昔ながらの道路には恐ろしく急な坂もありますが、いまは一定の基準より急な坂道は造られません。そうしたなか、あえて基準以上の急坂を造ってよいとした街も。逆に、全国より緩い基準の勾配で造らないと死活問題、という地域もあります。

坂の街は坂道の基準も「ならでは」


狭くて急な坂のイメージ。国道308号暗峠(画像:写真AC)。

「坂の街」と呼ばれる長崎市は、狭い急坂が多いことで知られます。平地が少ないことから、高台まで家が立ち並び、自動車や自転車ですら通行に難儀することも。そうした状況の解消が目指されていますが、その一環として近年、全国の基準よりも「きつい坂」をつくれるよう、独自に条例を改正しました。
 
 道路整備にあたり、勾配を抑えるのではなく、あえて急勾配を許容するという取り組み、どういうことなのでしょうか。

 道路の勾配は、国の道路構造令により全国一律で「最大12%」と定められています。ただし、急坂が多い地方公共団体は、よりきつい勾配の道路をつくれるように独自の基準を設けている場合も。そのひとつが長崎市です。市街地の約7割が斜面地という特性から、道路の勾配を「17%」まで引き上げる「長崎市市道の構造の技術的基準を定める条例」を2012年に制定しました。

 ちなみに、全国基準である勾配の限度「12%」というのは、100m進むと12m上がる坂だということ。12mはおおよそマンションの4階に相当するといわれます。これを17%まで引き上げれば100mで17mですから、プラス1階分というところでしょう。

なぜあえて「きつい坂」OKに?

 では、なぜ長崎市は、よりきつい勾配の道路を作れるようにしたのでしょうか。

 急勾配の地で全国の勾配の基準に合わせて道路を作ろうとすると、多くは栃木県の「いろは坂」のようにうねうねしたり、迂回したりする道路になります。そうすると道路は無駄に長くなって多くの用地が必要になり、道路整備費や完成までの時間も余計にかかってしまいます。そこで、勾配の基準を“緩く”することで、急勾配ながらまっすぐな道路を作れるようにしたというわけです。


長崎市の取り組み。勾配の基準を緩和することで、車道の整備をしやすくした(画像:長崎市)。

 勾配がきつくてもいい場所とは対照的に、道路の勾配を緩くしないといけない場所もあります。たとえば、北陸地方の坂は最大勾配6%、大型トラックの走行が多い道路では最大勾配4%までが限度とされています。降雪が多いため、坂を上れなくならないように傾斜を緩くしているのです。

 ちなみに、道路構造令の制定以前には、もっときつい勾配の道路が無数に作られています。クルマが通れる道で有名なものでは、大阪と奈良の境にある「暗峠」の最大勾配37%が挙げられるでしょう。100m進むと37m上がる坂を意味し、これは12階建てのビルの高さに匹敵します。