスや中村の得点のお膳立て以外にも、効果的なポストプレーで前線の起点となった浅野は、1トップのポジション争いでまた一歩前進したと見ていいだろう。逆に、次のチュニジア戦で先発が予想される上田がどれだけ前線でボールを収められるかに、改めて注目が集まる。

【サイドにスペースをつくって左右から効果的なクロス】

 いずれにしても、このカナダ戦では南野に加えて浅野も前線でターゲットになり、日本のサイド攻撃も機能した。前線中央で一度起点をつくることで相手がそこに引き寄せられ、それによってサイドにスペースが生まれやすくなるからだ。

 この試合で日本が記録したクロスボールは、前半9本と後半5本の計14本。多くの試合で最も多くのクロスを供給する伊東はこの試合でも5本をマークしたが、左右で比較すると、右サイドのクロスが7本、左も7本と、同じ本数だった。

 ポゼッションではカナダが53.6%と、日本の46.4%を上回っていたなか、速攻を中心に日本が効果的なクロスを左右から供給できていたと言える。ちなみに、伊東以外でクロスを供給したのは、毎熊、中山、中村、浅野がそれぞれ2本、南野が1本だった。

 9月のドイツ戦で先発したメンバーの多くを休ませた試合で、上々の攻撃を披露した森保ジャパン。初陣に臨んだ暫定監督が指揮を執るカナダが相手だったとしても、攻撃面でそれなりの収穫を得られた試合だった。

 果たして17日のチュニジア戦でも、同じような効率の良い攻撃を見せられるか。カナダ戦との違いが表れるのかも含め、要注目である。