様々な役割を持つ空港職員が連携するうえで不可欠な連絡手段が「無線」。ANAはそれを廃止し、空港職員はその代わりとして、ちょっと存在感のあるイヤホンマイクを装着するようになりました。これにより、やりとりの可能性が大きく広がっています。

課題多かった昔ながらの「無線」

 全国旅行支援や水際対策の緩和もあり、久しぶりに空港に行ったという人も多いかもしれません。ANA(全日空)のチェックインカウンターや搭乗口では、コロナ禍中にある変化が。職員が、黒い存在感のあるイヤホンマイクを装着するようになったのです。


イヤホンマイクを装着したANA職員(画像:ANA)。

 ANAは国内の主要8空港の搭乗口やチェックインカウンターの係員が利用していた無線機を、耳掛け式イヤホンマイクに刷新しています。ANAの担当者によると、空港係員のコミュニケーションには、無線機が欠かせないものとなっていたそう。それをなぜ廃止したのでしょうか。

 無線機を利用していた際には、「無線が途切れてしまって聞き取れない」「無線に接続している全員を対象にした“1 to All”の会話になるため、聞き逃した場合も会話を遮ることになり、聞き返しにくい」「進行中の会話に割り込みにくい」といった課題があったそう。「手が塞がってしまう」ことのほか、「聞き逃しによるミスコミュニケーション」も生じ、「コミュニケーションするグループを柔軟に設定できない」という難があったといいます。

 そこで、無線機に代わって導入したのが、コミュニケーションアプリと連動する専用の耳掛け式イヤホンマイクです。「ハンズフリーで会話ができるようになる」だけでなく、「グルーピングして会話ができる」などの機能で、空港係員がより働きやすい環境を作ることができたといいます。

 コミュニケーションアプリと連動したイヤホンマイクのメリットは、これだけに留まらないようです。

“声”だけじゃない 現場の情報共有に革新が

 新たに導入されたのは、市販もされているイヤホンマイクの「BONX Grip」と専用のアプリケーションの「BONX WORK」です。イヤホンマイクは各係員のiPadとBluetoothで接続され、iPadにインストールされた「BONX WORK」を介して他の係員と会話できます。

 採用の理由は、類似製品と比較して音声品質が高かったことのほか、ハンズフリー会話機能や、文字起こし機能など、将来的なイノベーションにつながる可能性の高い機能があったからだといいます。

 この導入によって、業務に合わせたグループ化を行い、必要なメンバーだけでのコミュニケーションが可能になったほか、チャット機能もあるため、音声・文字・画像など必要に応じて適切なツールを選択したり、聞き逃した会話を追っかけ再生機能で確認したりできるようになったそうです。

 たとえば、機内の忘れ物の情報を共有する際、言葉で説明するのではなく、iPadで現物の写真を撮り、その画像をチャットで共有できるのだそう。音声だけでない複数の伝達手段を活用できるメリットは大きいようです。


旅客部門に限らず、空港では無線が広く使われる。写真はイメージ(画像:svitlanahulko/123RF)。

 現在は空港旅客部門のみが利用していますが、今後は客室部門、整備部門などへの導入を進めていくとのこと。部門間の横断的な連携のほか、他システムとの連携、音声データの活用により、新たな価値創造につなげていきたいといいます。

 年末年始、空港を利用する予定のある人は、イヤホンマイクを通してコミュニケーションするANA職員の姿をチェックしてみてはいかがでしょうか。