東洋館で大トリを務め、爆笑を取った後の撮影(撮影:尾形文繁)

つい1年前までは、舞台上で目も合わせないほどの超絶“不仲”コンビだった。しかし現在、浅草フランス座演芸場東洋館、通称・東洋館へ足を運ぶと、お互いに目を合わせながら笑い合う、芸人「おぼん・こぼん」の姿が、そこにある。

「『水曜日のダウンタウン』おぼん・こぼんTHE FINAL」(昨年9月29日、10月6日放送)によって、恩讐を越えて仲直りを果たした2人。「わだかまりがないわけじゃない。普通に戻っただけ」。そう面映ゆそうに語るが、板の上で生き生きとコントやタップダンス、トークをする姿は、いかに「普通」が大事であるかを教えてくれる。

「継続は力なんだ」――。

1965年結成、芸歴57年目。どうして一緒に居続けることができたのか。ときに肩を組み、ときにケンカもした東洋館。その楽屋で、想いを訊いた。

「水曜日のダウンタウン」で大反響

約2年がかりの仲直りプロジェクト最終章、「『水曜日のダウンタウン』おぼん・こぼんTHE FINAL」は放送が終了するや、たちまち大反響を呼んだ。その後、第48回放送文化基金賞のテレビエンターテインメント番組部門の最優秀賞受賞をはじめ、2人の復活劇は多岐にわたって衆目を集めるようになる。

「コロナ禍じゃなければもっと忙しかった。中止になったものもあったからさ」

仲直りフィーバーが一段落した今の心境を問うと、おぼん(73)は若干悔しさをにじませながらそう語る。

「でも、気持ちいい。昨年末、浅草漫才大会が終わって、飲んだ帰りに道を歩いていたら、向こうからジャージを着た高校生がダーッときて、「うわ、おぼん・こぼんだ! サインして、写真撮って!」って言われて。そんなこと、あり得なかった。サッカーの全国大会で東京に来ていた高校生たちだったんだけど、すごいうれしかったなぁ」

嬉々として話すおぼんに、「そんな夜中にプラプラしてるから、彼らは1回戦で負けちゃうんだよ」と、笑いながらこぼん(73)がつっこむ。

「おぼん・こぼんTHE FINAL」放送から約8カ月。もし、再び険悪なムードに戻っていたらどうしよう……そんな筆者の余計なお世話は、杞憂に過ぎなかった。

おぼん・こぼんは、大阪福島商業高校(現・履正社高校)時代にコンビを結成。このとき、ともに17歳。学生漫才師でありながら、オーディション番組「素人名人会」、「トクホンしろうと寄席」といった番組で優勝し、スカウトされる。余談だが、「素人名人会」の会場では、当時小学生だった海原千里、後の上沼恵美子ともしのぎを削っている。

上京後は、キャバレーなどで下積み時代を過ごしたことが、自伝的回顧録『東京漫才』に詳しく書かれている。

若手時代は高級キャバレーで芸を磨く


おぼん。立ち位置は向かって右。高校時代は野球部に所属(撮影:尾形文繁)

おぼん:「俺たちには師匠がいない。だから、2人だけで芸を磨くしかない。音楽的な要素とか入れないとウケないから、週に1回、ジャズのレッスンを受けるために、先生の家に行ったりしてさ」

そして、22歳のとき、「赤坂コルドンブルー」のレギュラー出演者として抜擢される。以後、10年間ステージに立ち続けた。こぼんは、「キャバレー時代が、僕らの芸の礎になっている」と振り返る。

「赤坂コルドンブルー」は、高級キャバレー(高級レストランシアター)として一世を風靡した伝説的な遊興施設だ。1人あたりの料金は当時で5万円。ステージや衣装、出演者のギャラなどに費やす1カ月の経費は約1200万円――、現在の価値に換算すると1億円近いお金が消えていたという。

今年5月、「ENGEIグランドスラム」でおぼんがトロンボーン、こぼんがサックスを演奏する音曲漫才を披露したが、こうした芸のバックボーンは、「赤坂コルドンブルー」時代に磨かれたものだ。

業界人との接点も多かった「赤坂コルドンブルー」をきっかけに、2人は「お笑いスター誕生!!」に出演し、一度も不合格にならずに10週連続勝ち抜きグランプリを受賞する。ときは「漫才ブーム」、おぼん・こぼんのメディアへの露出は激増した。

――と、まことに簡単ではあるものの、おぼん・こぼんブレイクまでの足跡を振り返ると、以上のようになる。

天才学生漫才師としてデビューし、20代前半で「赤坂コルドンブルー」レギュラー、そして32歳で「お笑いスター誕生!!」のグランプリ受賞――、実は2人はオリエンタルラジオも真っ青のお笑いエリートだということが、おわかりいただけるだろう。紆余曲折はあった。だが、そこに悲哀はない。

おぼん:「自分で言うのもなんだけど、やっぱり持ってますよ、2人は」

こぼん:「ひょっとして苦労していたんだろうけど、それを苦労だと思わなくて、ずっと楽しい思いをしてきた感じですね」

おぼん:「そうそう。下積み時代も全然苦労なんて思わなかった。”腹減ったな、どうする? 牛乳盗みにいこうか”とか冗談言いながら」

こぼん:「冗談ですよ!」

「もっとウケたい」ともがいていた


こぼん。立ち位置は向かって左。高校時代におぼんを相方に誘う(撮影:尾形文繁)

その一方で、「今」に対しては、納得していないとおぼんは話す。スポットライトを浴びる気持ち良さを知っているからこそ、「水曜日のダウンタウン」以前の状況に、「もがいていた」と正直な気持ちを吐露する。

2010年、「キングオブコント」に出場したのも、そうした思いからだった。結果は3回戦敗退。「お金に目がくらんだ。で、えらい目にあった」とこぼんがこぼせば、「でも話題になった」とおぼんは胸を張る。

おぼん:「だって、若い人たちは誰もおぼん・こぼんを知らないじゃん。上の世代になると、“おお、懐かしい”って言われる。それも悔しかった。今だって、もがいてる最中。もっとウケたいし、もっとレギュラー番組もほしい。そういう気持ちは常にありますよ」

しかし、その隣でこぼんは、「もうさんざんやってきたんだからいいんじゃないですかなんて思うんですけどね」と微苦笑を浮かべる。「水曜日のダウンタウン」の影響も、「現象みたいなもの」と冷静に受け止めている姿が印象的だ。

『東京漫才』を読むと、アカレンジャー気質/体育会系のおぼん、アオレンジャー気質/文化系のこぼん、という姿が浮かび上がってくる。2人のキャラクターはまったく違う。仲が良いときは、お互いを補完するような関係になるだろうが、悪いときは相容れない。「水曜日のダウンタウン」でも、相反する姿が幾度となく映し出されていた。

ここ数年間は、最悪の状況だった。なぜ、踏みとどまれたのか?

おぼん:「俺たちは、歌って踊って笑わせるようなステージ、ショービジネスが大好きなの。これがどっちかに偏っていたら、たとえば漫才だけとか音楽だけとかだったら、別れていたと思う。一緒にタップを踏んだりハモったりするのが好きなんだ。同じ目標に向かって走れて、それでいてお金ももらえるんだから最高(笑)」

こぼん:「いろいろなパターンがあるんですよね。漫才を足掛かりにしてMCをやりたいとか、それもわかります。でも、何を目指しているのかっていうのは大事だと思いますよ」

先述したように、2人の大きなバックボーンとなっているのはショービスの世界だ。取材当日、東洋館で披露したネタは、タップダンスに始まり、医者と患者のコント、そしてフリートークという具合に、枠に収まることのない20分だった。

マネージャーから見たおぼん・こぼん

40年以上にわたり、おぼん・こぼんのマネージャーを務めてきた谷川金市さんが明かす。

「タップを踏んだりフリートークは、いつもやっていたこと。でも、普通の関係に戻ったことで、打ち合わせをしたり、『今日はコントをやろう』といったやりとりが復活した。そういった光景を目にすると、僕もうれしい」

そして、「2人とも目指すところが一緒なんですよ。やっぱりエンターテインメントが好きで、お客さんが笑っていたり、楽しんでいたりする姿が好きなんですよ」と続ける。

「水曜日のダウンタウン」を見ていた人ならわかるだろう。両者の間に入り、耳を傾け続けてきた谷川さんは、“3人目のおぼん・こぼん”と呼びたくなる存在だった。「この数年、谷川さんも大変だったのでは?」と聞くと。

「おぼんさんもこぼんさんも、“きつい”って言うんですけど、僕は2人からその意見を聞いている。だから、僕は2人分きつい(笑)。でも、彼らが僕に言うことによって、クッションになっていたところもある。それで気持ちが落ち着いたり、冷静になれたりするんだったら、それでいい」(谷川さん)

奇跡の仲直り。そんな言葉も聞こえてくるが、奇跡は日々の積み重ねなくして起こり得ないことがわかる。2人の仲直りをきっかけに、「私たちも仲直りしました」といった声も届くという。おぼんは「そういうのってホントうれしい」と目を細める。

「僕らは夫婦みたいなもの」

おぼん:「同じ目標を持てるかっていうのは大事だと思う。なんでもいいんだよ。リタイアした後に、夫婦で海外旅行に行こうとか豪華客船に乗ろうとかさ。目標のない人生ってつまらない。目指せるものを共有するって大事だよ」

こぼん:「僕らは夫婦みたいなもの。倦怠期があったりするのは仕方がないわけで。人にアドバイスできるようなものは、本当に何もないですけど(笑)。でも、お客さんが笑っている姿を見ると楽しい」

おぼん:「うん。ホントそう」

こぼん:「30年も40年もやって、ちょっと方向が違うっていう人たちもいると思うんですけど、“もっと早くに気がつけよ”って思います(笑)。僕たちは、自分たちの個人的な感情を、とりあえずそのときは置いておこうってなれることをしているから」

元通りというわけにはいかないだろうが、普通に戻ることはできるだろう。もしかしたら、また関係性が悪くなる可能性だってある。実際、記者会見やテレビ番組などで、おぼんがこぼんにキスをするといった仲良しアピールをする姿を見ると、ヒヤヒヤしてしまう。

「それ、みんな言うんだよ!」、そう笑いながらおぼんが語る。

おぼん:「松鶴家千代若・千代菊さんという方がいてさ。最後の漫才大会のとき、千代若さんが91歳くらいで、千代菊さんが80いくつだった。2人ともよぼよぼで、舞台袖からセンターマイクまでストロークが長い舞台だったから、ぜんぜん進まないの」

こぼん:「すごい時間がかかっているのに、2人とも一切気にしない。次第に、お客さんも笑っちゃうんですよ」

生き様そのものが笑いになる境地へ

おぼん:「ようやくセンターマイクに着いたと思ったら、“早く帰ろ”って。それだけでドカーンよ」


こぼん:「もう演技なんてないです。生き様だけで面白い」

おぼん:「長く続けていたら、そういうこともできるようになる。継続は力よ。俺らも、そういうことができるようになりたい」

2人が仲良しアピールをすればするほど、ヒヤヒヤしてしまうのは、我々が2人の手のひらで踊らされているだけなのかもしれない。おぼん・こぼんにしかできない虚実の世界。

コンビであり続け、再び握手を交わした今、きっとそれすらもエンターテインメントの世界に身を置いてきた二人なら、「芸」にしてしまうに違いない。

(この記事の後編:おぼん・こぼん「人生チャンスは3回」不仲も活かす

(我妻 弘崇 : フリーライター)