『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は12月16日(金)より全国劇場公開(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

今年の映画界は『ONE PIECE FILM RED』『すずめの戸締まり』『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』といったアニメをはじめ、『キングダム2 遥かなる大地へ』『シン・ウルトラマン』といった邦画作品、そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』といった洋画作品など、ヒット作の傾向もバラエティ豊かで、例年にない豊作の年となった。それらの作品はIMAXシアターでも上映され、盛況となっている。

IMAXシアターは4Kレーザー投影システムを採用しており、まるで映画に入り込んだかのような没入感を体験できるのが特徴だ。また12chサウンドシステムを採用し、サウンド面でも臨場感を味わうことができる。

トム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』は「IMAXで観たい」という観客も多く、日本でも「グランドシネマサンシャイン 池袋」が、世界のIMAXシアターの中でも興行成績世界ナンバーワンの記録を達成。12月16日には『アバター』の最新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の公開も控えている。IMAX社にとっても日本は欠かせないマーケットとなっているのだ。

多くの映画人、映画ファンに愛されているIMAXシアターだが、その歴史を紐解くと、IMAXの初上映は1970年の大阪万博であるなど、実は日本との関係性も深いものがある。そこでIMAX社が見据える日本市場について、IMAX社CEOのリチャード・ゲルフォンド氏に話を聞いた。

「日本はものすごく潜在能力がある」

――IMAX社における日本市場はどう捉えていますか?

パフォーマンスという意味で日本は本当に素晴らしい国なんです。1スクリーンあたりの興行収入を示したPSA(パー・スクリーン・アベレージ)という指標があるんですが、日本は1スクリーンあたり150万ドル(約2.1億円)という金額になっていて。世界と比べても一番高い数値となっています。日本でパートナーシップを結んでいる興行会社の皆さんも、その実績についてはたいへん満足されていて。日本はものすごく潜在能力がある国だという実感があります。

――世界では1700近いシアター数を誇るIMAXですが、日本で営業しているのは41。もう少し日本での普及を目指したいという思いがあるのではないでしょうか?

現在、IMAXは89の国と地域で展開をしているのですが、確かに日本では41のIMAXシアターが営業中で、現在、6つのシアターとオープン契約を結んでいる状況です。

もちろんもっと増やしたいと思っていますが、ほとんどのシアターが都市部に集中しているということもあり、浸透のスピードはやや遅いですね。日本では100シアターを目標に、よりローカルでの展開も進めていき、この数年間でできるだけすばやくこのネットワークを拡大していきたいと考えています。


日本発の映画「すずめの戸締り」(全国公開中)もIMAXで上映されている (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

IMAXはほかでは体験できない魅力がある

――リチャードさんといえば、自然科学のドキュメンタリー映画などが中心だったIMAXのコンテンツを、商業映画のフィールドに押し広げた立役者となりますが、その方針転換に至った経緯を教えてください。

元々会社を買収したときに、IMAXをもっとメインストリームなものにしていこうという計画があったということもありますが、この変革というのは、どちらかといえばテクノロジーによって推進されたものが大きかった。

まずはハリウッドの作品を、独自の映像処理技術を使ってIMAX作品に変換する技術ができたということ。それからIMAXシアターをシネコンの中に作ることができたことで、新たに特定の建物を建設することなく、コストの削減ができたということ。

それとフィルムからデジタルへの移行が進んでいったことで、プリントのコストが大幅に下がったということが挙げられます。フィルムの時代は、1つの作品の現像代が4万ドル(約560万円)ぐらいかかっていたんですが、それを100ドル(約1万4000円)まで下げることができました。わたしたちが会社を買収したときは世界中で55のIMAXシアターがあったんですが、今は1700シアターに増えています。


リチャードCEO(撮影:尾形文繁)

――IMAX社を買収しようと思ったのは、どこに可能性を感じたのでしょうか。

とにかくほかとは比べようもないエクスペリエンス(体験)が実現できることが一番の魅力。行ったことのない場所に連れていってくれます。これまで考えられないような体験ができることが一番大きい。それと同時に、ポテンシャルの高さも感じました。

当時は自然や科学的な作品が中心でしたが、それをエンターテインメントの領域まで拡大できるというポテンシャルをものすごく感じたんです。ただ実際はそう簡単にいかなくて。想定よりもかなり大変でしたし、時間もかかりました。ですが今はそれを実現することができて大変に満足しています。

――特に大変だったことは?

やはりIMAXに合わせたシアターを建設しなければならないですし、フィルムそのもののコストも下げなければいけなかった。そうすると思っていたよりも、数字の帳尻が合わなかった(笑)。最初はそういったことも理解できていなかったですが、ビジネスの中のすべての部分に変革を起こさないと実現できなかったことなので。それが大変でした。

――当時のクリエーター側の反応は?

やはり最初はものすごく時間がかかりました。最初にスティーヴン・スピルバーグ監督にIMAXの作品を作るのを手伝ってくれないかと相談したんですが、シアターの数が1000カ所になったらもう1回相談してくださいと言われたので。今なら1000を超えたので、全然相談できるんですけど、当時はそれだけの規模感がないということで、すごく躊躇をされていましたね。

当初はそういったこともあったので、IMAXのために撮られた作品を作るのではなく、独自の映像処理技術を使って、既にリリースされている作品をIMAX化するところから始めました。

だから歩みは少しずつではありましたが、次第にジェームズ・キャメロンやクリストファー・ノーランのようなクリエーターが登場してきて。大きな変革ができたわけです。

アバターがブレイクスルーに

――そういう意味で、IMAXのブレイクスルーとなった作品は?

それはやはり13年前にリリースされた『アバター』ですね。ジム(ジェームズ・キャメロン)が撮影中に、本当に小さなスクリーンで画面を見せてくれたんですが、本当にこれで世界が変わるなと思ったんです。そして実際にここからIMAXの世界が変わりました。


IMAXのブレイクスルーとなった『アバター』(ディズニープラスにて配信中) (C)2022 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

――当時は日本でもIMAXシアターでの上映はチケット争奪戦だった記憶があります。

それこそ最近の『トップガン マーヴェリック』の現象に似ていますよね。あの作品では、トム・クルーズと撮影チームと連携をしながら、特別なカメラを作ったんです。そのカメラを(戦闘機の)コックピットの中に設置して、特別なアクションが撮影できるようにしたわけです。

それによって、その2つを関連づけて覚えられるようになって。それが結果として、グローバルで14.8億ドル(約2070億円)という興収に繋がったと思います。


『トップガン マーヴェリック』(デジタル配信中)はIMAXシアターでも大ヒットを記録した ©2022 PARAMOUNT PICTURES.

――ここまでのヒットは予想していましたか?

元々、コロナ禍によって予定されていた時期よりも上映が遅れてしまったんですが、わたしが最初に見たのが1年半ほど前で。そのときにトムとはこれは本当に10億ドル(約1400億円)いける作品だねという話をしていました。ストーリーも素晴らしい、ビジュアルも素晴らしい、音楽も本当に素晴らしかった。これが全部まとまって素晴らしい作品に仕上がっていたと思います。

映画のビジネスというのは科学ではなく、アートだと思うんです。いろいろなことがうまく組み合わさらないと、すべてが良い成果に繋がらない。それがこの作品ではすべてがうまくピッタリとはまって。しかも素晴らしいタイミングで上映された。

作品自体が希望に溢れ、気分が高揚するような作品だった。世の中の人たちがこのパンデミックにいい加減、嫌気が差していたというタイミングで上映されたということも良かったんだと思います。

コロナ禍で苦しい時期が続いた


リチャードCEO(撮影:尾形文繁)

――コロナ禍では、アメリカでも映画館が営業できない時期がありましたが、この時期の営業はやはり苦しかったのでは?

本当に厳しかったですね。劇場が営業できないだけではなく、映画製作も止まってしまったわけなので。作品がリリースされない状況が続き、その後もパンデミックがいったん落ち着いた後でも上映できる作品が何もなかった。この時期は本当に苦しかったですね。

――さらにこの時期は、映画スタジオが動画配信サービスでの公開も視野に入れるなど、模索の時期が続きました。

そうですね。スタジオ側がこのパンデミックをかなり懸念していましたからね。ですから、パンデミックで作品自体がなくなったということと、あとはあったとしても劇場で上映してもらえないという。その2つの要素で、わたしたちにとってはまさに生き残りをかけた戦い。究極のストレステストのような状態でした。

ただIMAXとしては元々かなりしっかりとした、強力なバランスシートがあったので、コスト削減を行うなど、いろいろな策を講じた結果、最終的には乗り切ることができました。

今も負債はバランスシート上ないですし、現預金も5億ドル(約700億円)ほどありますので、強力な状態は変わらない。ただそれができたのは、わたしたちがテクノロジーの会社だからというのはあると思いますが。

ただ日本の市場はほかとはかなり違っていて。ローカルのコンテンツ、特にアニメが強かったため、劇場の方々もハリウッド作品にそこまで依存する必要がなかった。結果、日本の映画業界は他国よりはいい状態で回復できていると思います。

――そういう意味で今年は『トップガン マーヴェリック』をはじめ、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』など洋画の強力作品が続々と上映され、非常に充実した1年となりました。その中でもやはり映画は映画館で観るべきという哲学を体現した『トップガン マーヴェリック』の大ヒットは、IMAX社にとっても希望の光となったのではないでしょうか?

そうですね。ただわたしたちもグローバルな会社なので、今年は中国でロックダウンが行われたというのはけっこう厳しかったという面はあります。ただそういうことがありつつも、社内の意欲、モチベーションというのは非常に高くなっています。今では希望に満ちあふれていて、大変だった時期の苦労は忘れて、もう少し先に進んでいこうという雰囲気に満ちあふれています。

プロジェクトの初期の段階から関わる

――やはりIMAXの強みというのは撮影、ポスプロ、上映と一貫して対応できるところにあるのではないでしょうか?

わたしたちはこういった一気通貫のソリューションを持っているということに誇りを持っています。いくつかの作品はIMAXのカメラを使って撮影されていますし、さらにサウンドも重要な要素を持っています。またポストプロダクションのテクノロジーについても、フィルムメーカーの方々と一緒に連携して行っています。

わたしたちはプロジェクトの本当に初期段階から関わっていて、トム・クルーズやクリストファー・ノーラン、マーベルとも最初のプランニングの時点から関わっていて。どうやったらIMAXでいちばんきれいに見せられるかを考えながら制作に関わっているわけです。

また上映に関してもIMAXレーザーという技術を使って、最高の画質が実現できるようになりました。もしかしたら観客の皆さまにとってはとてもきれいな画面だねというぐらいにしか思わないかもしれませんが、それを実現するためには裏側で本当にたくさんの作業が行われています。

わたしたちはそれを実現するためのイノベーション作りに集中をしています。そしてこれがこれからの業界としての進むべき方向だと思っていますので、パンデミックが完全に落ち着いたら、最高のエクスペリエンスを人々が求めてくるだろうと思っています。

――技術の進化とともに、家電やガジェットなどはどんどん小型化していくものですが、IMAXの場合は、逆に巨大なものを人々が求めるようになるわけで。それは面白いなと思うのですが。

おっしゃる通りです。つい最近もドイツのレオンベルクという都市に新しいIMAXシアターがオープンしたんですが、そこのスクリーンサイズが、(旅客機の)ボーイング737と同じサイズ。世界最大のIMAXシアターなんですが、やはりエンターテインメント体験は、携帯端末やiPadなどだけでは、絶対に物足りなくなってくると思うんです。

何かに没入してどこかに連れていかれる感じや、そのエクスペリエンスを実際の感覚として味わいたいと思うようになる。そうすると単に椅子に座りっぱなしでいるよりも、外に飛び出したいというふうに感じるのではないかと思います。

人々はもっとエクスペリエンスを求める

それは物質的に何かを買うということよりも、もっとエクスペリエンスを求めること。それが大きなトレンドの一部だと思っています。そしてその欲求がパンデミックによってさらに加速してるんでしょうね。だからこそわたしも日本に入国できるようになったらすぐに来日したわけですから(笑)。

――今年は『アバター』の続編となる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』も公開されますし、IMAX社にとっても特別な年になるのでは?

そうですね。12月中旬に公開される『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』ですが、ジムも、1作目で使っていたテクノロジーをさらに改善したと言っていたので、前作よりもさらに特別感のある作品に仕上がったはず。わたしたちも今からものすごくワクワクしているところです。

(壬生 智裕 : 映画ライター)