TikTokやSNSでポピュラーになった縦長動画に着目した新趣向の小型ドローン「DJI Mini 3 Pro」が中国DJIから登場しました。ドローン前面のカメラが90度回転し、縦位置(縦長)の動画が撮影できるのが特徴です。ドローンで縦長動画を撮るとどんな仕上がりになるのか、どのような楽しさがあるのか、ドローンに詳しい大浦カメラマンが検証しました。

Miniシリーズとして完成度が飛躍的に高まったDJI Mini 3。縦位置動画が撮れるようになり、インフルエンサーなどからも注目を集めそうです。DJI直販サイトでの価格は、RC-N1送信機が付属するキットが106,700円、5.5インチディスプレイを搭載するDJI RC送信機が付属するキットが119,900円となります

“重量200g未満”の縛りを脱し、飛行時間など実用性をアップ

DJI Mini 3 Proは、初代「Mavic mini」から数えてMiniシリーズ3世代目のドローン。DJIのドローンではエントリークラスに位置付けられるシリーズで、軽量でコンパクトな機体と、比較的手に入れやすい価格が魅力となっています。DJI Mini 3 Proがこれまでと大きく変わった部分をいくつかピックアップして紹介したいと思います。

従来のMiniシリーズに比べてアームは長く、プロペラも大きいDJI Mini 3。飛行中の安定感も増しています。写真のプロポは、5.5インチディスプレイを搭載するDJI RCです

アームを折り畳んだ状態。この状態であれば、これまでのMiniシリーズと大きさはそう変わりません。カメラバッグにも容易に収納できそうです

まずは、バッテリーを含むドローン本体の重量がアップしたことでしょう。2世代目の「DJI Mini 2」までは、日本国内で発売される正規輸入品はバッテリーも含め199gの機体重量としており、それが“売り”となっていました。その重量であれば、航空法の適用を受けない200g未満の模型航空機(トイドローン)に分類され、手軽に飛ばせたからです。

ところが、本年6月20日から施行される改正航空法では、模型航空機は機体重量100g未満となり、それ以上の重量のドローンは航空法の規制が及ぶ無人航空機に分類されるようになりました。機体登録制度についても、機体重量100g以上のドローンすべててに登録が義務付けられるようになります。そのような経緯により、200g未満にこだわる意味がなくなったことが今回の重量アップにつながった理由でしょう。

ちなみに、DJI Mini 3 Proの機体重量はこれまでよりも50g重い249g。北米をはじめとする海外の法規制では250g未満を模型航空機とすることが多く、それに合わせたものといえます。

飛行前の点検を行う筆者。DJI Mini 3の機体重量は従来よりも50g増え、249gに。プロペラも一回り大きくなり、より安定した飛行を提供してくれます

機体登録に関しては、DJI Mini 3 ProはリモートID機能に対応予定としています。この機能は遠隔から機体を識別するためのもので、機体登録制度の登録記号や製造番号などをアプリ経由でドローン本体に内蔵されたリモートIDチップに読み込ませ、それを無線信号として発信するものです。DJIのアナウンスによりますと、対応は2022年6月20日以降を予定とのことですので、ユーザーはメーカーの発表に注意しておくとよいでしょう(2世代目のDJI Mini 2もリモートID機能に対応予定です)。

飛行の安定性も、クラスを考えれば特筆すべきところ。もともとMavic mini/DJI Mini 2も飛行時の安定度はトイドローンとしては圧倒的で、それまでの概念を大きく覆すほどでした。DJI Mini 3 Proは、Mavic mini/DJI Mini 2よりも前述のように50g重いうえにプロペラも一回り大きく、その分安定度がより増した結果と思われます。今回の作例撮影でフライトを行ったときは、常時3〜4mほどの風が吹いていましたが、ホバリング時などの安定感は上位モデルの「Mavic Air 2」と変わらないほどで、写真や動画撮影では3軸ジンバルの高精度なブレ補正とともに安心して臨めました。

障害物検知センサーであるビジョンシステムを、Miniシリーズとして初めて前方、後方、そして下方に搭載したことも注目しておきたい部分です(下方の赤外線センサーは従来から搭載)。飛行の安全度は飛躍的に向上し、ストレスなく飛行が楽しめます。DJIの民生用ドローンがこれほどまでに市民権を得ている理由のひとつが、やはりこの安全性能の高さにあります。DJI Mini 3 Pro は、ある意味同社のドローンらしくなったと述べてよいでしょう。

両側面近くには、下方ビジョンシステムを備えます。それに挟まれるようにある2つの小さな丸い穴は赤外線検知システムです。いずれも、機体の真下の地形を把握したり、地面との距離を測定するのに用いられます

バッテリーの持ちがよくなったのも、忘れてはならない部分です。メーカー発表値となりますが、Mavic miniおよびDJI Mini 2の18分(いずれも日本国内仕様の場合)から、DJI Mini 3 Proでは34分(標準のインテリジェントフライトバッテリーの場合)に延びました。さらに、オプションのインテリジェントフライトバッテリーPlusでは、何と47分の飛行が可能で、余裕を持ったフライトを実現しています。安定感の高い飛行性能に小型の機体、3方向の障害物検知センサー、そして長時間のフライトを可能とするバッテリーで、攻めたドローン映像の撮影が楽しめそうです。

標準のインテリジェントフライトバッテリー。容量は2453mAhで、最大飛行時間は34分。オプションのインテリジェントフライトバッテリーPlusの場合では、容量3850mAh、最大飛行時間は47分となります(いずれもメーカー発表値)

充電用のホルダーは、そのままインテリジェントフライトバッテリーの収納ケースとなります。バッテリーの残量も、このホルダーでチェックできます

ドローンで撮影する縦位置動画、遠近感があり目新しい

忘れてはならない新機能といえば、縦位置撮影を可能としたことでしょう。ジンバルに懸架したカメラが90度回転し、静止画および動画とも縦位置撮影が楽しめます。今や静止画や動画を閲覧するにしても、パソコンではなくスマートフォンのことが多く、そのデフォルトは縦位置です。また、TikTokやInstagram/Facebookのリールなど動画投稿サイトは、やはりスマートフォンでの撮影や閲覧を前提としているため、縦位置が基本となります。横位置撮影が基本だったドローンが縦位置撮影機能を搭載したことは、いまどきのユーザーニーズに対応した結果といえます。



【動画】縦位置動画に挑戦してみました。思った以上に遠近感が得られ、横位置とは一味違う動画となりました。パソコンで見るよりも、スマートフォンで見たほうがより自然に馴染みやすく感じます

縦位置撮影を行うための設定は簡単で、フライトモードの画面上にある縦位置撮影ボタンをタップするだけ。ジンバルに載ったカメラが瞬時にくるっと回転し、縦位置になります。横位置は広がり感が得られやすいのに対し、縦位置は奥行き感が得られやすいのが表現の特徴となります。今後、同社のほかのドローンにも同様の機能が採用されそうに思えます。なお、横位置の場合も含め、上方向60度までカメラをチルトできます。

カメラを縦位置にした状態。TikTokをはじめ、動画投稿サイトに投稿される動画は、スマホで閲覧することを考えて縦位置であることがほとんどで、それに応えたものといえます。カメラの上部、目のように見えるのは障害物検知センサーである前方ビジョンシステム。この背面にも後方ビジョンシステムを備えています

カメラを縦位置にしての撮影。岩のディテールなどを緻密に再現しており、リアル感のある写りです。画角は35mm判換算で24mm相当となります

縦位置で撮影すると、奥行き感のある写真となります。これまでドローンで撮影した写真は構造上横位置のみだったので、縦位置にするととても新鮮にも感じられます

こちらもカメラを縦位置にしての撮影ですが、カメラを真下に向けた場合、静止画では縦位置も横位置も関係ないものとなります。高度は航空法で定められた150mよりもわずかに低い149mからの撮影となります

搭載するカメラは、1/1.3インチCMOSセンサー(有効4800万画素)と、35mm判換算で24mm相当のレンズを採用。静止画ではJPEGとDNGフォーマットでの記録を、動画では4K HDRでの記録を可能としています。動画の記録フォーマットはMP4に加え、MacやiPhone/iPadなどでの再生に最適なMOVでの記録もシリーズとしては初めて採用。ビットレートも向上しており、150Mbpsでの動画記録を可能としています。

モニター一体型のプロポは便利だが、晴れた屋外では難あり

今回メーカーから借りたDJI Mini 3 Proには、モニター一体型のプロポ「DJI RC」が付いてきました。一般的に、ドローンのプロポには手持ちのスマートフォンやタブレットを装着して使うことが多いのですが、装着が面倒だったり、スマートフォン側のバッテリーも消耗するなど不便なところも少なくありません。古いスマホでは、フライトアプリが正常に動かないこともあります。

DJI Mini 3には、スマートフォンを装着して使用するRC-N1とのキットもありますが、DJI RCとのキットは、それよりも13,000円ほど高いだけ。スマートフォンの装着を不要とすることなども含め、値ごろ感があるように思われます

モニター一体型ならばそのようなことがなく、プロポの電源をオンにすればすべてが起動するので、とても手軽です。ただし、DJI RCのモニターは輝度が低く、晴天の明るい屋外では見にくくなることが多かったのはちょっと残念に思える部分です。また、DJI RCでは構造上モニターシェードを装着することができず、晴天下の撮影では少々難儀したことも付け加えておきます。

補足した被写体を追い続けるフォーカストラックや、さまざまなフライトを自動で行って同時に映像を記録するクイックショットモードも、これまでと同様に搭載しています。わずか重量249gのDJI Mini 3 Proですが、新たに加わった縦位置撮影機能で、その表現の可能性は大きく進化したように思えます。

著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら