ジェリー・バスを演じるジョン・C・ライリー(左)、マジック・ジョンソンを演じるクインシー・アイザイア(真ん中)、ジェリー・ウエストを演じるジェイソン・クラーク(写真:HBO)

HBOの『ウイニング・タイム -レイカーズ帝国の誕生-』が、日本でもU-NEXTで配信開始になった。1980年代のL.A.を舞台に、レイカーズがNBAを変えていく様子を描くコメディドラマで、製作を務めたのは『ドント・ルック・アップ』(2021)のアダム・マッケイ。キャストには、ジョン・C・ライリー、ジェイソン・クラーク、サリー・フィールド、エイドリアン・ブロディなど、豪華な顔ぶれが揃う。

アメリカではいろいろな意味で(そこについては後述する)大きな話題を呼び、第2シーズンにもすぐにゴーサインが出た。

しかし、このドラマは、マッケイに喜びだけでなく悲しみと後悔ももたらしている。今作のキャスティングが理由で、マッケイは、25年来の親友ウィル・フェレルを失ってしまったのだ。

レイカーズの熱狂的なファンであるフェレルは、このドラマの主人公ジェリー・バスを演じたがった。それを知っていつつ、マッケイは、共通の友達であるジョン・C・ライリーに役をあげたのである。ビジネスパートナーとしてのマッケイとフェレルの関係にはそれ以前からヒビが入っていたが、これで友情は完全に崩壊してしまった。

ふたりで大ヒット作を次々と生み出してきた

マッケイとフェレルの出会いは、人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』。フェレルはキャストとして、マッケイはライターとして、同じ時期に採用され、番組の中でふたりは数多くのスケッチコメディを作っていった。そのうち、ふたりは、一緒に映画を作ろうと計画。売り込んだ最初の脚本は却下されたが、次に共同執筆した『俺たちニュースキャスター』(2004)はドリームワークスで製作され、スマッシュヒットとなった。

続く『タラデガ・ナイト オーバルの狼』(2006)には、ライリーも出演。今作は1億6000万ドルの大ヒットとなり、勢いに乗ったマッケイとフェレルは、プロダクション会社ゲリー・サンチェスを立ち上げた。そしてこの会社は、『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟−』(2008)、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(2010)、『パパVS新しいパパ』(2015)など、フェレルが主演するコメディ映画を次々に送り出していくのである。

だが、ある時期から、マッケイは、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)、『バイス』(2018)、HBOのドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』(2018〜)など、ただ観客を笑わせるのではない、シリアスで社会派の作品を好んで手がけるようになっていった。

フェレルが出演していないそれらの作品は、オスカーやエミーにノミネートされ、マッケイの映画監督としての株はどんどん上がっていく。一方で、フェレルとライリーが主演した、昔ながらのゲリー・サンチェスらしいコメディ映画『俺たちホームズ&ワトソン』(2018)は、批評面でも興行面でも惨敗した。

そんな中、主にフェレルの要望で、2019年、ふたりは会社を畳むことを決意。それに伴い、『ウイニング・タイム〜』は、マッケイが新しく立ち上げたプロダクション会社に移った。そしてマッケイは、ジェリー・バス役にマイケル・シャノンを起用。その時はフェレルも納得した。しかし、シャノンは、カメラを見て観客に直接話しかけるスタイルにどうも馴染めず、撮影開始の1週間前に役を降板してしまう。思わぬ緊急事態に直面したマッケイが声をかけたのは、ずっとこの役をやりたがっていたフェレルではなく、ライリーだった。しかも、マッケイはそのことをフェレルに言わなかったのである。

友達なのに教えてもらえず決裂

「彼(ライリー)から『マッケイがこれを僕にオファーしてきたんだ』と電話で聞くと、ウィルはすごく傷ついた。それを伝えたのが僕じゃなかったから。僕がそうするべきだった。僕は大きな間違いをおかしてしまった」と、マッケイは『The Hollywood Reporter』に対して語っている。

一方、ライリーは、「ウィルは僕の親友のひとり。マッケイも僕の親友のひとり。この仕事をもらえて嬉しかった。それ以外、言うことはない」と述べた。一緒にいくつもの映画を作ってきたこの3人の関係は、これで永遠に変わってしまった。

さらに、このドラマは、もうひとつの人間関係も壊している。原作のノンフィクション本『Showtime: Magic, Kareem, Riley and the Los Angeles Lakers Dynasty』を書いたジェフ・パールマンとレイカーズの関係だ。

ジェリー・バスの娘で現在のレイカーズのプレジデントであるジーニー・バスは、パールマンの書いた本を気に入っており、パールマンはレイカーズの人たちと仲が良かった。しかし、マッケイは、このドラマを作るにあたり、ディック・チェイニー元副大統領についての映画『バイス』でもそうしたように、本人たちの話は聞かないという選択をした。キャストは自分が演じる人物に会わなかったし、プロデューサーや監督もレイカーズから許可も意見ももらっていない。自分たちの話でありながら、それがどう語られるのか、レイカーズにはまったくわからないのだ。

そうやってクリエイティブ面で自由を得る一方で、事実をできるだけ忠実に描きたかったことから、マッケイらはパールマンを頼りにした。脚本執筆にはたずさわっていないものの、パールマンは、脚本や編集された映像に対して意見を言っている。それを知って以来、レイカーズの関係者は、パールマンと疎遠になった。

登場人物の造形を脚色

そして、放映が始まり、自分たちの目でドラマを見てから、おそらく彼らはもっとパールマンに反感を持つようになったに違いない。とりわけクラークが演じるジェリー・ウエストが本人とまるで違うと、彼を知る人々から苦情が出たのだ。ドラマの中で、ウエストは、かっとしてゴルフクラブを壊したり、トロフィーを窓に投げたりするが、本人は温厚な人で、そんな行動を取ったことはないという。

自分の描かれ方にも不満を持つカリーム・アブドゥル=ジャバーは、「鬱を抱えていたことをオープンに話してきたウエストを思いやることなく、面白おかしく描くのは残酷だ」と、自分のコラムの中で批判している。

それを受けて、HBOは、「よりドラマチックにするため、事実や実際に起きたことにフィクションの要素を加えることを、HBOは長いことやってきました。『ウイニング・タイム〜』はドキュメンタリーではありませんが、ここで描かれることは綿密なリサーチと信頼できる情報源にもとづいています。バスケットボールの歴史の重要な部分を語るこのドラマを作ったクリエーターとキャストを、HBOは支持します」と声明を発表した。

少なくとも、このドラマは、HBOとマッケイの関係を壊すことはなかったようだ。マッケイが手がけるもうひとつのHBOのドラマ『メディア王〜』は、来月のエミーでも、また多数の受賞が期待されている。この生き残った関係から、さらに多くの優れた作品が生み出されていくことを願うばかりだ。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)