「胞状奇胎」になりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が監修!

写真拡大 (全5枚)

妊娠は出産にいたるまで奇跡の連続です。

妊娠検査薬で陽性反応が出ても、残念ながら妊娠を継続することができないケースも多数見られるのが現実です。

この記事では、異常妊娠のひとつである胞状奇胎について取り上げます。

どういう症状が表れる病気なのか、その原因や治療法とともに放置するリスクや再発の可能性・次の妊娠にどのような影響を与えうるかということを解説します。

胞状奇胎の症状と原因

胞状奇胎とはどんな病気ですか?

胞状奇胎は絨毛性疾患(じゅうもうせいしっかん)の中に含まれている病気のひとつです。妊娠中に作られる胎盤の絨毛細胞(正式には栄養膜細胞またはトロホブラストと呼びます)が異常に増殖してしまうことで発症します。発症すると、子宮内にぶどうのようなつぶつぶとした水腫を形成することから、昔は「ぶどう子」とも呼ばれていました。

この病気は500~1000妊娠に1回程度の割合で起こり、アジア人の発生率が特に高くなっています。染色体の異常が原因で起こりますが、遺伝的な要素はありません。健康なカップルから突発的に発生するのが特徴です。

胞状奇胎には全胞状奇胎と部分胞状奇胎の2種類に分類されますが、そのどちらも正常な胎児として育つことができません。ほとんどの女性は完治する病気ですが、全胞状奇胎の5人に1人、部分胞状奇胎では200人に1人の割合で子宮内に癌を発症するリスクを伴います。

胞状奇胎にみられる症状を教えてください。

自覚できる症状としては月経の停止やつわりを感じるなど、正常な妊娠初期の症状とほとんど変わらないことが多いです。血中に妊娠時特有のhCGホルモンが分泌され始めるため、妊娠検査薬でも陽性を示します。

ただし、流産の兆候に似た性器からの出血や腹痛を認める場合もあります。正常な胎児の妊娠時と初期症状は同じ(嘔吐などの妊娠悪阻)ですが、不正出血が生じること、お腹が大きくなるスピードも速いことがあります。

胞状奇胎を発症する原因はありますか?

精子と卵子の受精がうまくいかなかったことが原因で発症します。全胞状奇胎は卵子に核がなく、空っぽの卵子に精子が入ってくることで発生します。つまり母親のDNAが存在せず、父親のDNAのみで構成された受精卵ということになるのです。父親のDNAしか存在しないため、妊娠初期に形成されるはずの胎嚢は存在しません。

部分胞状奇胎の場合は、1つの卵子に2つの精子が受精することで発生します。

ごくまれに胞状奇胎と正常な胎児との双子であるケースが発生することがありますが、この場合は妊娠の継続が可能かどうかをしっかりと見極める必要があります。

胞状奇胎になりやすい人は?

胞状奇胎を発症するリスクが高い人の特徴として、以下の項目が挙げられます。

15歳以下の若年妊娠

以前に発症したことがある人

2回以上の流産を繰り返している人

ただしこの病気は妊娠可能な年齢の女性なら誰にでも誰にでも生じます。

診断は、妊娠2~3か月で実施されます。妊娠6週あたりの早い段階で、妊娠性のホルモンのhCGの値の上昇傾向が強く、胎嚢(赤ちゃんの袋)がみえないというようなことで判断されます。

確定的な診断は、組織学的な診断によって行われるのが一般的です。エコー検査で子宮内に特徴的な像を認め、最終的には病理検査の結果で診断が確定します。hCGの値が正常例と比較して高値となることも特徴です。

胞状奇胎の検査と治療

胞状奇胎ではどんな検査をしますか?

胞状奇胎の発症が疑われるケースでは以下の検査を行います。

超音波による経腟エコー検査

血液検査もしくは尿検査

どちらも妊娠初期(2ヶ月~3ヶ月頃)の段階で行う検査です。エコー検査で子宮内に特徴的な像があれば、胞状奇胎が疑われます。

しかし初期の流産と見分けることが難しい場合もあり、手術後の病理検査の結果が出てから診断が確定します。正常妊娠時と比べて血中もしくは尿中に含まれるhCGホルモンの値が高くなることが多いので、hCG値を測定することが診断の手助けになるのです。

胞状奇胎の治療法が知りたいのですが…

子宮の内容物を除去する子宮内容除去術が主な治療法として実施されます。これは、通常の流産手術と同じ方法です。

1度目の手術からおよそ1週間後にもう一度子宮内容除去術を行い、子宮内にあった内容物が完全に除去されたかどうかの確認をします。

病理検査により胞状奇胎の診断が確定すると、術後の定期的な外来通院が必要になってきます。これは、除去手術後1~2%程度の割合で絨毛癌を発症する恐れがあるためです。

術後は1週間~1ヶ月に一度程度の頻度で外来を受診し、血液中のhCG値が順調に下がっているかを検査します。

hCG値が正常値にまで下がれば、次の妊娠に影響はありません。主治医の許可が下りたなら、次の妊娠・出産に向けて前向きに考えても良いでしょう。

病院を選ぶときの注意点などあれば教えてください。

胞状奇胎の治療は流産の手術と同じ方法であるため、産婦人科であれば地域のクリニックでも処置が可能です。ただしより正確な診断を出すための詳細な病理検査やDNA診断を行う必要がある場合は、専門医のいる病院で手術を受けた方が良いでしょう。

術後も定期的な外来通院が必要となるため、自宅から通うことができる場所に位置しているかどうかも確認しておくと安心です。

胞状奇胎を放置するリスクを教えてください。

胞状奇胎は放置すると徐々に出血が多くなる傾向がみられます。

正常な妊娠と比べて成長速度が速いので放置しておくと妊娠6ヶ月~7ヶ月頃に分娩となり、ぶどうの房のようなものが娩出されます。分娩の際には輸血が必要になるほど多量の出血を伴う恐れがあり、入院を伴う治療が必要です。

場合によっては胞状奇胎の一部が子宮壁の内部に侵入し、侵入奇胎を発症する可能性があります。この侵入奇胎は血流に乗ると体のあちこちに運ばれ転移した状態になり、絨毛癌と呼ばれる状態へと進行する恐れがあるので注意が必要です。

絨毛癌の状態にまで進行すると、手術や抗がん剤での治療が必要になってきます。

胞状奇胎の予後と再発

治療をすれば妊娠は可能でしょうか?

子宮内内容物を取り除く手術の後に医師の指示のもとに定期的な外来通院をし、hCG値が順調に正常の範囲まで下がれば次の妊娠・分娩が可能になります。

hCG値の下降速度には個人差がありますが、2ヶ月~6ヶ月程度で正常値になるケースが多いです。hCG値が正常値に戻れば次の妊娠に影響はありませんが、必ず主治医の許可が下りてから次の妊娠へと進んでください。

一度発症した経験があっても、その後流産や胎児の染色体異常などのリスクが高まることはありませんので安心してください。

胞状奇胎の再発の可能性を教えてください。

胞状奇胎は適切に治療することによりほとんどのケースで完治しますが、約1%の確率で再発生する可能性があります。そのため過去に発症したことのある人が再び妊娠した場合は、初期の段階で超音波検査を実施する必要があります。

過去に発症した経験のある人が再び妊娠した場合は、前回治療を行った病院を受診すると安心です。

経過観察はいつまで行うのでしょうか?

術後の経過観察の目的の一つに、侵入奇胎の発症を発見することが挙げられます。侵入奇胎は術後遅くても6ヶ月以内に発症するので、最低でも6ヶ月の経過観察が必要になります。

侵入奇胎や絨毛癌の発症を早期に発見するために、その後も5年くらいの間は3~4ヶ月に一度くらいのペースで定期的に通院しhCG値の測定を受けることが望ましいです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

胞状奇胎は、妊娠初期にきちんと産婦人科を受診していれば早期に見つけることができる病気です。初期の段階では流産との判別が難しいケースもありますが、速めに適切な処置を受けることにより次の妊娠へ早めにステップアップする望みが繋がります。

発症しているにもかかわらず放置してしまうと母体が危険な状態にさらされてしまう危険もあるため、月経が遅れたり止まったりしたと感じた場合はすぐに産婦人科を受診するようにしてください。

特に月経不順の人は発見が遅れやすいので注意が必要です。日頃から月経の周期や最終月経日を把握しておくようにしましょう。

編集部まとめ


妊娠検査薬が陽性反応を示し喜んだのもつかの間、胞状奇胎の可能性があると告げられたら非常にショックを受けることかと思います。

しかしこの病気には遺伝的な要素は含まれておらず、健康なカップルの間に一定数発症する病気です。

早期に発見し適切な治療を受けることでほとんどが完治し、hCG値が正常に戻れば次の妊娠に影響を与えることもありません。

日頃から月経周期や最終月経日を把握し、月経の遅れや停止が疑われたら速やかに産婦人科を受診するようにしてください。

参考文献

絨毛性疾患|和歌山県立医科大学 産科婦人科

胞状奇胎に対する、後に癌になることを防ぐための予防的化学療法|Cochrane

胞状奇胎って何ですか?|佐野産婦人科

絨毛性疾患|名古屋大学 医学部 産婦人科

巨大な奇胎を自然娩出した後に妊娠性疱疹を発症した 全胞状奇胎の一例

胞状奇胎|MSDマニュアル家庭版