フランスで、がんの治療のために鼻を失った女性の再建手術に使用するため、前腕に3Dプリンターで作られた鼻を形成する手術が行われました。腕に取り付けられた鼻はその後本人の顔に移植され、女性は無事に鼻と嗅覚を取り戻すことができたと伝えられています。

New nose successfully grown on French woman's arm

https://www.lemonde.fr/en/science/article/2022/11/22/new-nose-successfully-grown-on-french-woman-s-arm_6005178_10.html

Woman in France has nose grown on her arm from 3D-printed biomaterial then grafted onto her face | Evening Standard

https://www.standard.co.uk/news/world/organ-transplant-nose-reconstruction-surgery-france-toulouse-b1038640.html

Surgeons 3D-Printed a New Nose, And Then Attached It to The Patient's Arm : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/surgeons-3d-printed-a-new-nose-and-then-attached-it-to-the-patients-arm

フランス・トゥールーズ大学がん研究所で鼻の移植手術を受けたのは、南フランスに住む50歳の女性のカリーヌさん(仮名)です。カリーヌさんは2013年に鼻腔がんで大規模な手術を受け、顔の一部と鼻の大部分を失っていました。

カリーヌさんは、がんの手術から4年間鼻なしで生活した後、皮膚を使った植皮手術を受けましたが失敗。毎晩取り外さなければならない装具の使用もうまくいかず、カリーヌさんは引きこもりがちになり社会生活を失ってしまいました。



そこで、主任外科医のアニエス・デュプレ=ボリー氏は、以前ベルギーで博士課程の学生と話した際に知った、3Dプリントで器官を形成する技術の使用に踏み切りました。学生は生体材料の研究者で、3Dプリンター企業・Cerhumで頬骨用の生体合成インプラントをテストした経験をデュプレ=ボリー氏に話していたとのこと。

「最初の課題は、医学的にも技術的にも新しいタイプのインプラントを作ることでした」とデュプレ=ボリーズ氏は話します。Cerhumは、歯のエナメル質や骨の成分で天然鉱物でもあるハイドロキシアパタイトを用いて細胞の足場となるインプラントを形成する技術を持っており、これを使って鼻の原型が作られました。

2つ目のハードルは、3Dプリンターで作ったインプラントを生きた鼻にすることです。通常の場合、背中の皮膚を使ったり患者の該当部に直接埋め込んだりする方法がとられますが、デュプレ=ボリーらの医療チームはまずカリーヌさんの腕に鼻を取り付けることを選択しました。腕は体のほかの部分より皮膚が薄くて血管をつなぎやすく、その後鼻を顔面に移植する上でも有利というメリットがあるとのこと。

生体材料とこめかみの皮膚で作られた鼻は、カリーヌさんの腕で2カ月間かけて育てられた後に、顔に移植されました。6時間に及ぶ移植手術は無事に成功し、10日間の入院と3週間の抗生物質投与を経て、経過が順調なことが確認されました。

トゥールーズ大学は2022年11月のFacebookへの投稿で「移植は成功しています」と報告しました。また、同院はメディアに対して「今回のように繊細で血管の発達が不十分な部位でこの種の再建が行われたことはこれまでにありませんでした。これが可能となったのは、骨の再建を専門とするベルギーの医療機器メーカー・Cerhumと医療チームの協力のおかげです」と述べています。

約10年ぶりに鼻を取り戻したカリーヌさんは、「翌日目が覚めたとき、私は完全に圧倒されました。もう10年も外出していませんでしたが、夫とふたりでまたレストランに行くことに決めています」と話しました。

新しい鼻は見た目だけでなく鼻としての機能も有しており、カリーヌさんは呼吸がしやすくなって朝のコーヒーの香りも楽しめるようになり、ほとんど通常通りの生活を取り戻すことができたそうです。

デュプレ=ボリーズ氏らは今後、この技術を応用してこれまで制限を受けていた他の体の部位の体内インプラントも改善していく予定とのことです。