物々交換において、自分が持っている物がまさに相手の求めている物であり、相手が持っている物が自分の求めている物そのものであるという状態、つまり二者の需要と供給が完全に一致している状態が発生する確率は限りなく低いです。このような状態を経済学用語で「欲望の二重の一致(double coincidence of wants)」といい、限りなく低い確率に頼るよりかは代替手段の貨幣に頼った方が良いなどという考え方に発展したりもするのですが、そんな欲望の二重の一致を分かりやすくゲームで表現した「Dual Coincidence」がメキシコ銀行博物館に展示されました。

Andy Cavatorta

https://andycavatorta.com/dual.html

Dual Coincidence is likely the world's most complex electromechanical game

https://newatlas.com/good-thinking/dual-coincidence-five-way-pinball-electromechanical-game/

Dual Coincidenceが動いている様子は以下の動画で確認できます。

Dual Coincidenceはメタリックな見た目のピンボール台です。



通常のピンボールと違うのは、5つのピンボール台が星形に連結した特殊な構造になっていること。各台に1人が付き、5人同時にプレイしなければなりません。



中央の連結部には「カルーセル」と呼ばれる回転機構がつけられています。カルーセルは全部で6個あり、それぞれに5種類の果物の絵が描かれています。果物はそれぞれ「トウモロコシ」「大工」「薬」「靴」「水」を表しており、これらはすべて1つの「財」であることを意味します。



各プレイヤーはピンボールを通じ、それぞれ異なる1種類の財のみを生産できます。その財を生産すると自分の台に連結したカルーセルにボールが送られ、財に該当する果物の絵が光ります。5種類ある財のすべてを光らせるとOKですが、自分は1つの財しか生産できないため、他のプレイヤーが生産する財と交換しなければ目的を達成できません。



Dual CoincidenceはアートスタジオのAndy Cavatorta Studioがメキシコ銀行博物館のために制作したアート作品です。

制作者のアンディ・カヴァトルタ氏によると、Dual Coincidenceには17台のコンピュータに6台のサーボモーター、10個の光学センサー、12個のロータリーエンコーダー、35個の誘導センサー、75個のスイッチ、115個のソレノイドアクチュエーター、704個の照明が組み込まれており、非常に複雑な構造になっているそうです。



サウンド面にも力を入れており、音楽は25本の金属製チャイムによって奏でられるようになっています。このチャイムは金属を一から研磨し、チューナーで音程を調整したという徹底っぷり。



Dual Coincidenceの制作費は約30万ドル(約4000万円)だそうです。カヴァトルタ氏は展示に当たり、「美術館はタッチスクリーンを使ったインタラクティブな展示が多いので、物理的で触感のよいものがいいと思いました。見知らぬ人同士が会話し、それぞれの個性が発揮されるような、予測不可能な社会的要素を持たせたいと考えて作りました」と述べています。