「開けてはならないもの」という意味でよく用いられるパンドラの箱とは、ギリシア神話に登場する人類最初の女性・パンドラが「決して開けてはならない」と言われていた箱を好奇心から開けてしまい、さまざまな災いがこの世に飛び出したというエピソードに基づく言葉です。人間は好奇心によって良いことも悪いことも引き起こしますが、霊長類と人間の幼児を対象にした伏せたカップを開けさせる実験で、「人間は他の霊長類よりも中身がわからないカップを開けたがる」という傾向が明らかになりました。

Comparative curiosity: How do great apes and children deal with uncertainty? | PLOS ONE

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0285946



The Temptation to Open Pandora's Box Could Set Us Apart From Other Apes : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/the-temptation-to-open-pandoras-box-could-set-us-apart-from-other-apes

ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所で比較文化心理学を研究するアレハンドロ・サンチェス・アマロ氏らの研究チームは、過去の研究から人間は明確な利益がない状態でも、資源と引き換えに情報を得ようとすることがわかっていると指摘。その上で、「人間はおそらく地球上で最も好奇心旺盛な動物ですが、新しい情報を知るという私たちの生来のモチベーションが、私たちの最も近い親戚とどの程度共有されているのかはよくわかっていません」と述べています。

そこでアマロ氏らは、人間の幼児と霊長類を対象にして「中身のわかっているカップと中身がわからないカップを見せて、どれほどの頻度で中身がわからない方のカップを開けるのか」を調べる実験を行いました。



研究チームは最初の実験で、チンパンジー・ゴリラ・ボノボ・オランウータンなどの霊長類29頭を対象に、伏せた状態の「中身の見えない赤いカップ」と「中身の見えない別の色のカップ(たとえば黄色のカップ)」を見せて、どちらかを選ばせる実験の第1段階を実施しました。赤いカップの中には報酬として1個のブドウが入っており、黄色のカップには何も入っておらず、事前試験を通じて霊長類は「赤いカップにはブドウが1個入っている」と学習したとのこと。

実験の第2段階では、「赤いカップ」と「中身の見えない別の色のカップ(第1段階で使用した黄色ではなく、緑色や青色のカップ)」を見せて、霊長類にいずれかを選ばせる試行を繰り返しました。第2段階では、新しい色のカップに「ブドウが3個入っているグループ」と「ブドウが入っていないグループ」に分けられ、霊長類がいずれかのカップを選んだ後に両方のカップの中身が開示されました。

そして第3段階では、「赤いカップ」と「中身の見えない新しい色のカップ(第1段階や第2段階で使わなかった色のカップ)」を見せて、霊長類がどちらのカップを選ぶのかを調査したとのことです。



続いて研究チームは別の霊長類15頭を対象にして、赤いカップを「透明で中身が見えるカップ」に変更して同様の実験を行いました。この際、第2段階ではすべての霊長類が「不透明なカップの中に3個のブドウが入っているグループ」に割り当てられ、第3段階で不透明なカップを選ぶ割合が増えるのかどうかが調査されました。



さらに研究チームは、人間の3〜5歳の幼児72人を対象にして、報酬を「ステッカー」にした同様の実験を実施。霊長類と比較して人間の幼児がどれほどの頻度で「不透明なカップ」を開けるのかが調査されました。

一連の実験結果を分析したところ、類人猿は「中身の見えないカップ」の中身が明らかになるまでは、中身が明らかになっているカップを明確に好んで選ぶことが判明。一方、中身の見えないカップにより多くの報酬がある可能性を知ると、今度は中身の見えないカップを圧倒的に好んで選択するようになりました。



一方で、人間の幼児は「中身の見えないカップ」の中身が明らかになる前から、ステッカーが入っているかどうかわからない中身の見えないカップを選ぶ可能性が有意に高いことがわかりました。人間の幼児は第1段階で全体の52%が、第2段階で85.4%が中身のわからないカップを選択したとのことです。

研究チームは、「全体として、内的動機が子どもたちの意思決定に強く影響していました」「子どもと霊長類の違いは、未知の世界を探求するモチベーションの違いにあると言えるでしょう」と述べました。