Appleは2023年4月、ゴールドマン・サックスと提携する独自クレジットカードのApple Cardを持つユーザーに向けて、高利回りの普通預金サービスを開始しました。ところが、この普通預金サービスの利用者から、「別の銀行口座に送金するだけなのに数週間もかかった」という苦情の声が上がっています。

Apple Customers Say It’s Hard to Get Money Out of Goldman Sachs Savings Accounts - WSJ

https://www.wsj.com/articles/apple-savings-account-customers-say-its-hard-to-get-their-money-out-of-goldman-sachs-bd8b9ccb



Apple Savings Users Complain of Delays Withdrawing Money - MacRumors

https://www.macrumors.com/2023/06/01/apple-savings-money-withdrawal-issues/

Long delays with cash withdrawals are causing some Apple savings account users to flee - 9to5Mac

https://9to5mac.com/2023/06/01/long-delays-with-cash-withdrawals-is-causing-some-apple-savings-account-users-to-flee/

Appleが4月に発表したApple Cardユーザー向けの普通預金サービスは、なんと「年間利回り4.15%」という普通では考えられないほどの利回りをアピールしており、開始からわずか4日間で1300億円超の預金が集まったことが報じられています。この預金サービスは最低入金額や最低残高も設定されておらず、わずか数分で口座を開設できることもあって高い評価を集めていたとのこと。

Appleの高利回り預金が1300億円超の預金をサービス開始4日で集める - GIGAZINE



ところが経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルは、一部のユーザーから「Appleの銀行口座から外部の銀行口座に預金を移すのが非常に大変だった」という声が上がっていると報じました。

ジョージア州アトランタの郊外に住むネイサン・タッカー氏は、5月15日にAppleの口座からJPモルガン・チェースの口座に1700ドル(約23万7000円)を送金しようとしました。ところが、どういうわけか送金が実行できず、ゴールドマン・サックスのカスタマーサービスに電話してみたものの、あと数日待ってくれという返答があるだけだったそうです。

結局タッカー氏は1700ドルを送金できないまま、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じました。その後、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者がその他の顧客とあわせてタッカー氏の件についてゴールドマン・サックスに問い合わせたところ、6月1日の朝になってようやくJPモルガン・チェースの口座への送金が完了したとのことです。

ゴールドマン・サックスは特定の顧客の事例については返答できないとしつつも、「当社はお客様の預金を保護する義務を非常に重く受け止めています。Apple Cardユーザー向けの新しい普通預金口座に対するお客様の反応は素晴らしく、私たちの期待以上のものでした。大半のお客様では送金に遅延はありませんが、お客様の口座を保護するためのプロセスにより、限られたケースで送金に遅延が発生することがあります」と回答しました。一方、Appleの広報担当者はウォール・ストリート・ジャーナルへのコメントを控えました。



Appleの事例のように、開設して間もない新しい口座で残高の大部分を送金しようとすると、マネーロンダリング防止アラートやその他のセキュリティシステムに引っかかり、送金を行うために追加のレビューが必要になるケースがあるとのこと。また、新しい口座から元々の口座とは異なる別の口座に送金しようとする際も、セキュリティシステムがアラートを発することがあるそうです。

弁護士であるミンジェ・リー氏は4月に10万ドル(約1400万円)をAppleの口座に預けましたが、5月1日にJPモルガン・チェースの口座に預金を移すことに決めました。ところが送金は失敗してしまい、リー氏がゴールドマン・サックスに問い合わせたところ、「預金はAppleの口座に送金した口座にしか移動できない」と伝えられたそうです。

そしてリー氏は、5月16日に元の口座に預金を戻す操作を実行しましたが、一時的にAppleの口座残高が0円なのに元々の口座も0円のままの状態となり、預金がどこにあるのかわからなくなる事態が発生。結局、5月25日になってようやく元の口座に預金が戻ってきましたが、預金を自分の口座に移すだけで3週間以上もかかってしまいました。

また、ミネソタ州に住むケビン・スミス氏は、地下室を改装するための資金をAppleの口座からU.S.バンクに移そうとしましたが、ゴールドマン・サックスは口座のセキュリティレビューが行われているとして送金を停止。結局、スミス氏は現金を用意するために1万2000ドル(約166万円)分の株式を売却するはめになりました。スミス氏はAppleのティム・クックCEOに対し、「あなたの計画は人々の貯蓄を人質に取る銀行と提携することだったのですか?銀行の見解では、人々は長期間自分の貯蓄口座に触れてはならないそうで、『セキュリティレビュー』でそれを強制していると知っていますか?」とツイートしています。



金融犯罪の専門家である銀行コンサルタントのデニス・ローメル氏は、銀行がリスク調査を強化するために送金を遅らせるのは合理的であるものの、これほどの遅れは驚くべきことだと指摘。「2週間〜4週間の遅れは確かに長すぎると思います。銀行と頻繁に取引している私のような人にとっては、不合理に思えます」と述べました。