前線に送る戦車が不足してきたのか、昨今のロシア軍は予備保管状態にあった旧式戦車T-62まで引っ張り出してウクライナに送っています。ただ、攻撃力はともかく防御力は明らかに不足気味。でも、それをカバーする使い方があるそうです。

旧式だからこそ、既存技術で再整備OK!

 ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから10か月が経過しつつある中、同軍はここにきて予備保管兵器となっていた旧式のT-62戦車を再整備して、ウクライナの戦場へ送り込んでいます。しかし旧式戦車はウクライナ軍に対して有効なのでしょうか。

 ロシア軍は旧式戦車T-62をなぜ実戦部隊に配備するようにしたのか、そして同車をどのように活用しようと考えているのか、判明している情報から推察してみます。


ウクライナ軍のT-80戦車。もとはロシアが遺棄していった車体で、自軍に編入のうえ再使用している(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 T-62が保管を解かれている最大の原因は、現役のMBT(主力戦車)であるT-72やT-80がロシア軍側の想定以上に多数撃破されてしまったことです。しかも西側の経済制裁の影響などで新車の生産が滞っているのみならず、補修用部品の供給すら困難で、損傷した戦車の修理もままならないことによるMBT不足にロシア軍が陥っているからだといえるでしょう。なお、ほかにもごく少数の例ではあるものの、T-62を遠隔操縦(リモートコントロール)してデコイ(囮)として使うというケースも検討しているようです。

 このように、かなり旧式な装備を引っ張り出して使った事例としては、アメリカも、いまから半世紀ほど前のベトナム戦争中に行っています。第2次世界大戦中に開発したレシプロ(プロペラ)機のダグラスA-1「スカイレイダー」およびダグラスA-26「インベーダー」の両攻撃機を再整備してやや近代化のうえ、現役復帰させて実戦へと投入したのです。

 ジェット機全盛の中で、これら旧式機をどのように使う目論見だったのか。それは、対地攻撃のため「低空を低速で目標を視認しつつ飛び続け、大きな兵装搭載量を活かして空からの攻撃を継続的に行う」という、当時のジェット機には不向きともいえる“特別任務”を遂行するという理由からでした。

 しかし今回のT-62戦車は「最新型の枯渇を補うための旧型の復帰」であり、「あえて旧式の戦車が必要な特別任務のため」というわけではないようです。

旧式戦車T-62の使い方は?

 そうなると、復帰したT-62は、ウクライナ軍が装備する同じロシア(旧ソ連も含む)製の新型戦車や、肩撃ち式対戦車ミサイル「ジャベリン」に代表される西側の最新式対戦車兵器と戦わねばならず、これは圧倒的に不利な状況といえます。特に、待ち受けている敵と対峙することになる「攻める戦車」としての運用は、「どこから」「何で」攻撃されるかが事前にはわからず、しかも戦場を「全身丸見え」の状態で動き回らなければならないため、旧式戦車にとっては危険すぎます。


1991年の湾岸戦争にて、ダックイン状態で撃破されたイラク軍の中国製69式戦車(画像:アメリカ空軍)。

 しかし逆に、敵の「攻める戦車」を待ち受けて迎え撃つ「守る戦車」として運用するなら、車体を窪地などに隠し砲だけを出していたり(いわゆる「ダックイン」)、遮蔽壁に隠れて進撃してくる敵戦車を狙い撃ったりする戦い方であれば、脆弱な防御力を補いつつ戦うことが可能なので、旧式なT-62でも、ある程度は戦力として通用するでしょう。

 再整備されたT-62の配備の進捗具合を鑑みると、戦況的に最新型の戦車が多数損耗した時期とたまたま重なったのかも知れませんが、ロシア軍が後退しつつあり、季節も冬に向かう時期に増えているように見受けられます。

 積雪を迎えた酷寒の戦場では、「生身の人間」である将兵は寒さをしのぐため陣地にこもりますが、特に守勢に回った側は、それらの陣地を拠点に戦い続けることになります。そこで、T-62をこの防戦でメインに使おうとするなら、旧式という弱点を前述したような形で補いつつ上手く運用すれば、「守る戦車」としてそこそこ戦えるのではないでしょうか。T-62Mなら、その備砲の115mm砲から通常の砲弾に加えて9M117「バスティオン」対戦車ミサイルも発射できるので、防戦には向いているといえそうです。

「自走対戦車砲」「移動陣地」として

 なお、T-62も含めた「鋼鉄の箱」である戦車は、雪中で待機するとなると車内が極めて寒くなるため、乗員はエンジンをアイドリングさせて定期的に車内を暖めなければ耐えられません。しかし、エンジンを動かしていると、敵(ウクライナ)側の赤外線暗視装置で事前にその位置を探知されてしまい、各種火器で先に撃破される心配があります。

 しかし、たとえば乗員がツナギの電熱服を着用。車内に予備の大容量バッテリーを搭載し、そこから電源の供給を受ければ、エンジンをアイドリング状態にせずとも、バッテリーが切れるまで乗員は最低限「凍えない程度」の熱を電熱服から供給されます。


ロシア軍が遺棄したT-62戦車の前でポーズをとるウクライナ軍兵士(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 しかも、電熱服の発熱量程度では車内までは暖かくならないので車体全体は暖まらず、赤外線暗視装置での視認も難しくなります。ただ、大容量バッテリーの蓄電が切れたらエンジンを動かして充電しなければならないため、そのさい敵に視認されるか否かは運まかせとなるでしょう。

「冬将軍の国」の軍隊である以上、ロシア軍は既存の流用可能な電熱服ぐらい保有しているでしょうし、大容量バッテリーも既存品や民需品で賄うことができると推察します。もっとも、同軍にそれだけの下準備を整える「手際」と「体力」があれば、という前提付きでのハナシですが。

 このような使い方は、戦車ではなく「全周装甲を備えた自走できる対戦車砲」とでも形容するような方法ですが、ロシア軍は、守勢に回りつつある自軍の状況と、ほどなく訪れるであろう「冬将軍」を考慮し、あえて「自走対戦車砲T-62」あるいは「移動防御陣地T-62」として使うことを念頭に置いて前線投入を進めているのかもしれません。