クリックやインプレッションを人工的に量産するいわゆる「クリック農場」や「インプレッション農場」はデジタル広告業界において以前から存在していた。しかし、AIの使用が増えることで、これらのアドフラウド問題が悪化する可能性が高い。すでにエージェンシーとブランドはアドフラウドに追い詰められているなか、決して望ましい展望ではない。

ターゲットにされるプラットフォームによって量産されるのがクリックかインプレッションかは異なるが、AIがこれらのボットや悪質な広告在庫を大規模に拡大する役割を果たすとエージェンシーたちは考えている。

「農場」で起きていること



「クリック農場とクリック詐欺は、ともかくなんでもクリックして報酬を得るというものだ」とパブリシス・ヘルス・メディア(Publicis Health Media)のプラットフォーム戦略部門のグループ・バイスプレジデントであるタイラー・ナール氏は言う。

「インプレッション詐欺もインプレッションに関して同じことをしている。インプレッションを生み出して報酬を得る。(中略)この問題に対処するには、プログラマティック広告の取引の仕方、プログラマティック広告のあり方について構造的な変更が必要だ」。

広告業界にはますますデジタルコンテンツと広告在庫が増え、プログラマティック広告における詐欺リスクもそれに比例して上昇している。フラウド検出やサプライチェーン、広告テクノロジーのソリューションが開発されつつあるものの、広告主が予算をかけて購入した広告が消費者ではなくボットに供給され、無駄となることがしばしばある。

「Google AdsやFacebook Adsのようなプラットフォームでも、インプレッション農場は長いあいだプログラマティック広告の悩みの種だ」と、ハイリンク・グループ(Hylink Group)のアメリカでのマネージングパートナーであるハンフリー・ホー氏が付け加える。

アドフラウドが業界でエスカレート



エージェンシーとインフルエンサーはコンテンツの着想と制作のためにAIを試用しているが、専門家たちは広告費や制作に無駄が生まれるのではと疑問を呈している。AIによって生成されたコンテンツは悪質な広告在庫となる場合があり、偽造または悪質なインプレッション、デマ、盗作の危険性がある、と専門家たちは指摘する。

「ジェネレーティブAIの進歩は、クリック農場によってもたらされる問題を悪化させている」とホー氏は言う。

アドフラウドに関しては、プログラマティック広告がオンライン広告の購入と販売を自動化したことで、大きな懸念が以前から存在する。2019年にStatistaは、米国でプログラマティック形式で供給された広告インプレッションの約20%が詐欺であると推定した。広告がよりデジタル化されるにつれて、詐欺は悪化している。2018年から2023年にかけて、デジタルアドフラウドは350億ドル(約5兆円)から1千億ドル(約14兆7000億円)に増加するとスタティスタは予測する。

ANA(全米広告主協会)は6月のプログラマティック広告とサプライチェーン調査で、880億ドル(約13兆円)のオープンプログラマティックメディアエコシステムにおいて、広告支出に約200億ドル(約3兆円)の無駄を引き起こすと推定している。これは、全体の投資の23%に相当する。協会は、データアクセスと透明性の欠如、価値よりもコストを優先するといったプロセス全体での非効率性を指摘している。

ANAはまた、広告主がメディア配置をコントロールしていないMFA(Made for Advertising)ウェブサイトがインプレッションの21%を占めていたとも指摘する。これらのサイトには、広告収益を最大化するための偽ニュース、スパム、ポップアップ広告、自動再生ビデオなどの低品質なコンテンツが掲載されている。

AIがどう問題を悪化させるか



AIは、プログラマティック広告での詐欺を増幅するスーパーパワーのような存在と考えられる。以前は人が操作していたクリック農場やインプレッション農場が、(AIによって)賢くなったボットによって強化され、インプレッションを偽造し、広告費を引き寄せる可能性がある。AIは悪質な広告在庫を生み出すだけでなく、これらのサイトへのトラフィックを偽装し、広告取引において偽アカウントを作成することもできる、とナール氏は説明する。

「もしその気になれば、簡単にAIを使って何十万ものウェブサイトを作成し、その上で偽の広告インプレッションを生成することができる」とナール氏は追加する。「プログラマティックはそのような規模で行われるので、こういった詐欺を捉えるのは非常に難しい」。

ナール氏は、マーケターはキャンペーンと在庫の可視性を評価する方法を再構築する必要があり、CPMを投資の指標として過度に重視するべきではないと主張する。

「インプレッションの増加を奨励するプログラマティックCPM基準ではなく、他の種類の指標を参照し、エンゲージメントごとのコストに基づいての取引や、有効なトラフィックに限っての取引をする必要がある」と米Digidayの取材に対してナール氏は回答した。

ハイリンクグループのホー氏も、AIが問題を悪化させると同意する。悪質なコンテンツとSEO操作は、引き続き広告を引き寄せるだろう。さらに、これらのスパムサイトやアドフラウド農場は、「コンテンツを集めて表示する合法的なコマースまたは業界向けプラットフォームを模倣する技術を向上させている。この変容は、コンテンツ集約が抱える潜在的な問題性を通して、ブランド安全性の懸念となる」とホー氏は言う。

ただし、すべての「悪役」というわけでもない



スタグウェル・マーケティング・クラウド(Stagwell Marketing Cloud)のスマートアセッツ(SmartAssets)の最高製品責任者であるヴィタリー・ボワテレ氏は、多くの企業がボット、クローラー、スクレイパーを構築してさらに多くのデータポイントを収集しており、これが問題をさらに難しくしていると認める。持っているデータが多ければ多いほど、AIによる分析・洞察を生成するために機械学習アルゴリズムに供給することができる。これが悪循環を生んでいると言える。

「これらのボットはデータを歪曲し、これらの機械学習モデルが提供するはずだったインサイトの質を弱めている」とボワテレ氏は追加する。

もちろん、状況に関わっているのはマーケティングサイドだけではない。デマンドサイドもまた関与している。しかし、広告プラットフォームが問題を解決しようとするのは少し不自然な動きとなるだろう。なぜなら、(AIによるインプレッション詐欺など)は最終的には彼らの収益に貢献するからだ、とボワテレ氏は説明する。問題に対抗するためには、金融およびID詐欺に対処するサービスを含む他のセクターも関与する必要がある。

「広告プラットフォーム側の対応は慎重であり、それは理解できる」とボワテレ氏は言う。「ただし、AIによって生成されたインサイトが増えていることで、AIというソリューションそのものの価値を高めているという点は希望と言えるだろう」。

[原文: The growth of click and impression farming are getting worse with AI ]

Antoinette Siu(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)