夜遅い時間帯に運動すると、どうなる?

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 健康を維持するために、仕事帰りにスポーツジムで運動をする人は多いのではないでしょうか。近年は24時間営業のジムが増えており、いつでも運動することができます。ところで、夜遅い時間帯に運動をしても問題ないのでしょうか。夜遅くに運動するメリット、デメリットについて、整形外科医の歌島大輔さんに聞きました。

運動により睡眠の質が低下し、病気につながる可能性

Q.そもそも、夜遅い時間帯に運動を続けた場合、何らかの病気を発症する可能性はあるのでしょうか。

歌島さん「夜遅い時間の運動量が多い人と、昼間の活動量が多い人を比較した米国の研究論文(※1)が2022年に公開されました。この論文では、『夜間』を『午後8時以降』と定義していますが、夜間の運動量が多い人は、昼間の活動量が多い人よりも全死因死亡リスクが1.46倍(ハザード比1.46)、特に心筋梗塞などの心血管疾患による死亡リスクが1.58倍(ハザード比1.58)上昇することが示されています」

Q.では、夜遅くに運動をすると健康に悪影響を与えるということなのでしょうか。

歌島さん「そのように言えるかもしれません。先述の全死因死亡リスクと心血管疾患による死亡リスクが上昇する理由としては、まず睡眠の質が落ちるというメカニズムが考えられます。ただ、この夜間の運動と睡眠の関係は、研究によって結論にばらつきが見られます。

一般的に、夜間に運動をすると目がさえて眠れないイメージがあると思いますし、医師などからもそのような指摘を受けるケースが多いです。しかし、夜間の運動と睡眠の質に関する複数の論文を総合的に検証した2019年の『レビュー論文』(※2)では、夜の運動が睡眠に悪影響を及ぼすとは言い切れず、特に夕方の運動は深い睡眠の時間を増やしたという研究結果を示しています。

一方、この論文では、就寝時刻の1時間前までに激しい運動をすると、眠りにつくまでの時間(睡眠潜時)のほか、総睡眠時間や睡眠効率に悪影響を与える可能性を示唆しています。

このように就寝時間直前の運動によって、睡眠時間が減ったり、睡眠の質が落ちたりしてしまうと、睡眠の質の低下と病気の発症リスクの関係を示したアメリカ疾病予防管理センターの勧告(※3)が示すとおり、2型糖尿病や心疾患、肥満、うつ病などのリスクが高まり、その結果、死亡リスクにつながると考えられます。

ちなみに、夜間の運動は、朝の運動よりも運動パフォーマンスそのものが向上するといわれています。『朝の運動と夕方の運動』の強度の違いを調べた2013年の研究(※4)では、朝よりも夕方の方が最大酸素摂取量や無酸素性能力、酸素摂取動態において、パフォーマンスが高かったと報告されています。高いパフォーマンスでの運動は、運動効果そのものを高める可能性が高いと考えられます」

Q.夜遅い時間帯にどうしても運動したい場合、どのような運動がお勧めなのでしょうか。

歌島さん「就寝1時間前の激しい運動が、睡眠に悪影響を及ぼすという研究結果に基づいて考えると、就寝時間前は運動の強度を落とすべきです。

運動の強度が低い順に、『静的ストレッチやヨガ』『軽めのダイナミックストレッチ』『ウォーキング』『サイクリング』『ジョギング』『筋力トレーニングなどの無酸素運動』となるかと思います。少なくとも就寝1時間前は、静的ストレッチよりも強度が高い運動はしない方が賢明だと考えます」

【参考文献】
(※1)
Jiayi Yi,et al.Front Cardiovasc Med.2022
Association of nighttime physical activity with all-cause and cardiovascular mortality:Results from the NHANES

(※2)
Stutz,J.,et al.Sports Med.2019
Effects of Evening Exercise on Sleep in Healthy Participants:A Systematic Review and Meta-Analysis.

(※3)
「Do You Get Enough Sleep?」(CDC)

(※4)
David W.Hill.Applied Physiology,Nutrition,and Metabolism.2013
Morning-evening differences in response to exhaustive severe-intensity exercise