かつて火星は生命の維持に必要な「水」に覆われていたと考えられていますが、NASAの無人火星探査機「パーサヴィアランス」に搭載された分光計が、水によって変質した岩石中に有機化合物を発見したことがカリフォルニア工科大学のスナンダ・シャルマ氏らの研究チームによって報告されています。

Diverse organic-mineral associations in Jezero crater, Mars | Nature

https://doi.org/10.1038/s41586-023-06143-z



Rover sampling finds organic molecules in water-altered rocks | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2023/07/organic-chemicals-on-mars-are-associated-with-water-shaped-deposits/

Perseverance rover digs up diverse set of organic molecules on Mars | Space

https://www.space.com/perseverance-rover-organic-molecules-mars

炭素を含む有機化合物は多くの場合、水素や酸素、窒素、リン、硫黄などの他の元素を含んでいます。シャルマ氏によると、有機化合物は生命の構成要素として見なされることが多く、有機化合物の発見は宇宙生物学者にとって非常に重要な発見とのこと。しかし、有機化合物は地質学的な要因など、生命活動に関係のないプロセスで生成されることもあり、生命の存在の明確な兆候と見なすことはできません。それでも、有機化合物の種類や生成プロセスの解明は、火星における生命に関する重要な調査とのこと。

そこで研究チームはパーサヴィアランスに搭載された分光計「The Scanning Habitable Environment with Raman & Luminescence for Organics & Chemicals(SHERLOC)」を用いてデータの分析を行いました。



パーサヴィアランスのロボットアームに取り付けられたSHERLOCは、カメラや分光計、レーザー測定器を利用して、有機物や鉱物の測定や撮影を行うことが可能です。SHERLOCのレーザー測定器では、鉱物中に存在する分子について調査を行うことも可能です。また、ラマン分光法を行うための機器も搭載されており、これらの機能を併用することで有機化合物中の分子を特定することは困難なものの、どのような種類の分子が存在するかについて示すことができます。

パーサヴィアランスは2021年2月に有機化合物を含んでいる可能性のある粘土やその他の鉱物が多く存在する火星のクレーター「ジェゼロ」に着陸し、クレーター内でSHERLOCを用いて地質学的組成の調査や鉱物の採取などを行いました。

研究チームがパーサヴィアランスのSHERLOCから得られたデータをもとに岩石の分析を行ったところ、観測された10カ所の地点すべてで、約23億年〜26億年前に生成された有機化合物のシグナルを検出しました。



また、「Garde」と呼ばれる岩石からは、炭酸塩や、ケイ酸塩を含むカンラン石が発見されています。



研究チームは「さまざまな塩と結び付いて有機化合物が存在するという事実は、火星の有機化合物が単に隕石(いんせき)に乗って運ばれてきたのではなく、水による堆積もしくは水による岩石の化学変化と関連している可能性を示しています」と報告しています。

一方で研究チームによると、SHERLOCから得られたデータだけでは有機化合物の種類すべての特定や、岩石の生成に生物が関与しているかの発見には至らず、より詳細な調査を行うためには、岩石のサンプルを地球に戻し、分析を行う必要があるそうです。