体重を身長の2乗で割って算出されるボディマス指数(BMI)は、人間の肥満度を表す体格指数で、数値が高ければ高いほど糖尿病や高血圧、脳血管障害などのリスクが高まると考えられています。しかし、BMIには「計算に体脂肪の量を含めていない上に、年齢や性別、人種などさまざまな健康に与える要因を無視している」との指摘があり、ハーバード大学医学部のファティマ・スタンフォード氏はBMIに代わる新たなシステム「エドモントン肥満病期分類システム(EOSS)」を導入することを推奨しています。

Why BMI is flawed - and how to redefine obesity

https://www.nature.com/articles/d41586-023-03143-x



BMIを算出する際には、体重をkg単位で計測し、身長をメートル単位で2乗した数で体重の数値を割ります。例えば、「体重70kg、身長1.7m」の人のBMIは、「70÷(1.7×1.7)=24.22……」となります。

さらにBMIは、肥満度ごとに以下の4カテゴリに分類されています。「体重70kg、身長1.7m」の人のBMIは約24.22なので、以下のカテゴリでは「正常」に当てはまるというわけです。

・BMIが18.5未満……低体重

・BMIが18.5〜24.9の間……正常

・BMIが25.0〜29.9の間……太りすぎ

・BMIが30.0以上……肥満

BMIはこれまで、健康的な体重を示すための国際標準として何十年にもわたって使用されてきました。BMIの数値が高いと、心臓病や肝疾患、関節炎、がんなどのリスクが高まるとされています。

一方で心臓病やがんなどのリスクはBMIだけでなく、「睡眠時間」や「ビタミンCなどの過剰摂取」などの要因でも高まると考えられています。また、年齢や性別、人種などさまざまな要因で病気の発生リスクは大きく変化します。BMIの計算にはこれらの要因が盛り込まれておらず、正確な結果を算出するには不適切であることが指摘されています。また、BMIは皮下脂肪や内臓脂肪、脂肪肝など体脂肪の量を考慮していません。



ハーバード大学医学部のファティマ・スタンフォード氏は「BMIのような身長と体重だけで計算する指標では、個人の健康状態について何も分かりません」と述べています。

実際、2023年7月にラトガース大学のアーユシュ・ビサリア氏らによって発表された研究では、BMIの数値が「肥満」に該当する成人の死亡リスクは、「正常」とみなされる成人の死亡リスクと同程度だったことが報告されています。また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の健康心理学教授のジャネット・トミヤマ氏らの研究では、BMIでは「肥満」に該当する被験者の約30%で、血圧やコレステロール値などが正常値を示していたことや、肥満の被験者と正常な被験者の心代謝系の健康状態にほとんど差がなかったことが明らかになっています。

また、同じBMIでも高齢者は若い成人に比べて筋肉が少なく、体脂肪の量が多くなる傾向があることや、脂肪が腹部を中心に蓄積する男性に対して、女性はお尻や腰、太ももなどに脂肪が蓄積しやすいため、同じBMIでも男性よりも女性の方が体脂肪の量が多くなる傾向があるほか、女性の方がより死亡リスクが低いことが明らかになっています。さらに、BMIは白人の測定値を使用して開発が進められたため、黒人や黄色人種などは体組成や脂肪の位置が異なり、BMIで正常に診断することができない場合があることが指摘されています。



これらの研究を受けてアメリカ医師会(AMA)では、2023年6月からBMIを用いた肥満の診断や治療が不完全であることを認め、BMIも含めたさまざまな指標を用いて診断などに当たることを表明しています。

BMIでは適切な診断や治療が行えなかった現状を受け、さまざまな研究が進められてきました。スタンフォード大学の研究チームは、約60人の肥満専門家からなるチームを結成し、体重が健康にどのような影響を与えるかを適切に理解するために、体内の主要な臓器系の調査を行っています。スタンフォード氏によると、調査によって考案された診断基準は、2024年に発表されるとのこと。



さらに、ドイツを拠点とする医療ディレクターであるアルヤ・シャルマ氏は「BMIは数値を算出した人物がどれほど太っているかについて教えてくれるだけで、病気の発生リスクなどについては教えてくれません」と指摘し、BMIに加えて、身体的、精神的、機能的な健康状態を調べる「エドモントン肥満病期分類システム(EOSS)」と呼ばれるシステムを考案しました。EOSSでは、5段階で健康リスクが示され、患者間でBMIが同じだとしても、心臓病や肥満に関する不安の度合などでEOSSが示す段階が変化します。

EOSSは成人の肥満に関する2020年のカナダの臨床ガイドラインに組み込まれ、2022年には、チリやアイルランドでアセスメントツールが市販されるようになりました。スタンフォード氏は「BMIを超えるさまざまな指標に関する取り組みは始まったばかりです」と述べています。