ノートがわりにExcelを利用するなど、さまざまな工夫をしていたという青戸さん。最も大切だったのは「モチベーションを保つ工夫」といいます(画像提供:青戸一之さん)

覚えられない、続けられない、頑張ってもなぜか成績が上がらない――勉強が苦手で、「自分は頭が悪い」と思い込んでいる人も、実は「勉強以前の一手間」を知らないだけかもしれない。

そう話すのは、中高生に勉強法の指導をしている「チームドラゴン桜」代表の西岡壱誠さんです。

「僕も昔はこれらの工夫を知らなくて、いくら勉強しても成績が上がらない『勉強オンチ』でした。でも、『勉強以前』にある工夫をすることで、『自分に合った努力のしかた』を見つけられたんです。効果は絶大で、偏差値35だった僕が東大模試で全国4位になり、東大に逆転合格できました」

西岡さんをはじめとする「逆転合格した東大生」たちがやっていた「勉強以前の一工夫」をまとめた書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売前に1万部の増刷が決まるなど、いま話題になっています。ここでは、逆転合格した東大生を取材し、彼らの勉強法を紹介します。

フリーター・ニートなどを経てから33歳で東大合格

「小さいときから頭が良かった人」や「環境に恵まれた人」ではないところから、東大に合格した東大生たちのことを、僕たちは「リアルドラゴン桜な東大生」と呼んでいます。


ドラマや漫画の世界の話ではなく、現実にドラゴン桜のような「一発逆転」で合格した東大生というのは、確かに存在するのです。

今回は、フリーター・ニートなどを経て30歳から東大受験をし、33歳で東大に合格した青戸一之さんに話を聞きました。

鳥取県の農村部出身で経済的な理由から大学に進学できなかった青戸さんは、高校卒業後はワーキングホリデーでオーストラリアの語学学校に入学したものの、ビザが1年で切れて地元に戻ってきました。

その後、フリーターや1年間の引きこもり・ニート生活を経て、高卒ながら地元の塾で英語を教える講師として働くことになりました(その時の詳しい話はこちらの記事をご覧ください)。

そして29歳の夏、転機が訪れます。大学に進学する人自体がほぼいない塾だったにもかかわらず、そこに東大志望の生徒が入塾したのです。

「その生徒が入塾したときには、塾の内部でも大騒ぎになりました。『どうしよう、東大志望だ! 俺なんて大学すら行っていないのに!』って。でも、日本でいちばんを争うほど平均所得が低い地域で、高額な授業料をずっと払ってもらう以上、こちらも本気で向き合わなければなりません。だから、とにかくみんなで、自分自身も勉強しながら、必死になって指導をしました。自分もそのときになって東大の問題を初めて見て、『ああ、こんなに難しいんだ!?』と愕然としたのを覚えています」


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そんなに必死になって指導をしたものの、教えていた生徒さんは、惜しくも東大に不合格になってしまったと言います。親御さんからは感謝されたそうですが、青戸さんの心に暗い影を落とす出来事になりました。

「やっぱりショックでした。自分がもっとうまく指導できれば、もっと違った結果になったんじゃないか、と。そして、自分は塾の先生という仕事が本当に好きで、ずっとこの仕事をしていくことを決めていたのですが、しかし『大学受験を体感していない自分が教えてもいいのか?』と悩むようになったんです」

この出来事をきっかけに、青戸さんは東大を受験することを決意します。自分のためではなく、これから持つかもしれない生徒のための受験だったわけですね。

モチベーションを「他人のため」に置く

僕たちはよく、ドラゴン桜のように受験する人を取材しますが、その中でも意外と「自分のため」ではなく「他人のため」がスタートだったという人は多いです。

「自分の住んでいる地域のこれからのために東大に行きたい」

「家族の生活を支えるために東大に行きたい」

そんなふうに、別の人のためというモチベーションで受験する人は、自分が起点でないからこそ、モチベーションが維持しやすいという特徴があります。「もうやめよう」と考えても、自分のために始めていないから、「それでも、自分はがんばらなきゃいけないんだ」と続けようと思えるわけですね。

さて、30歳になって初めて東大受験をする決断をした青戸さん。得意の英語以外はほぼ初学者に近かった状態で、最初はやる気が持続しないところもあったそうなのです。それでも「自分の人生、ここで本気を出さなければいつ出すんだ」と奮い立たせて勉強を続けました。

とはいえ、生活もあるので、受験すると言ってもそこまで長い時間を勉強に捧げられるわけではありません。午前中は勉強、午後は生徒に教える、という生活をするようになったのだそうです。勉強時間はせいぜい1日3時間。でもこの生活を続けていたからこそ、勉強の効率が上がった部分があったのだと言います。

「正直、『自分のための勉強』ってあんまりモチベーションが湧かなかったんです。でも、『今日の午後になったら、今勉強していることも活かして、こんなふうに教えようかな』と、『今日の生徒のため』というモチベーションも含めて勉強し始めたら、かなり前のめりになって勉強することができるようになったんですよね」

「教える」機会を勉強に組み込む

ちなみに、「教える」という行為は、ドラゴン桜でも「成績が上がる勉強法」として紹介されています。こちらをご覧ください。



(漫画:©︎三田紀房/コルク)

このように、1人で勉強するよりも、塾で教えながらの勉強をしていたことが、青戸さんの勝因だったのかもしれませんね。

さらに青戸さんは、ちょっと特殊な勉強をしていました。エクセルで自分の勉強を管理して、覚えられていない範囲や過去問の得点率の進捗をデータで把握するというものです。

デジタルスキルは「勉強」にも大いに役立つ

「センターの得点で9割を目標にしていて、そのために各教科で最高何点取れたかデータで管理していました。また、私はノートをとるのが面倒くさかったので、代わりにエクセルで世界史の内容を地域別、テーマ別にしてまとめていました。これなら手書きと違って追加・修正するのも簡単だったので」





このようなデジタルを活用した勉強法をしている受験生は最近かなり増えているわけですが、社会人を経験した青戸さんだからこそできる面があったのだと言えるでしょう。

さて、こんな勉強法が功を奏して東大に合格した青戸さんは、この自分の経験を活かして、今はいろんな生徒に大学受験の指導をしています。

「東大に受かったことで、昔の自分とは違い、どんな生徒にも自信を持って受験指導ができるようになりました。それが、何よりもうれしく思います」

お話ししていて、僕も「本当にお優しい人なんだな」と感じました。自分のためよりも、他人のためのほうが頑張れる、その精神性があったからこそ、青戸さんは30歳からの東大合格を達成できたのではないでしょうか。

時には、自分のためだけではなく、他人のために頑張ってみる。この姿勢は、学ぶところが多いように感じます。みなさんぜひ、参考にしてみてください。

(チームドラゴン桜 : 勉強法研究のスペシャリスト集団)