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乗り比べると硬さが見えるフライングスパー

それでは、今回で1番お手頃なBMW i7はどうか。特に感銘を受けたのは、駐車場を走るような徐行での上質さだった。

【画像】乗り心地を極める ロールス・ロイス/ベントレー/レンジローバー/BMW 参加した5台 全149枚

速度域が上がるにつれ、乗り心地は若干硬く転じていく。路面からの入力に対する揺れも、伝わるようになる。それでも、全体的な乗り心地の良さには唸らされる。BMWらしさも備わっている。


手前からベントレー・フライングスパー V8アズールと、ロールス・ロイス・ファントムVIII、ランドローバー・レンジローバー・オートバイオグラフィーP440e

続いて、SUVのランドローバー・レンジローバー。プラグイン・ハイブリッドで車重は2640kgあるが、リアアクスルは長い波長による影響を受けにくい。だが、ボディの動きは大きめで、稀に落ち着かない瞬間もあった。車高が高いことが理由といえる。

他方、ベントレー・フライングスパーへ単独で乗れば、優れた快適性に満たされるだろう。しかし今回のような比較では、2次的な硬さが見えてくる。路面とボディがしっかり繋がっているような感覚を受ける。

ソフトなロールス・ロイス・ファントムVIIIとは対照的に、ベントレーはあえてこのように調整している。豪華なレザーシートと厳選された装備で仕立てられた、快適性重視のアズール仕様でも。

もちろん、サスペンションはしっかり機能している。ドライバーは自分の運転に対し意識を強めることができ、意図した通りに速くも走れ、ゆったりとも走れる。

あくまでもブランドがラグジュアリーをどう表現するのか、感じて欲しいのかの解釈の違いに過ぎない。華やかでありながら上品さも漂い、技術的には大胆で前衛的。フォーマルさではロールス・ロイスに及ばなくても、適応性の幅があり近づきやすい。

印象的な発見があったファントムVIII

さらに、路面変化について掘り進めていこう。斜め方向にワダチを横断するような非対称の入力への処理や、高速コーナリング中に出くわす不意な隆起部分への対応力などだ。

タイヤへ加わった負荷のエッジを丸めるため、サスペンションのストローク量を保ちつつ、動きのスピードも制御する必要がある。ここに、乗り心地に関する技術のカギが存在する。


ランドローバー・レンジローバー・オートバイオグラフィーP440e(英国仕様)

手強い路面で最も滑らかな体験を与えるのは、フライングスパーではない。それでも、細かい入力を巧みに均しつつ、大きなうねりをしなやかにいなし、フィルターをかけるようにスムーズに処理する。

同時に路面と歩調を合わせるような、引き締まった姿勢制御も両立させている。速度域に関わらず、一定の快適性を享受できる。こなせる仕事の幅が広い。

レンジローバーは、フライングスパーとは対照的。ドライビングポジションが高く、人間工学に優れ、快適に運転できることは間違いない。しかし姿勢制御は寛容といえ、路面の入力から完全に隔離されているわけでもない。

4本のタイヤが離れた、大柄なボディサイズも影響している。期待するほど、大人しい乗り心地に結び付けられていない。

今回のなかで最も高価なファントムVIIIには、印象的な発見があった。前述の通り、平滑なアスファルトでは極めてスムーズなだけでなく、秀抜な遮音性がプラスに働いている。だが、それが転じた弱点も感取されたのだ。

2023年でも完璧さを得ることは困難

ノイズ測定器で、80km/h走行時の車内の音量を計測したところ、平均で一番静かだったのがファントムVIIIの54dBA。フライングスパーが58dBAで、i7が59dBA、レンジローバーは60dBA、シルバークラウドは67dBAという順だった。

ところが、アスファルトの剥がれた穴や橋桁の継ぎ目で、ファントムVIIIはタンタンと音を伝える。強い負荷でサスペンションのバンプストッパーへ当たった時のマナーも、褒めにくい。


ロールス・ロイス・ファントムVIII(英国仕様)

ソフトなサスペンション・チューニングと、大きなストロークが招く結果といえる。押出成形のアルミニウムを用いた、シャシーの大きさや重さも原因だろう。

大きなボディを、高剛性に仕上げることは簡単ではなく、振動の影響を排除することも難しい。タイヤが激しく動いた瞬間、ファントムVIIIのボディもかすかに震えてしまう。

もっとも、これが露呈するのは突出して厳しい条件にあった場合。同クラスの、乗り心地が追求されたモデルと直接比較しなければ、気にならないレベルではあるだろう。

フライングスパーの低速域での硬さと同様に、ファントムVIIIの路面との隔離性も、ライバルとの比較で表に出てくる重箱の隅をつつくようなものでしかない。全体としては、極めて快適なことは事実。この一部分だけに、注目しないで欲しい。

同時に、膨大な開発予算を投じたとしても、乗り心地には一定の妥協が伴うという事実も浮き彫りにしている。各ブランドが独自の解釈で快適性を定義しているが、2023年でも完璧さを得ることは困難なのだ。

最も乗り心地で平気点の高いリムジン

そしてこの比較で、最も一貫した乗り心地で驚かせてくれたのは、5台では1番お手頃なモデルだった。われわれが期待した通りの結果でもあった。威風堂々としたロールス・ロイスやベントレーではなく、バッテリーEVで最新のBMW i7だ。

低速域では枕のようにソフトでしなやか。路面を問わずボディはフラットに保たれ、落ち着きを失わない。座り心地の良いシートに乗員は身を預けられ、橋桁の継ぎ目などの鋭い入力も見事になだめていた。


BMW i7 xドライブ60 Mスポーツ(英国仕様)

乗り心地は、速度域に関わらず終始穏やか。最も平気点の高いリムジンといえた。

普段着姿の審査員数名で、2023年における極上の乗り心地を探求した今回。アグスタのヘリコプターに吊り下げて、ジョナサン・チャールズ・パーマー氏が持ち帰るべき1台は、BMW i7という結果になった。

乗り心地直接比較 高級モデル5台のスペック

BMW i7 xドライブ60 Mスポーツ(英国仕様)

英国価格:11万8470ポンド(約1907万円)
全長:5391mm
全幅:1950mm
全高:1544mm
最高速度:239km/h
0-100km/h加速:4.7秒
航続距離:619km
電費:5.3km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2640kg
パワートレイン:ツイン励磁同期モーター
バッテリー:101.7kWh(実容量)
急速充電能力:195kW
最高出力:543ps
最大トルク:75.7kg-m
ギアボックス:シングルスピード・リダクション

ベントレー・フライングスパー V8アズール(英国仕様)

英国価格:20万2055ポンド(約3253万円)
全長:5316mm
全幅:1978mm
全高:1484mm
最高速度:318km/h
0-100km/h加速:4.1秒
燃費:7.9km/L
CO2排出量:288g/km
車両重量:2330kg
パワートレイン:V型8気筒3996ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:549ps/6000rpm
最大トルク:78.3kg-m/2000rpm
ギアボックス:8速オートマティック

ロールス・ロイス・ファントムVIII(英国仕様)


BMW i7 xドライブ60 Mスポーツに座るジョナサン・チャールズ・パーマー氏

英国価格:40万9455ポンド(約6592万円)
全長:5762mm
全幅:2018mm
全高:1646mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:5.5秒
燃費:6.4-6.6km/L
CO2排出量:345-358g/km
車両重量:2685kg
パワートレイン:V型12気筒6751ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:571ps/5000rpm
最大トルク:91.6kg-m/1700rpm
ギアボックス:8速オートマティック

ランドローバー・レンジローバー・オートバイオグラフィーP440e(英国仕様)

価格:13万4865ポンド(約2171万円)
全長:5005mm
全幅:1985mm
全高:1865mm
最高速度:220km/h
0-100km/h加速:6.8秒
燃費:8.8km/L
CO2排出量:20g/km
車両重量:2640kg
パワートレイン:直列6気筒2996ccターボチャージャー+電気モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力:460ps/5500rpm(システム総合)
最大トルク:63.0kg-m/1500rpm(システム総合)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック

ロールス・ロイス・シルバークラウドIII(1964年式/英国仕様)

価格:8万5000ポンド(約1368万円/現在)前後
全長:5378mm
全幅:1880mm
全高:1626mm
最高速度:183km/h
0-100km/h加速:10.9秒
燃費:4.2km/L(予想)
CO2排出量:−
車両重量:2090kg
パワートレイン:V型8気筒6230cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/4500rpm
最大トルク:45.8kg-m/2500rpm
ギアボックス:4速オートマティック