元々、購入してから動態保存されてきていた個体だが、ハリケーン・チャーリーによるダメージも負っている。それでもこれだけの落札見込み価格が掲げられているとは、クラシック・フェラーリの価値をつくづく思い知らされる。

もっとも、ちょっと調べてみると面白いことも分かった。

「ハリケーン・チャーリーから避難させて」という謳い文句はRMサザビーズがプレスリリースで発表しているもの。事実は、これらフェラーリ20台はウォルター・メドリン氏が文字通り「隠していた」ものだったのだ。

メドリン氏はフロリダ州の不動産開発会社経営者で、アメリカの国税局にあたるアメリカ合衆国内国歳入庁(以下、IRS )と常にモメていた人物である。メドリン氏は差し押さえのギリギリまで納税しない、という度胸の持ち主だった…

ハリケーンの被害でメドリン氏のフェラーリの所在が明らかになるとIRSは早速、1967年式フェラーリ330P4を差し押さえた。競売にかけられる直前になって、メドリン氏は納税し330P4を取り戻した。なお、1990年代にも複数のフェラーリを差し押さえられた経験があるメドリン氏は、1997年には所有するフェラーリの隠匿で収監された経験も持つ。

2004年にメドリン氏のフェラーリが意図せず公になってしまった後、また、これらのフェラーリは行方知れずになった、と言われている。少なくとも、RMサザビーズではそのように謳っているが…、インディアナポリス・スピードウェイの近隣にある建物に保管されてきたようだ。

具体的には1200 North Main通りという建物で、メドリン氏は「自動車やレーシングカーの博物館を作る」と息巻いていた模様。もっとも、それが真実なのか、ただ周辺住民や地元自治体を納得させる入居事由だったのか、今となっては定かではない。

いずれにせよメドリン氏、2013年から脱税で30か月収監され、ようやく自身のコレクションの放出とあいなった様子。「様子」と記すのは、売主が明確になっていないゆえにメドリン氏のコレクションなのか、メドリン氏が第三者に売却したのか不明だからだ。

8月に実際のオークションが開催されるまで結果は分からないが、まず購入時よりも遥かに上回る値段がつきそうな雰囲気である。IRSと勝負し、負け、収監され、最後にメドリン氏にクラシック・フェラーリが莫大な資産をもたらすなら…、凄い話である。

文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)