この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。

9月9日〜14日に行われたニューヨークファッションウィーク(以下NYFW)では、トミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、コリーナ・ストラーダ(Collina Strada)、カールラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、レベッカミンコフ(Rebecca Minkoff)がデジタルアクティベーションに着目した。そのフォーカスはRoblox(ロブロックス)、アバター、NFTであり、これらはファッションブランドがデジタル世界に関与する方法の基礎となっている。Robloxのようなゲームプラットフォームではブランドが簡単にオンボーディングして専用の制作スタジオを持つことが可能になっている。デジタルマーケティングに関するほかの斬新な試みには3Dビルボードやプロジェクションマッピングがあり、プロジェクションマッピングでは持続可能性のメッセージが打ち出された。

Robloxとの共同制作

オンラインゲームプラットフォームのRobloxは今回のNYFWで大躍進した。Robloxはデジタルオーディエンスとのエンゲージメントを求めるブランドにとって重要なプラットフォームになっているが、このファッションウィーク以前には従来のランウェイショーに関与することはなかった。トミーヒルフィガーは9月11日に開催した2022年秋のフィジタルショーでRobloxアクティベーションを起用。Robloxで購入または獲得できる共同制作のデジタルウェアが取り上げられた。ニューヨーク州ブルックリンのスクリーンにはTommy Play Robloxゲーム内のIRLランウェイの様子が表示された。ゲーマーはこのショーを見ては、自分が好きなSuperplastic(スーパープラスチック)のアバターがこの共同制作コレクションの新作を着てニューヨークのデジタルマップ内を歩く姿を視聴できた。コレクターズブランドのスーパープラスチックは、以前NFTコレクティブルでグッチ(Gucci)と提携したことがある。トミーヒルフィガーのアクティベーションの焦点はZ世代だ。「Z世代の消費者はデジタル空間に住んでいる。実際のショーでの対面や、ソーシャルメディアチャネルを通じて、または仮想環境など、彼らがいる場所で会いたいと思っている」と語るのは、ブランド創業者で主任デザイナーのトミー・ヒルフィガー氏だ。「我々は有意義なつながりを構築し、すべてのプラットフォームで民主化されたアクセスとアクセシビリティを提供したいと考えている。最終的な目標は魅力的なブランド体験をIRLとURLで提供することだ」。このイベントでは、仮想モデルと交流することによってオンラインコミュニティが没入型のランウェイ体験に参加することが可能になった。「このイベントはRobloxのグローバルコミュニティに新しいファッションを紹介するだけではなく、世界中の人々がデジタルランウェイからすぐにルックにアクセスすることができ、ユニークなこの瞬間に参加していると感じてもらえた」と述べているのは、Robloxのファッション・ビューティパートナーシップの責任者、ウィニー・バーク氏だ。消費者はトミーヒルフィガーが2017年以来進めているシー・ナウ・バイ・ナウ(see-now, buy-now、即時販売形式)でこのコレクションをすぐに購入することもできる。バーク氏によると、トミーヒルフィガーはコラボレーションに注力しており、特にRobloxで活動しているようなクリエイターに関与してもらい、同ブランドのロゴとアイデンティティを再生して打破しようとしているという。「Robloxに質の高い特注体験をもたらしてくれる世界のトップブランドを含むクリエイターコミュニティからのイノベーションを歓迎する。トミーヒルフィガーのようなブランドによってRoblox上のクリエイティビティの限界は押し広げられている」。

アバターと3D空間マーケティング

トミーヒルフィガーなどデジタルウェアに注力するブランドがある一方で、ファッションウィークのマーケティングでセレブやファッションパーソナリティの再現を試みたブランドもあった。カールラガーフェルドブランドは、亡くなったラガーフェルド氏とモデルのカーラ・デルヴィーニュ氏との「カーラ・ラブズ・カール(Cara Loves Karl)」というアバターコラボレーションを披露した。カールラガーフェルドのCEO、ピア・パオロ・リギ氏は「これはいままででもっとも重要なコラボレーションであり、我々のデジタルイノベーションに対する情熱を反映するものだ」とGlossyに語った。このコレクションはニューヨーク市ソーホー地区にある専用ポップアップで販売される予定だ。また、ミラノや上海など世界の都市でさらに14のポップアップが実施されることになっている。このアクティベーションは、ニューヨークのタイムズスクエアと中国で3Dビルボードを通じて宣伝された。バレンシアガ(Balenciaga)、ロエベ(Loewe)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)などのブランドは自社コレクションへの関心を高める方法として3Dスクリーンでカプセルコレクションを映し出している。7月に行われたGlossyとのインタビューで、ファッション・イノベーション・ エージェンシー(Fashion Innovation Agency)の責任者であるマシュー・ドリンクウォーター氏は次のように述べていた。「我々は物理的なメタバースの出現においてデジタルスクリーンが重要な役割を果たすと信じてきた。自分がその体験の一部になったと思えるほど没入感のある空間を作り出せるようになる、という発想だ」。

ブランドのメッセージを伝えるプロジェクションマッピング

レベッカミンコフのように、デジタルスペースでの持続可能性が最優先事項だと考えたデザイナーもいた。Web3での経験が長いミンコフは、持続可能なコレクションをフィーチャーした初のショーにプロジェクションマッピングを使った。プロジェクションマッピングはオブジェクトの表面にデジタル画像や動画を映し出す技術だ。それにより今回は画像をショーに統合することができた。「体験を高めたり、体験に次元を加えるために、常にテクノロジーを実験して利用してきたブランドなので、プロジェクションマッピングはうってつけだった」とミンコフ氏は語っている。「そうしてコレクションはコンクリートジャングルから(マッピングの)ジャングルに舞台を移し、ラインの全作品が持続可能な方法で調達されて制作されたというメッセージを伝えられた」。

NFTの未来

NFTのブームは沈静化したが、現存するNFTコミュニティは依然として限定イベントやファッションショーへのアクセスに関心を持っている。ミンコフ氏は、同ブランドのNFTホルダーに自分のショーへのアクセスを提供した。だが、NFTコミュニティの女性たちをより含めるように戦略を変更した。女性はミンコフの主なNFTホルダーである。「6月に行った(NFT)ドロップから、多くの女性にとって(NFT購入を行う前に)ウォレットを設定する時間が必要なことが判明した」とミンコフ氏。レベッカミンコフは、10月12日にNFTブランド、マヴィオン(Mavion)とのNFTドロップの一環として共同制作プロジェクトをローンチする。NFTホルダーは限定発売される新作バッグでカラーと金具を選ぶことができる。トミーヒルフィガーもショーでNFT記念品を配る機会を逃さなかった。対面のゲストはブルックリンの会場の外に貼られたポスターからデジタルウォレット用のNFTを入手できた。コリーナ・ストラーダのクリエイティブディレクター、ヒラリー・テイモア氏はムーンペイNFT(MoonPay NFT)と、ショーのパンフレットのQRコードからアクセスできる新作のデジタルコピーを配布した。そのデジタル服のおかげで、ショーの参加者は実際に購入が可能になる前にAIファッション企業のハートダブ(HeartDub)から服を受け取れるようになっている。スニーカーブランドのプーマ(Puma)は、初のNFTコレクションであるブラックステーション(Black Station)をそれに特化したイベントとランウェイで発表した。NFTは実際のスニーカーと引き換えることができるが、これはNFTで交換できる製品の中でもっとも人気のあるタイプとなっている。[原文:From Roblox shows to projection mapping, digital activations revved up at NYFW]ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)