食用に向かない小さなマサバやマイワシが、容赦なく漁獲されている(写真:Aoki Nobuyuki)

サンマ、サケ、スルメイカをはじめ、漁獲量の減少に関する報道が後を絶ちません。時折「前年よりも増加」などという報道もされますが、それはすでに、ものすごく減少した漁獲量に対してである場合がほとんどです。10〜20年単位でみていくと大した増加ではなく、それどころか、ほぼ全魚種が減少を続ける傾向にあります。

「日本の漁獲量が減少している」という報道はされても、「世界全体では増加している」という報道を耳にした記憶がありません。そこで、日本と世界では漁獲量の傾向がまったく異なることをファクトベースで説明します。そしてどのような対策が必要なのかについてもお話しします。まずは「知る」ことが大切です。

実は世界では漁獲(生産)量が増加している


上のグラフをご覧ください。水産白書のデータです。学校の教科書には、このデータから日本の水揚げ量が減少している部分のグラフだけが載せられています。このため1977年に設定された200海里漁業専管水域により、遠洋漁業の衰退などにより魚が獲れなくなり、後継者不足や高齢化で大変な1次産業と、先生が児童や生徒に教えてしまうのです。

これだけでは、世界で起こっている現実がまったく伝わりません。魚が消えていくことは、私たちの生活にとても身近な問題なのに……です。

次に世界全体の漁獲量推移のグラフを見てみましょう。天然と養殖を合わせ右肩上がりに増えています。1988年に1億トンに達した水揚げ量は、2020年では2億トンと倍増しています。


天然と養殖物について見てみると、天然物が横ばいであるのに対して、養殖物の数量が著しく伸びています。天然魚の水揚量は頭打ちのように見えます。しかし実態はそうではありません。

わが国は獲れるだけ獲ろうとしてそれでも獲れない状態です。一方で、北欧、北米、オセアニアなどの漁業先進国は、実際に漁獲できる数量より「大幅」に天然魚の漁獲量を制限しています。そして漁業で成功している国に共通しているのが、サスティナビリティを考慮している点です。

世界で漁獲量が増える一方で日本は減少

日本と世界の漁獲量推移を比較した上のグラフをご覧ください。世界では漁獲量の増加が進んできた時期に、日本では1200万トンから400万トンへと逆に3分1に激減しているのです。

世界全体の水揚量は増え続けているのに、日本だけが多くの魚で減り続けています。しかしこの「異常」な現実は、一般にどころか、社会科を教えているような先生方にも、ほとんど知られていません。

なぜ、子どもたちに教える先生が、世界と日本を比較した魚の資源状態のことを知らないのでしょうか? それは、先生方がその現実を学ぶ機会がほとんどないからです。

上のような世界全体と日本の水揚量推移でグラフを作ると、世界と日本の傾向が明確に異なることがわかります。このグラフ1枚をベースに、学校で世界と日本の傾向が著しく違う理由に関して授業を行えば、先生も含めてその深刻さに気づくことでしょう。


世界銀行の発表をみると、日本がいかに特例であるかがわかります。世界銀行が2010年と2030年の海域別の水揚量を予測したこの表は、世界全体では23.6%増えているのに、日本の海域だけが-9%とマイナスを示しています。しかも2030年を待たずして2015年で460万トンにまで減っており、前倒しで悪化しているのです。2021年は417万トンで減少が止まりません。

日本の漁獲量の未来に対して悲観的なのは、世界銀行だけではありません。今年(2022年)にFAO(国連食糧農業機関)から発表された2020年比の2030年の日本の予想は7.5%の減少見込みとなっています。一方で、世界全体では13.7%の増加と予想されています。世界銀行・FAOと、世界が見る日本の漁獲量の未来は非常に悲観的です。

日本の水揚げが減少した本当の理由

日本の水揚げが大幅に減った原因として、マイワシの水揚げが減少していることが理由になったりします。しかしこれは誤りで、マイワシの水揚げは、東日本大震災があった2011年以降は急激に増えており、逆に全体の水揚げ減少を抑える要因になっています。

ほかにも、「獲りすぎが起きている」と本当の理由を言わずに責任転嫁している例として、「海水温の上昇」がよくあがります。もちろん海水温は資源の増減に影響しますが、日本の海の周りにだけ起きている現象ではありません。

外国の船が獲ってしまうから、という理由もよく出てきます。しかしながらこれも、マダラ、ハタハタ、イカナゴをはじめ、外国漁船の影響はあまり関係がないケースがほとんどです。

サンマについては、国際資源です。これも公海での国別の漁獲量さえ決まっていない現状では、外国ばかりを非難しても仕方がないことを理解せねばなりません。

漁獲量の減少理由を、クジラのせいだと誤解している方がいるようです。もちろんクジラはたくさんの小魚などを食べます。アラスカなどで、群れでニシンを追い込んで一飲みにする映像をご覧になった方もいるでしょう。

IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退で日本が調査捕鯨をやめた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りにばかり、魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。次の表で太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。

日本だけ特別に影響があるわけではない


太平洋のミンククジラ(出所:IWC)

最も資源量が多いミンククジラは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋のほうが、はるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことがわかります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。

かえってノルウェー、アイスランドなどのほうが、影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々のほうが、資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。

世界の海で日本の周りばかりクジラがたくさんいて魚をバクバク食べた結果、魚が減ってしまったと責任転嫁するのは、クジラに申し訳ないのです。

「スルメイカが獲れない」というニュースを聞いたことがあるかと思います。その原因として挙がるのが、外国船による操業です。ただ、その一方で、日本では、写真のように生まれたばかりと思われる小さなスルメイカを獲って売っています。これでいいのでしょうか? 自国のことは棚に上げて外国ばかり非難しても何の解決にもつながりません。


スーパーで売っていた小さなスルメイカ(写真:筆者撮影)

日本の水産資源を復活させるには?

日本の水産資源を復活させる方法にはすでに答えがあります。その答えは「科学的根拠に基づく資源管理」です。魚種ごとに漁獲枠を決め、沿岸漁業に配慮しながら漁法ごとに漁獲枠を配分する。さらにそれを漁業者や漁船ごとに配分する(個別割当方式=IQ,ITQ,IVQなど)ことなのです。

わが国の場合は、国際合意があるクロマグロを除き、漁獲枠が大きすぎてまだ資源管理が機能していません。枠の配分を見直す(少なくする)ことで、漁業者は自ら価値が低い小さな魚や、脂がのっていないなどの価値が低い時期に魚を獲らなくなります。

魚の価値は上がり、産卵して資源を増やす機会が増えてウィンウィンとなるのです。現在は、魚が獲れない⇒小さな魚まで獲る⇒魚が減る⇒魚が獲れないといった悪循環を続けてしまっています。この負の連鎖を断ち切らねばならないのです。水産庁が進めようとしている改正漁業法に基づく改革に反対するのではなく、さらに進めていくために、正しい知識に基づく国民の理解とサポートが重要です。

(片野 歩 : 水産会社社員)