婚活のオンライン化で見えてきた「チェックシート思考」の克服法 - 立川智也

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※この記事は2020年10月02日にBLOGOSで公開されたものです

婚活業界が活況です。弊社・よすが結婚相談所が加盟している日本最大の結婚相談所ネットワーク「日本結婚相談所連盟」の発表によれば、2020年8月の同連盟内お見合い数は41,744件と過去最高を記録し、7月(39,660件)と比較しても5%増の伸びとなりました。(参考 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000453.000007950.html#:~:text=%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BEIBJ%EF%BC%88%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E5%8F%96%E7%B7%A0%E5%BD%B9,%E3%81%8C%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 )。

よすが結婚相談所所長の私自身の肌感覚でも、その勢いは確かに感じられ、特にお盆休み以降はお相手を探す活動が全体的に活発になっていることを感じます。長期トレンドでは変わらず非婚化が進んでいますが、コロナ禍においてはこのように”結婚を希望する方々の”結婚への意欲は高まっています。

お見合いの形も多様化しました。これまでは必ず対面で会っていたのですが、(主にZoomによる)オンラインお見合いという選択肢が生まれました。外出については今年の5~6月頃に比べると大分元に戻ってきましたが、一度皆がオンラインお見合いに慣れたことによって「お見合いや交際は対面でも、オンラインでも」となり、ある意味でコロナ前よりもお相手が探しやすい状況になっています。婚活業界全体がアップデートしたのです。

そのような中、私は一つの興味深い事実に気がつきました。対面でのお見合いやデートを希望する女性が、予想していたよりも遥かに多いということです。

元々お見合いやデートについては、女性よりも男性の方がフットワークが軽く、女性は男性よりも外出する労力を重く感じる傾向があります。そのため私は当初「対面かオンラインかを選べる場面において、女性はオンラインを選ぶのではないか」という仮説を持っていました。しかし実際に蓋を開けてみると、対面での活動を希望する女性が予想以上に多くいらっしゃったのです。

コロナ下で特徴的な恋愛 たどり着いた仮説とは

気になった私は、複数の女性へのヒアリングを行いました。そしてその結果を過去から蓄積してきたデータと照らし合わせることで、おそらくこうではないか?という新たな仮説にたどり着きました。

多くの女性から挙がった声は「オンラインでは相手がどんな人か分からない」というものでした。もちろんこれは当然男性の側から見ても同じで、Zoomを通じた会話で得られる情報量は基本的には対面よりも少なくなります。シンプルに「対面の方が分かることが多い」ということです。

ただ、その声を更に深掘りして聞いていくとどうやら男女差があり、男性が言う「オンラインだと分からない」は「判断するための情報量が少ないが、少ないなりに判断はできる」なのに対し、女性は「情報量が少ないので判断そのものができない」というニュアンスの違いがあることが分かってきました。この違いは一体どこから来るのでしょうか?(なお、この差に関しては男女の決断力の違いという見方もできますが、本稿では一旦それ以外の要因に着目します)

あくまでも傾向の話にはなりますが、男性が女性を見る目線は「自分に刺さるポイントが1点でもあるか無いか」であり、女性が男性を見る目線は「総合評価」です。

男性が相手の女性を好きになる理由は、例外もありますが「顔が好み」とか「趣味が合う」など、シンプルである場合が多いです。お見合いの前でも、男性は相手の女性のプロフィールをしっかりとは読んでいない傾向があります。

女性が持つふさわしい男性かのチェックシート

一方で、これもあくまで傾向ですが、女性は自分の中に「男性が結婚相手としてふさわしいか判断するためのチェックシート」を持っており、そのチェックシートに基づいて相手を判断します。ですから大抵の女性はお見合い前には相手男性のプロフィールを隅から隅まで読んでいるのです。

まとめると、男性の目線の「顔が好み」「趣味が合う」といったポイントはオンラインでもある程度分かるのに対し、女性の目線である「私が考えた(時に100を超える項目が羅列された)チェックシート」はオンラインで得られる情報だけでは判断がつかないのです。おそらくこれが、対面での婚活を希望する女性が多い理由です。

さて、彼女達のような「チェックシート女子」は、そのこだわりが軽いものなら問題無いのですが、強すぎてしまうと本人が苦しむことになります。

簡単な数学で考えてみましょう。例えば全男性の90%があてはまる項目を設定したとします。それが5個の場合、全てを満たす男性の割合は以下のようになります。

 0.9 × 0.9 × 0.9 × 0.9 × 0.9 = 59.0%

約60%です。これならば問題無い範囲かと思います。

もし、倍の10個あったとしたらどうでしょうか。

 0.9 × 0.9 × ‥‥‥× 0.9 = 0.9^10 = 34.9%

約3分の1です。かなり絞られました。

最後に20個で計算してみましょう。

 0.9 × 0.9 × ‥‥‥× 0.9 = 0.9^20 = 12.2%

世の男性の12%しか候補になりえないというのは、やや非現実的かもしれません。

この数字をどう考えるかということについて、2040年の男性の50歳時点未婚率が「29.5%」という推計値であることが一つの手がかりになります(参考 https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/02-01-01-02.html )。

これを上記のような「全男性の90%があてはまる項目を設定したチェックシート」で考えると、項目を3個設定した場合に全てを満たす男性の割合が 0.9 × 0.9 × 0.9 = 72.9% となり、男性の50歳時点未婚率「29.5%」(=70.5%の男性は既婚)と概ね符合します。この2つの数字の関係から何かを断言することはできませんが、しかし一つの目安にはなるはずです。

このように「チェックシート思考」を数学的に分解すると、感覚的に思うより遥かにやっかいであることが分かります。弊結婚相談所のスタッフはこれを「チェックシートの呪い」と呼んで恐れているくらいです。「チェック項目を減らすべき」というのは確かにぐうの音も出ない正論ですが、人の感情を正論で変えることができたら苦労はしないのです。

ではこのようなチェックシート思考からなかなか抜け出せない人はどうすれば良いのでしょうか。 実はその答えもまた「オンラインお見合い」にあります。

オンラインよりオフライン 交際成立の傾向は

オンラインお見合いが活発になり出した頃、業界中が一斉に話題にしたことがあります。それが「オンラインお見合いの方が”交際”が成立する確率が高い」という事実です。

一般的な現代のお見合いでは、まず初めに二人で会った(=お見合い)後に、男女それぞれに「相手との交際を希望しますか?」と伺います。そこでお互いの答えがYesであれば交際成立、どちらか一方でもNoであれば交際不成立です。お見合いで初めて会った男女は、その後の交際期間で徐々にお互いの内面のことを知っていくことになります。

そのような流れの中で交際の成立率というのは非常に重要な指標なのですが、それがオンラインお見合いだと上がるのです。その理由として私が最有力視しているのがまさに「オンラインでの会話では得られる情報量が少ない」というものなのです。

ご存知の方も多いかと思いますが、心理学で「単純接触効果」というものがあります。会う回数が増える程、相手に好感を持つという人間の心理です。実はこの単純接触効果は「チェックシート思考」を持つ人がうまく婚活を進める鍵になります。

初対面の人からいきなり重い自己開示をされてもなかなか受け止め難いですが、何度か会って知った仲であれば受け止めやすくなる、といった経験をしたことはありませんか?その現象は「好感が無い状態では受け止められないが、単純接触効果により好感がある状態であれば受け止めやすくなる」と整理することができます。

つまり、チェックシート思考を持つ人がうまく婚活を進めるには「まずオンラインで会ってみて、情報が少ない中で(=好感が無い状態で)一旦はもう一度会うと決めてみる。その後徐々に(=好感がある状態になったら)自分のチェック項目を確認する」ことが一つの解決策になりうるということです。しかも幸運なことに、このやり方はコロナ禍によりオンライン化が進んだ現在においてむしろやりやすくなっています。これを読んでくださっていて「自分はチェックシート思考かもしれない」とお心当たりのある方には、ぜひ試していただきたい方法です。

今の世の中は情報が多すぎます。婚活でも人生でも、うまくいかない時は得る情報を増やすのではなく、あえて減らしてみるのも一つの手かもしれません。