トラブル事例も! 「リースバック」で売却後も自宅に住み続けられる? 注意点はどこ?
「リースバック」については、ARUHIマガジンの記事でも何度か取り上げられるほど、広がりを見せています。その一方で、契約内容を十分に理解しないまま契約したり、思っていたマネープランとは異なる結果になったりなどのトラブルが、見られるようになりました。そこで、国土交通省では、消費者向けのガイドブックを作成し、2022年6月に公表しました。ガイドブックには注意点が掲載されていますので、詳しく見ていきましょう。
リースバックとはどんな仕組みか
まず、リースバックとはどういった仕組みなのかを説明しましょう。
リースバックとは、正式には「sale and leaseback」といい、賃貸借契約付き売却のことです。住宅のリースバックとは、(1)自宅を第三者(不動産会社などの事業者)に売却して売却代金を受け取り、(2)売却先の事業者と住宅の賃貸借契約を結び、(3)賃借人としてそのまま住み続ける、という仕組みです。
リースバックを取り扱う事業者は増えつつありますが、各事業者でビジネスモデルに違いがあるので、契約内容もそれぞれで違ってきます。一般的にリースバックでは、売却額は相場より安く、賃料は相場より高く設定されます。賃料収入や利用者が後で買い戻す額(一般的には売却額より高く設定される)などに収益を求める事業者もいれば、一定期間賃貸借した後にリフォームをして市場で売却することに収益を求める事業者もいます。こうした違いで、それぞれの事業者でリースバックの契約条件は異なってきます。
一方で、利用する側が、売却後もずっと自宅に住み続けられるような印象を持ってしまい、細かい契約条件を見逃してしまう場合があります。加えて、不動産勧誘の際に、リースバックが悪用される事例も出ているため、健全なリースバックの普及が求められているというのが実態です。
よく理解しないまま契約すると大きなトラブルにも
国土交通省の「住宅のリースバックに関するガイドブック」(以下、ガイドブック)で紹介されている「トラブル事例」は次のようなものです。
住宅のリースバックのトラブル事例
• 強引な勧誘で契約してしまい、後々解約を申し出たら高額な違約金を請求された
• 支払賃料の合計額が数年で売却価格を超えることに後々気づいた
• 市場での取引価格より著しく低額な代金で売却してしまった
• 当初思っていた話と実際の賃貸借条件が違い、住み続けられない
トラブル事例について、補足をしておきましょう。契約について知っておきたいポイントが2点あります。ひとつは「クーリング・オフ」、もうひとつが「定期借家」です。
⼀般的な訪問販売には、⼀定期間内の無条件解約を定めたクーリング・オフが適用されます。しかし、消費者が自宅を不動産会社などの事業者に売却する契約の場合は、クーリング・オフの対象になりません。そのため契約解除をする場合は、手付金の倍返しや契約条件に定めた違約金が請求されます。
また、賃貸住宅の多くは、賃貸借契約で定めた期間が満了すると、「更新」をして住み続けることができます。これを「普通借家契約」といいます。これに対して、「定期借家契約」では、契約で取り決めた期間が満了した時点で契約が終了します。ただし、双方合意のもとで「再契約」をすれば、引き続き再契約した期間については住み続けることができます。
リースバックの賃貸借契約は、定期借家契約である場合が多いので、この違いを知らずにいると、希望すれば「更新」できると誤解をする可能性があります。また、リースバックの事業者の中には、定期借家契約の期間満了時に、再契約をしないという契約条件にしているところもありますので、この点については注意が必要です。
リースバックで後悔しないためのポイントとは?
こうしたトラブルに巻き込まれないためには、リースバックについて正しく理解しておくことが重要です。ガイドブックでは、次の7つのポイントを挙げています。
リースバックを利用する際のポイント
1. 複数の不動産業者・金融機関に相談し、ライフプランに合った条件・手法(通常の売却、融資など)を選択する
2. 事業者の営業を鵜呑みにせず、きちんと契約の条件・内容を理解し、家族・親族等と相談して決める
3. 住み続ける期間、毎月賃料を支払えるか一度計算する
4. 提示された売却価格について、複数の事業者の意見を聞いてみる
5. 買い戻しを検討する際には、「いくらで」等の条件を契約前に確認する
6. 自身が望む期間居住し続けられるのか、更新・再契約の条件等について契約書を確認する
7. リースバック期間中に設備が壊れた場合、修繕費等を負担するのは自分・事業者のどちらなのかなどについて確認する
自宅に住みながら資金を確保したい場合、リースバックのほかにも、通常の売却で引き渡しなどの時期を調整する方法や、自宅を担保に融資を受ける方法など、いくつかあります。自分のライフプランに適した方法はどれかを、よく考える必要があります。
また、勧誘を受けてそのまま契約をしてしまうのは、とてもリスクがあります。家族に相談したり、ほかの事業者の意見も聞いたりして、契約内容を納得できるまで確認することが大切です。また、契約書に希望条件がしっかり明記されているかも、必ずチェックしたいポイントです。
リースバックを正しく理解して健全な活用を
トラブル事例を見ると、リースバックの利用に不安を感じる人もいるかもしれません。リースバックの仕組み自体は問題のあるものではなく、ライフプランに適した場合であれば健全に活用できるものです。
ガイドブックでは、その利用例として、高齢者施設に住み替える例などを紹介しています。高齢者施設に入居するには一時金を支払うことが多くあります。リースバックを利用して、一時金を自宅の売却費用で支払い、入居待ちの間は定期借家契約(施設への入居時に中途解約できる条項付き)で自宅にそのまま住み続けるといった事例です。
ほかにも、買い戻しができるリースバックを活用することも考えられます。一定期間後に退去する場合であれ買い戻す場合であれ、リースバックの仕組みを正しく理解し、希望通りになるように契約内容を精査するといった利用の仕方が求められます。
なお、リースバックは、売却後に自宅に長く住み続けられるものではないので、誤解しないようにしたいものです。リースバックを検討する際には、このガイドブックに目を通しておくとよいでしょう。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)