日本の「現在地」が、改めてはっきりした。

 カタールW杯アジア最終予選までは、「引いた相手をどう崩すのか」がメインテーマだった。しかし、W杯では格上の相手の攻撃を食い止め、そのうえで攻めに出ていかなければならない。

 6月6日のブラジル戦で、日本は18本のシュートを浴びた。高い位置でボールを奪うことは限定的で、ペナルティエリア内でのシュートブロックが続いた。

 それでも、失点は77分のPKのみにとどめた。ブラジルの決定力不足に助けられたところはあったものの、粘り強い守備で対抗することはできたと言える。ブラジル相手にもそれなりに守ることはできたのだが、無失点に抑えることはできなかった。

 ネイマールのPKでスコアが動かなかったら、ブラジルは残り時間で攻勢を強めたとも考えられる。リードを奪ったあとの彼らは、緩やかにペースダウンをしていった。この試合はテストマッチだ。1対0でもOK、と考えたのだろう。
 
 攻撃はどうだったか。

 ブラジル戦を前にした森保監督は、「相手にボールを持たれたら、いい守備をしながら奪うチャンスを逃さない。奪って素早い攻撃へつなげる。相手にスピードを止められたら、全員が勇気を持ってボールに関わって、保持しながら相手の守備網を崩す」と話していた。

 素早い攻撃は仕掛けられなかった。カウンターの芽はブラジルに摘み取られていった。

 ボールを保持することについては、それなりにできただろう。ボールに関わることを、恐れているような選手はいなかった。

「なかなかこじ開けさせてくれないのは現実的なところだが、前半の入りから難しいプレッシャーになっていたなかで、やり続けることで後半はかなり相手のブロックの中に入っていき、アタッキングサードにも入っていけた」とは、試合後の森保監督である。

 しかし、決定機は作っていない。ブラジルを慌てさせることはできず、シュートはわずかに4本である。W杯アジア最終予選で日本の攻め筋となった伊東純也も、途中出場のジョーカーとして機能した三笘薫も、決定的な仕事はできなかった。

 前半から守備にパワーを割くことになり、アタッカー陣も自陣へ下がらざるを得なかった。攻撃のスタートラインは自陣の、それも後方からとなり、厚みのある攻撃ができなかった。ブラジルの守備を「個」で破ることも、「組織」で崩すこともできなかった。

 ブラジルに最少得点差で食い下がったが、勝つことはできなかった。W杯なら勝点「0」である。

 本大会までの残り5か月ほどで、残り4試合のテストマッチで、世界のトップ・オブ・トップとの距離を縮めることができるのか。ドイツやスペインをはるかに上回る成長を見せて、力関係を縮めることができるのか。

 現実的には難しいだろう。

 東京五輪の準決勝でスペインに敗れた試合は、彼我の実力差を残酷なまでに表わしていた。スコアは0対1でも、埋め切れない差が横たわっていた。

 あれから1年と少しで、スペインを上回るのは難しい。それは分かっていたのだが、実際に対戦してみないと判断できないことはあり、ブラジル戦は日本の「現在地」を浮き彫りにした。

 W杯アジア最終予選と同じ戦いぶりでは、ドイツやスペインに勝てない。そうかと言って、南アフリカW杯のような守備的な戦いを選ぶべきではない。

 活路を見出せるとしたら、カウンターである。「守」から「攻」への切り替えで相手を上回り、相手ゴールへ迫っていくのは、現実的で実効的な戦略だ。しかも、森保監督の手元には浅野拓磨、古橋亨梧、前田大然ら、カウンターを成立させるのにふさわしいタレントもいる。

 カウンターにつながるパスを出せる選手も登場している。伊藤洋輝だ。2日のパラグアイ戦で代表デビューを飾った23歳は、中長距離のフィードを得意としている。DFとしてのクオリティも、代表でプレーするレベルにある。

 カウンターを繰り出すことで、ポゼッションが生きる。CKやFKの脅威度が高まれば、アタッキングサードでの攻防で優位に立てる。相手は反則を警戒し、うかつに飛び込めない。突き詰めて考えれば、様々な得点パターンを持つことが勝利への近道なのだ。

 2日のパラグアイ戦、6日のブラジル戦に続いて10日にガーナ、14日にチリまたはチュニジアと対戦する6月シリーズは、選手の見極めとW杯仕様の戦いかたの構築を目的としている。鎌田大地をインサイドハーフで起用し、長友佑都を右サイドバックで使うなど、選手起用の幅が広がっている。あとは、W杯仕様の戦いかたをどこに見出すのか。カウンター一辺倒になる必要はないが、相手に脅威を与えられる武器には仕上げたい。このところ得点につながっていないリスタートも、練度を高めていくべきだ。