しましまフェリー鬼ヶ島行き 島民専用高速ICを通るバス… 「瀬戸芸」の乗り物が楽しすぎる!
多くの現代美術作品を楽しめる「瀬戸芸」こと瀬戸内国際芸術祭の会場は、瀬戸内の離島に分散されています。この会場を結ぶ船やバスなど、数々の“乗りもの”は、なかなか個性的です。
3年に1回開催!“瀬戸芸“を彩る“乗りもの“大集合!
瀬戸内海に浮かぶ12の島、2つの港を舞台として3年おきに開催される“瀬戸芸”こと「瀬戸内国際芸術祭」。2022年は、春と夏の会期がそれぞれ約30日間、そして9月29日(木)からは最後の秋会期が39日間催されます。
瀬戸芸の展示会場はほとんどが香川県内の離島、しかも県の東西に分かれており、会場への移動はもっぱら公共交通頼み。東エリアはほとんどの航路が高松港から、西エリアは多度津港、須田港、観音寺港などから出ているほか、島内で路線バスや臨時バスが運行されていることもあります。アートとともに数多くの乗りものを楽しまないともったいない、ともいえるのです。特徴的なものをいくつか紹介します。
女木島・男木島行きの新造フェリー「めおん」。白と赤の縞模様が特徴(宮武和多哉撮影)。
高松からは“しましま”の船〈旅客船編〉
東エリアの拠点である高松港から瀬戸芸の会場となる島へは、小豆島、直島、豊島、女木島、男木島、大島への航路が出港しています。
本土の神戸港からは「ジャンボフェリー」が小豆島(坂手港)と高松東港に通じているほか、小豆島内で土庄港まで移動すれば、そこから豊島、直島など島から島へ移動することもできます。なおこのジャンボフェリーは、瀬戸芸に縁が深い造形作家・ヤノベケンジさんの作品が船内に展示されていました(現在は終了)。
高松港からは、外観がすっぽりと赤・白の縞模様で包まれた女木島・男木島行きのフェリー「めおん」(雌雄島海運)にも乗船したいものです。2021年に就航したばかりの新造船で、デザインを建築家ユニット「ドットアーキテクツ」が手がけ、その外観は「島々を『しましま』のフェリーが進む」風景をイメージしたそうです。
「高木さん」の船も〈続・旅客船編〉
同じく高松港からの「小豆島フェリー」は、瀬戸芸のアート作品とまた違った楽しみ方ができます。同社の「第二しょうどしま丸」は、小豆島出身の漫画家・山本崇一郎さんの人気漫画「からかい上手の高木さん」に登場するキャラクターが船内外の至る所に描かれているのです。
側面に大きくラッピングされた「高木さん」を眺め、そして船内ではからかわれる側の「西片」やその同級生など、数多くのキャラクターを船内の至る所で目にすることができ、まさに作品の世界にるようです。本来なら脇役であるはずの「田辺先生(担任)」が必要以上に睨みを聴かせ、鬼教師ぶりをアピールしているのもご愛嬌。小豆島の土庄港に到着したら、世界一狭い海峡「土淵海峡」や、干潮時に姿を表す砂浜「エンジェルロード」など、作中に登場するスポットを巡るのも良いでしょう。
四国フェリー「第二しょうどしま丸」。漫画「からかい上手の高木さん」ラッピングが施されている(宮武和多哉撮影)。
一方で西エリアはコンパクトな船の就航も多く、須田港(三豊市仁尾町)から出港する粟島への小型船は、海面スレスレまで船尾を上下動させながら、複雑な潮流を突っ切っていきます。多少の揺れはあるものの、海の上を飛び渡っているかのようなスリルが味わえます。
粟島では、それぞれの想いを綴った宛先不明の手紙を展示する「漂流郵便局」や、ドラマ「ミステリと言う勿れ」ロケ地などがあります。しかしここまで来たら、会場ではない隣の志々島まで脚を伸ばして、天然記念物の大楠の下でボーッと過ごしてみるのも良いでしょう。
孤島に直接乗り入れ&「鬼の洞窟行き」?〈路線バス編〉
瀬戸芸の会場巡りでは、路線バスも意外と役に立ちます。瀬戸内の島々は高低差が激しく、道路が狭く、電動レンタサイクルでも歯が立たない箇所も多いのです。
中でも、“鬼ヶ島”こと女木島のバスは、山裾のヘアピンカーブを何度も曲がり、向かう先はその名も「鬼ヶ島大洞窟」。バスを降りて少し歩くと、昭和初期に発見されたという洞窟に入場し、中では数々の鬼のイミテーションや、瀬戸芸の作品を楽しむことができます。
ほか小豆島、直島、豊島にも路線バスがあり、中でも小豆島は土庄港から福田港へバスで向かうと1時間以上かかるほど、東西に長く広く伸びています。タイミングが合えば瀬戸芸のアート作品だけでなく、バスで寒霞渓に紅葉を見に行ったり、夕陽を眺めながら海岸線を走る「西廻り線」バスに揺られたりするのも良いでしょう。
瀬戸大橋の直下にある与島(香川県坂出市)も会場のひとつ(春会期のみ開催)。JR坂出駅から路線バスが瀬戸大橋経由で直通しています。やや年季の入った「コトサンバス」の車両は坂出ICから瀬戸大橋に入り、与島で島民専用のICを通過、三十数年前には“瀬戸大橋バブル”に湧いた観光施設の残骸を眺めつつ駆け抜けていきます。廃船を待合室に活用している浦城バス停に向かうもよし。そのままバスに乗って、画家・東山魁夷の祖父が住んでいたという櫃石島を訪ね、氏が「自然に溶け込むように」と色を指定したというライトグレーの瀬戸大橋を一望することができます。
直島の本浦集落を抜ける直島町営バス。瀬戸芸会期中の大型車両による増便は、この地区を経由しない(宮武和多哉撮影)。
与島とともに春のみ開催の会場「沙弥島」や「瀬居島」も、臨海工業団地の埋め立てによって50年以上前に四国と地続きになっているため、四国から路線バスで向かうことができます。特に坂出駅から瀬居島(瀬居町竹浦)に向かうバスは、広い臨港道路を抜けると急に狭い漁港に入っていき、船に乗らずとも“離島に上陸した気分”を味わうことができます。また沙弥島に隣接する埋立地にある「東山魁夷せとうち美術館」にも立ち寄りたいものです。
宿泊者専用のミニモノレールも〈その他の乗りもの〉
その他、数多くのアートを楽しめる「ベネッセハウスミュージアム」(直島)内の宿泊施設「オーバル」には宿泊客だけが乗れる簡易モノレール(スロープカー)が設置されています。わずか10室の部屋には全てアート作品があり、何度も訪れて違う部屋に泊まる方も多いのだとか。宿泊者は23時までミュージアムを鑑賞できるため、このモノレールでラクラクと“ナイトミュージアム”に向かうことができます。
また粟島では、「グリーンスローモビリティ」と呼ばれるゴルフカートのような乗りものが走っています。ブーメランのように横に広がっているこの島は、バス車両を走らせるような道路がなく、この車両の導入に至ったそうです。しかし現在のところ島民の方専用となっており、来島者への解放が待たれます。
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瀬戸内の離島はこういった山の中の路地が多く、会期中は杖などを貸し出している場合も。写真は高見島(宮武和多哉撮影)。
今回で5回目の開催となる瀬戸芸ですが、2022年は新型コロナウイルスの影響があり、島への渡航の前には検温・消毒の上でリストバンド(1日有効)を装着、提示しないと作品を鑑賞できないようになっています。
今年は残暑も厳しく、前出の通り島の道は狭かったり、急な坂道となっていたりする場合もあります。各会場では休憩所の設置や杖の貸し出しなどを行っているので、しっかりと休みを取りつつ、アート作品を巡りたいものです。